1000円の昼飯
黒騎はパーラー・クリスタル……ではなく、
電車で20分ほど揺らされた先にある町の、
名もないパチンコ店に入店した。
彼の普段着は、パーラー・クリスタルの黒の外套と銀のネックレス……ではなく、
31歳の年齢にマッチした、普通の服装。
目をつけられる要素のない、地味でも派手でもない、
普通の服装だ。
「ここで、パチンコを教えてくれるんですか?」
「ああ」
当麻が、黒騎の後に続く。
彼は自前の服装で、こちらは地味そのものだ。
「まあ、当麻の能力を調べるって意味合いもあるがな」
「!? 能力のこと喋ったらマズイですよ!」
声を潜めて当麻が慌てるが、
黒騎は鼻で笑った。
「普通そんなオカルトじみた話しても、
誰も信じねえよ」
「あ……そうですね」
パーラー・クリスタルの客入りを鑑みると、
入りは悪い。午前中というのもあるが、稼働率1割あるかないかだ。
「……寂しいですね」
「普通はこんなもんさ。
あの店が異常なんだよ。
ところで、今日はいくら持ってきた?」
「5万円ほど」
「まぁ、それだけありゃあ十分か」
当麻はいつも通りデータカウンターを見た。
やはり、大当たり回数はここでも見れる。
「じゃあまず、お前の能力の弱点を教える。
……この台だが、これ、何回だ?」
「5回です」
「そうか。で、それはいつ当たる?」
「……え?」
黒騎はニヤニヤ笑う。
「その大当たりはいつ来る?
何回転後に来るのかはわかるか?」
「そこまでは……」
「だろうな。
それも分かったら異常だ」
「今も十分異常です」
黒騎曰く、
大当たりは、特定回転数回した先に現れる。
それを掴み、連するか否かは運次第だ。
勿論連しなければ、勝つことは出来ない。
当麻の能力は、
その日の大当たり回数を見ることで連するか否かを判断できる。
しかし、その大当たりがいつ来るか、
いつまで回せば良いのか? それがわからない。
「お前の能力は、早朝には向かない。
仮に100回大当たりだとしても、
投資額が重いと旨味が少ない」
「もっと遅くにってことですか?」
「そうだ。夕方辺りに入店し、
現在の大当たり回数と、予想大当たり回数を比較。
幅が多いものを選ぶんだ」
「なるほど! わかりまし―――」
黒騎のチョップが当麻の脳天に刺さる。
「昨日の失敗忘れたのかお前、
台を知らずに打つんじゃねえ。
特に2R通常台は論外だ」
「は、い゛……」
とりあえず適当な台に座れと指示する黒騎。
当麻は大当たり回数20の台に座ったが、
「……あれ、71?」
「何?」
「大当たり回数が……変わりました……」
「……なるほど。そういう使いみちもあるのか」
遠隔操作。
大当たり演出の突発的挿入。
大当たりの回避。
使用用途は多々ある店の介入行為を指す。
ただし、これを行なったことがバレた場合、
閉店に追いつめられる、
反則行為でもある。
「わかるか当麻。
店によってはこういう、信用第二の方針だってある。
パチンコ衰退の原因だ」
「パチンコ衰退?」
「知らねえのか。今のパチンコは、
最盛期に比べて減少傾向が強い。
……出ないし回らねえし、
こういう店もある」
1/99の台が、
600回回しても当たらないのは、
台の仕様だと言う人もいる。
しかし、遠隔ではないかという者もいる。
真実は銀河の中。
誰も知らない。
「いいか。とりあえず台に座り、
その台の特徴、
大当たり比率、STか否か?
それらを見ておけ。
演出はまぁざっとでイイ」
「わかりました」
遠隔店だと知っても、
とりあえず2人は打った。
色々な台の大当たり比率や、
確率なども交えて参照し、
どれが自分にあっているかを確認する当麻。
勝っても負けてもいない、
トントンの段階で2人は店を出ると、
近くにあるラーメン屋に入る。
当麻はチャーシュー麺、餃子。
黒騎はラーメンだけだ。
「黒騎さん……お腹すいてないんですか?」
「馬鹿野郎。チャーシュー麺と餃子って、
1000円以上かかるメニュー選びやがって」
「1000円超えたらマズイんですか?」
「ああ? パチンコで1000円は死活問題だろ?
あるとないとで、最後のひと押しが出来るかなんだから」
「……意外にケチなんですね」
「よぉおしわかった。
俺と喧嘩してえようだな?」
「そこまで言ってませんよ!?」
その場は当麻が、
勉強量だということで奢りになった。
奢りになった途端、
「じゃあ俺は餃子と炒飯追加で」
「やっぱりケチじゃないですか!?」
これが月給1000万円というのだから、
ケチというのも納得できる。
遠隔か疑わしいと思った事例。
私が 1/99 の台を打った話です。
それはST9回転以内の大当たりで突破。
何%かの細い確率で16Rという台でした。
通路を挟んで背中合わせに同じ台がありまして、
私と、名も知らぬ誰かが座っています。
先に大当たりをしたのは後ろの方。
2度目の大当たりは5回転の、
16R。
これはまあよくあることです。
しかしその直後、私も大当たりし、
全く同じ場面で16Rを出しました。
私は、遠隔を覚悟しました。
皆さんもそういう事例……ありませんか?