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パーラー・クリスタルの地下モニター室



パーラー・クリスタルは、全6フロア。



1階には4円パチンコがあり、

2階には1円パチンコと、古くなった4円パチンコ。

3階に20円パチスロと、激安の2円パチスロがある。


4階は駐輪場や倉庫など。

地下1階が従業員用のスペース。

地下2階には様々な備品が存在する。


……しかし、

実際には地下3階が存在する。



そこは主に、

他言無用の話や、

打ち合わせなどをする際に使われる、

完全防音、電波無効の場所だ。


そこに行くには若干複雑な経路を行く必要があるのだが、

慣れた足取りで黒騎は辿り着くと、

モニタールームを開き、中にあるソファに腰掛けた。



「困りますよ黒騎さん。

 余所見しながら打たれては」



背後から声をかけたのは、宝来だ。

彼はほとんど、社員の前に姿を見せない。


中肉中背、ヒゲも目立たず髪もふさふさしている。

顔だけ見れば二十代後半、三十代前半程度の、

若く魅力ある面構えをしているのだが、

実年齢は42。独身。


彼はここに住んでいる。



「確かに、あれだけ爆発するのはレア中のレア。

 奇跡にも近いですが、見惚れていては仕事もままなりませんでしょう?」


「オーナー。俺は一応回すものは回したし、

 大当たりもした。……俺が来たことで、売上はどれくらいだった?」



勝手知ったる我が家とばかりに、

黒騎はモニターの録画映像を映し出す。



「ええ。通常よりも倍に近い利益ですね。

 やはり、近くの店を傘下に置くのは良い利益につながります」



パーラー・クリスタルは、

各地に店舗を増やしたりはしない。


その代わり、売上利益を使って、

地元にある商店街に働きかける。



シャッター街と呼ばれるほどに衰退していた商店街だが、

テナント募集などで多くの人が集まるようになった。

テナント料は売上純利益の2%で格安と話題である。


シャッター街は一年間で活況を取り戻し、

パチンコ以外の遊戯施設やカラオケ店、

飲食店の大幅増加など、

娯楽街として大成功を収めた。


人が集まれば当然、

パーラー・クリスタルにも客足が伸びる。



採算を客に少しでも寄るという強気の経営方針は、

テナント料収益もあるからである。




「いいよなあ。パチンコで勝たずとも、

 その他で勝っているから。

 俺たちはそうじゃない。負ければ終わりだ」



モニターには、若者の姿がある。

一時間、データカウンターを見続けている姿だ。



「でも貴方は毎月1000万円の給金を得ています。

 貴方だって、パチンコで負けても勝っていますよ?」


「そうじゃあないんだ。

 1000万円は嬉しいがそれ以上に、

 勝つのは嬉しい事なんだよ」


「……その、爆連した青年が気になるのですか?」


「おうよ」



一時停止。



「こいつだよオーナー。

 遂に見つけた。ランクSの逸材!

 しかも技術やパチ歴はズブの素人ときている!」


「ふむ。……彼はデータを眺めていますから、

 波のあるナシがわかるのだと思っていましたが、

 そうではないようですね。

 もしも波がわかるのであれば、

 当然釘の様子も伺うはずでしょうし」


「そう。こいつは一切釘を見ない。

 素人だ。だが、そんなの見なくても良い理由がある」



「……別のものが見えているということでしょうか?」



「ああ。確証はないから憶測だが……。

 明日こいつは、また勝つだろう。

 今日と同じくらい」


「ううむ、困りましたね。

 お客様が増えるのは良いことなんですが。

 貴方の言う、『銀河の祝福』は実際、

 厄介極まりますからねえ」



「奴にはおそらく、

 大当たり回数が見えている。

 しかも、閉店までに叩き出す、総数が」



その憶測は、宝来を硬直させた。

利益が減るというわけではない。


そんな能力を派手に使えば、

狙われると心配しているのだ。



「……何故、大当たり回数だと思います?」


「俺の打っている横で、

 191と言いながら打っていたんだよ。

 データカウンターを見てから。

 ……見事最終的に191回。

 んでもって、さっき見てきたんだが、

 あいつはそこに座るまでの台の回数まで、

 ピタリ言い当てた。

 ……そんなことってあるか?」



パチンコを打つ者にとって、

大当たり回数は重要な要素だ。


例えば、40回大当たりを出した台があったとする。

夜も更けた頃に、その台に座ろうと言うか否か。



座る者は「この台はまだまだ吐き出す!」


座らない者は「この台はもう限界だ」



そういう思考になる。


実際それで勝つか負けるか?

リスク回避か拾い損ねをするか?


それは打たねばわからない。




もう一つ例をあげよう。



大当たり回数0の台で、

総回転数1000の台。



座る者「そろそろ、いくらなんでも大当たりするだろう!」


座らない者「今日はこの台駄目だ」



楽観主義が幸か不幸を招き、

慎重主義がその2つを突っぱねる。





つまり、大当たり回数を知るということは、

拾い損ねも不幸もない。

数十回当たるとわかりきっているのであれば、

全力投資しても問題はない。





「黒騎さん。あの若者、どうしましょうかね?

 貴方が見ているというので、店は心配していないのですが」


「あいつを後2回試させてくれ。

 そしたらわかる。あいつの能力の肝が」



黒騎は翌日、何もしなかった。



開店早々、若者がフラリとやって来たのをモニターで見つけ、

そのまま追う。

彼は開いている席を見て、データカウンターを見て、

すぐに別の台に行った。



黒騎の座るソファの前にはテーブルが。

そこにはワインとチーズ、パンなどが置いてある。

注文をすれば、他にも食品は来る。



「さぁ、見せてみろ」



若者はしばらくして席に座った。



「その台……そうか、やっぱりだな」



閉店。若者は100回の大当たりを決め、

今日も勝っていった。

ただし、前日のような大勝ではなく、

10万に満たない勝利だ。



「何かわかりましたか?」


宝来が戻ってきた。

ワインを3本空けても酔いつぶれない黒騎は、

赤らめた顔に確信の色を含めている。


「ええ。

 あいつ、今日選んだのはエルソワ4。

 最近出た台を選びましたね」


「エルソワ4……2R通常が多い台ですね」



2R通常。当っても出玉はない、

そして確変も終わる仕様の大当たりだ。



「あいつは時短で2R引き戻したりもしていましたよ。

 データカウンターには、大当たりは大当たりでも、

 潜伏もカス当たりも存在する。

 あいつにはおそらく、100回大当たりが見えていたんでしょうが、

 蓋を開ければカス当たりのオンパレードだ。

 ……それでも勝ったのはむかつくが」


「15Rも多かったですしね」


「……あと一つ。あいつはパチンコ専門だ。

 パチスロの方には、足を運びもしなかった」


「パチスロは目押しが出来なければいけませんからねえ」



パンをかじり、黒騎はほくそ笑む。


明日、彼の本領がわかるのだと思い、

黒騎はワクワクしていた。


エルソワ―!

と言うと、背後から日本刀を握った侍の群れがやってくる。

霧の奥にあるお宝を見つけるため異世界を冒険するアニメ。

エルソワ4とはそういうアニメです。

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