銀河
人の怨嗟の声があった。
人の歓喜の声があった。
銀球煌めく銀河は、
人の夢と希望、絶望と破滅を糧として、
今日もとめどなく輝き続けている。
そんな銀河は、
人を惑わし狂わせる、
神秘的で怪しげな魅力をたたえていた。
日々終わらず、とうとうと流れる銀河に魅せられ、
負ける、打ってはいけない、この金は借り物だと、
拒む気持ちをとろかしていく。
心の錠前など、銀河の魅力には抗えない。
また光を浴びたい。
あの音を聞きたい。
また勝ちたい。
そんな願いの、いくつ叶えられたのだろう?
叶わなかった者はただ、
その身を投げて銀河に消えた。
人が一人二人消えたとしても、
銀球は今日も変わらず流れ続ける。
黒い怨恨も、黒い欲望も。
等しく銀球に沈む。
そしてそのどす黒い情念は、
銀球に魔を宿したとも言われる。
人がその瘴気にあてられて、
常軌を逸した打ち方をした時、
人は銀河の祝福を授かる。
パーラー・クリスタルの地下3階には、
オーナーである宝来の仕事場兼、住居が存在する。
住居部分は3LDK。
風呂もあれば空調設備もある。
洗濯などはクリーニング店に回していた。
「さあ、入って下さいませ」
自宅に黒騎と当麻を招いて、宝来は2人を応接間に通す。
「パチンコ店の地下に、こんな施設が……」
「オーナーは変わり者でな」
「黒騎さん、ワインはいらないようですね」
「冗談だって」
黒騎と当麻は隣り合ってソファに腰掛け、
長いテーブルを挟んだ向かい側ソファに宝来が腰掛けた。
「当麻さんでよろしいですか?
お酒は飲めますかね?
20歳以上でないと、飲酒は出来ないものでして」
「あ、はい。21です。……強くはないですが」
「結構です。さぁ。どうぞ」
ワイングラス3つ。
程よく注がれたワインの色は赤。
「乾杯と言いたいところですが、
当麻さんには、何が何だか分からないでしょう?」
「……はい。正直、何でここに呼ばれたのかも……
あの、僕、……出禁になるんですか?!」
落ち着き払って宝来はワインを一口含んだ。
「いいえ。出禁にする相手をここまで饗すほど、
私も聖人ではありません」
「お前には、俺と組んでもらう。
……それで、大きなヤマを勝つ。それだけだ」
黒騎が懐からおつまみパックを取り出す。
「大きな、ヤマ?」
「そうだ。パチンコなしでも成り立つパチンコ屋とは違った、
本物のパチンコ決戦……その名も、闇パチ」
「相変わらず、なんというか、センスのない大会名です」
当麻は闇パチについて訊ねたが、
それは試験に合格してからだと黒騎に突っぱねられる。
「試験?」
「そうだ。お前がパチンコ好きなのは知っているが、
あまりにも知識がなさすぎる。
……そこで簡単な問題を1つ」
【空物語ミドルスペック
エルソワ4ライトスペック
以上2つの内、
安定して勝てる機種を答えよ。】
「……えっと……このあいだ勝った、
エルソワ4?」
「だからダメなんだよお前は」
「いきなりダメ出しですか!?」
黒騎はメモ帳を取り出し、
当麻に書いてみせる。
「聞くがお前、確変とSTの違いくらいはわかるよな?」
「回数限定か、そうでないかでしょう?」
「正解だ」
通常、確変といえば、大当たりをしたら突入する、
大当たり確率がぐんと高くなること。
しかし、大当たりするまで続くか否かで、
【確変】と【ST】は細分化される。
STは予め決められた回転数だけ確変が続き、
確変は大当たりするまで何百回転してもいい。
「エルソワ4も空物語も確変台だ。
空物語はミドルスペック。
確変突入率と、確変継続率は大体一緒だ。
対するエルソワ4ライトスペックは、
突入率も継続率も低い。
加えて潜伏※有りだ。
……だが、16R比率が多いため、
安定しないが勝てる台……のはずだ」
※潜伏 通常と見せかけた確変状態。
「はず?」
当麻の疑念にオーナーが応える。
「勝てない時は勝てませんとも。
パチンコとはそういうものです」
彼は新たなワインの瓶を2本手に持っている。
「こちらがどんなに甘い釘道を作っても、
回ったところで、当たらねば意味がありません。
……まぁ、他所の店は、回りも渋いですし、
当たりも渋いの2重苦ですがね」
「酷い……」
明日。
当麻にパチンコのことを教えると約束し、
その日は手仕舞いにした。




