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案の定だと黒騎は笑った。
大勝を得た人間の行動パターンを、
黒騎は良く知っている。
ビジネスで大勝したら、
次の大きなビジネスを模索するように。
パチンコで大勝したら、
もっと快感を得るべく訪れる。
10時開店のパーラー・クリスタル。
少し前には長蛇の列が出来る。
その中に、若者の姿を見た。
黒騎はこの日、普通に列に並ぶ。
するとどよめきが走った。
黒騎が来た。今日は出る日だ!
イベント告知などなくとも、
彼の存在がパーラー・クリスタルを熱くする。
彼が来たことをツイッターで呟く者。
慌てて駆けつける者もいるだろう。
しかも今日は休日だというのもあり、
満員御礼は確実だろう。
あふれた人は商店街に流れ、
飲食店が軒並み売上を伸ばす。
彼を1000万円という高給で雇った宝来だが、
経済効果はそれ以上に登る。
「おい。お前」
開店し、若者はいつも通りデータカウンターを眺めていく。
黒騎が彼の肩を背後から軽く叩いた。
大きく驚いた若者は、
おどおどした態度と怯えた顔を黒騎に向けた。
周囲の人間は目の前の台に集中するあまり、
彼らのことを気にかけもしない。
「な、なん、ん、なんですか?」
「ちょっと良いかな? なに、時間は取らないし、
警察呼ぶとかそういう話じゃあ無いんだ。な?」
「は、い、……はい」
開店したてで誰も座らない休憩室の椅子に腰掛けた2人。
黒騎は煙草を吸うか訊ねたが、
若者は首を振った。
「だろうな。煙草買う金あるなら、
全額パチにぶっこむわな。
俺もそうだよ。
……俺の名は黒騎道雄。
お前さんは?」
「ぼ、僕は、芦田当麻。……です
麻に当たるって、書きます」
黒騎は自販機のコーヒーを当麻に奢る。
コーヒーは直に挽くタイプのもので、
その豆は商店街のコーヒー専門店で仕入れたものだ。
定期的大量購入をしているため、格安で手に入る。
「当麻か。いい名前だ。縁起がいい。
……で、だ。俺がお前を呼び出したのは他でもねえ」
早速黒騎は本題に入る。
「昨日と一昨日なあ、当麻が勝った。
だが、派手に勝ち過ぎな気がする」
「え?」
「運が良かったのは認める。
だが、あまり勝ちすぎるのは良くないって言ったんだ。
パチンコってのは、ガラの悪い連中も多い。
気に入らねえなら台を叩く奴もいるし、
それ以上の嫌がらせもする。
……熱視線が全部羨望だと思うな?」
暗に、勝ち過ぎるとろくな事にならないと忠告する黒騎。
だが彼の目的は、当麻を忠告して出禁にすることではない。
黒騎は試している。
「……僕に、どうしろと?
ここから出て行けってことですか?」
「違う、そうではない。
何事もバランスが大事だと言っているんだ。
……とりあえず」
黒騎は財布を取り出し、
10万円を取り出した。
ピン札10枚に、当麻は驚く。
「負けろ。今日一日。
お前は勝っちゃいけない。
『調子に乗って大枚はたいても出なくてイライラして、
ボタンは強く連打するし、
キュインと鳴ったらそっちを振り返る、
休憩は牛丼かラーメンを食べ、なおも打って閉店まで打ち続けろ』
……という、な。閉店までいたら、この倍以上の報酬をやる」
「……勝つじゃなくて、負ける?」
「そうだ。勝つな。負けろ」
「……」
「今日も勝つと、流石に他の客が不審に思うだろ?
お前が何か、ゴト行為しているんじゃねえかってな。
あるいは、店の遠隔操作とかを疑われかねない。
この店なくなるのはいろいろ困るんでな」
「わかりました」
当麻は10万円を受け取ると、
彼の指示通りにするべく、台を探した。
「閉店後が楽しみだ」
その日、当麻は負けた。
10万円以上を突っ込んで、
大敗した。
「……負けました。疲れました」
「ご苦労……何を打ってたんだ?」
「あ~……空っす……」
「空で負けるのはきっついな……」
空。空物語の通称だ。
どのパチンコ店にも必ず数十台存在する、
パチンコの代名詞と言っても良い機種である。
単純明快な仕様、簡素で素早い演出。
故に、大当たりが出ないと、
底抜けに詰まらない台でもある。
「で、見せてみろ」
閉店後数十分経過した店内には、
バイトも引き払っていて、
彫金師の釘調整を行なっている。
2人は、当麻が打っていた台の前にやってきた。
「これです」
「……っほほう……ふふふ……ぅっふふう」
黒騎は、データカウンターを見て、
確信の笑み、こみ上げる笑みの両方を表現した。
「俺は確かに、負けろと言ったよ。
負けるためには、普通、選ぶのは勝ちにくい台だ。
継続率が少なかったり、
甘めの確率の台で出玉が増えないようにしたり。
……だが」
データカウンター
大当たり回数 0
総回転数 2700
「お前なら、こうなるとわかっていたさ。
絶対に、当たりの出ない台を選ぶって!」
「え……あ!?」
能力がバレたかと、
当麻は顔を青ざめた。
「何時化た顔しているんだ?
お前、これは、凄まじい……見立て通り!」
当麻の腕を引き、黒騎は地下3階に向かった。
黒騎のいつもいる、モニタールームだ。
「か、関係者以外は……立入禁止なんじゃ」
「おい当麻。
見えているんだろうお前には……大当たりの回数が!」
「……!?」
「やはりな……ランクS……まさに極上の能力!
俺がずっと求めていた……究極の!」
「騒がしいですよ黒騎さん。
こんな時間に……おや、貴方は」
モニタールームに現れたのは宝来。
当麻は、状況の整理がまだついていない。
「オーナー。……遂に見つけた。
俺は今度こそ、勝ちに行くんだ。
闇パチに!」
1 アヒル
2 カラス
3 雀
4 ワシ
5 サギ
6 鶏
7 フェニックス
8 コンドル
9 インコ
空物語の図柄です。