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それは呪いか祝福か

虚無る前に、完結させるため、性急ながらも開幕いたします。



闇パチを語る前には、まず宝来の話をしなければならない。


彼は生来凡庸な男で、若いころはやんちゃをして警察に何度か世話になったこともある。それでも、未成年という名目で事なきを得ていた。



そして初めてパチンコ店に入ったとき、彼はその能力を発現した。打っている最中、彼の脳に何本、何十本もの閃きが走ったのだ。……パチンコ本体には何一つ影響のないその能力は、宝木に衝撃をもたらした。


我ながら天才的。独創的。どうしてこんな簡単なことに気づけなかったのか? 己の歩んできた18年を鈍足だと後悔して、パチンコ店から出てしばらくすると、彼はまたすぐに、凡庸な学生になっていた。



パチンコ台の近くにいるだけで、彼の脳は天才的な頭脳に変貌する。その能力を試した目に一日中パチンコ店に居座っていたが、脳力は途絶えなかった。彼は稼働しているパチンコ台の近くにいる限り、誰にも負けない頭脳を有している。



しかし、そんな頭脳だからこそわかるのだ。ここにいることの無意味なことを。暴力的な音量に光量。目にも、耳にも、肺にも、頭にも悪い場所であること。入れる金が戻ってくるのがわからないこと。それだけではない。今通う大学生時代の、流れに任せた圧倒的自由で空虚な時間ですら、彼にとって退屈極まりない物であった。


もしも自分が何かを成すのであれば、それは安定の就職では成しえない。自分だけの城を作るのだ。この頭脳を維持しながらも、金を、人を、世のために使うんだ。


迷惑をかけてきた誰か、親、友人の顔が浮かんでは消えて、宝来は今後、誰かのための城を作ろうと決意した。




彼はまず、資金繰りを開始した。中古で安いパチンコ台を買い、自宅で稼働させて頭脳を維持する。図書館から借り込んだ本を、大学生時代という緩やかな時間内に制覇し、起業した。小さな隙間産業で大成し、数億もの金を3年で生み出すと、会社を売って社員たちとパチンコ店を作った。


「社長、パチンコ好きでしたもんね。自家用の車にまで積み込むほどに」

「念願叶いましたね社長!」


パチンコ店を始めるにあたり、もともとの社員は数人やめてしまった。彼らには数千万の退職金を渡して納得してもらい、残った社員たちと頑張った。


人材育成も、地域連携も、完璧な手際で、瞬く間に『パーラークリスタル』は有名になった。彼はそのパチンコ店の地下に住むことで、脳力を開花させたまま経営を行っているのだ。




彼、宝来の銀河の祝福は、ランクD。パチンコに関係ないながらも、パチンコなしにはいられなくなる能力だ。それは

呪いか祝福か。ともかく彼は、この地域のパチンコ店全店を閉鎖に追い込むほどには財を成していた。





そんな彼が、闇パチというものを知ったのは数年前のことだ。世間的にも有名なボランティア系統のNPO団体から、寄付金のお願いが届いた。毎月2億の売り上げと、地域からの上納金などから、寄付にはそれほど悩むことはない。なによりも、人のためになるからという理由で、彼はそこに寄付をした。


そこが、闇パチを開催し、資金調達を行っているとは知らずに。




「頼む店長! 俺を、闇パチに連れて行ってくれ!」


頼み込んできたのは、闇パチに敗れてしまった男、黒騎だった。宝来が闇パチの出資者だというのは、参加した彼の耳に届いていた。



「貴方は確か……最終決戦にまで歩を進めた方ですね。見てましたよ、私も」


「だったら話は早い! 俺はどうしても、10億欲しい! だからあの大会で勝ちたいんだ!! だから、俺を闇パチに行かせてくれ!」



最終決戦で敗れた黒騎は、全財産を銀に溶かして飲まれた。ここで宝来が素っ気なければ、彼はホームレスか、自殺かの選択を迫られていただろう。


「貴方ほどの情熱ある若者が、あんな機械に人生をかける理由は何です?」


「どうしても、取り戻したいやつがいるんだ! だから!」


「……ふむ」


出資は楽だ。容易に払うことができる。しかし、その価値があるかどうかを考えた宝来は。


「私は、ギャンブルというのは基本的に愚かなことだと思っています。パチンコ店は、お金を稼ぐには効率がいい城ですが、パチンコにやってくるお客様は効率の悪い勝負を強いられるからです。これほど不公平な勝負はほかにないでしょう。……ですので、やるからには必勝でお願いいたします」


宝来はVの字を指で形どった。


「貴方を、専属の打ち手として雇いましょう。その間に、勝てる道筋を見つけてください。前回の優勝者を圧倒できるのであれば、この勝負も無駄にはならないでしょうからね」




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