朦朧とした頭でのパチンコは推奨できません
長らくおまたせいたしました。
といいながら今回もそんなに進まない。
茜ちゃんが悪い。
当麻が祝福を受けてから稼いだ金額は、
実はそこまで多くない。
勝っては、少し負けてを繰り返し、
いくぶんか調整しているのである。
実に一ヶ月近くで、100万円程度。
世のフリーターや正社員たちは涙を流す額である。
そんな金を手にしても、
やることはパチンコだけ。
いわば当麻にとってのパチンコは現在のレートで言うと、
人生との等価交換なのである。
そんなパチンコで、
今一番の謎といえば、
闇パチ。
そして気持ち悪い女の祝福内容だ。
闇パチについてはまだ黒騎からの情報交換がなく、
いずれわかるその日までの楽しみとして待っている。
しかしながら、気持ち悪い女の祝福を知るのは、
そう難しいことではない。
世の、あくせく働く者たちを尻目に、
当麻は秋葉原に赴いた。
同じ店で会えるかどうかは運であるが、
ここ一番の運には自信を持っている当麻。
一ヶ月前は3万円を全財産とし、
運などないと廃人にまでなっていた彼の面影はもうない。
「お兄さん」
背後からの呼びかけに振り返れば、
そこには明るい色調のアニメキャラコスプレイヤーが立っている。
顔立ちは悪く無い。茜に匹敵するか否かといったところ。
「……どちら様ですか?」
しかしそんな可愛い子に声をかけられるなど、
当麻は想定していない。
頭のなかで必死に、
『Who Is This』を繰り返して記憶の引き出しを探るも、
皆目検討がつかない。
「やだなー。乙女で知り合った仲じゃないですかー」
「乙女で知り合ったって……」
まさかと思って当麻は、
取り出した気持ち悪い女の面影を、目の前の女性に当てはめる。
しかし全く噛み合わない。
自分はからかわれているのではないか?
そういう疑念すら浮かぶほどの变化っぷりである。
「無視決められてしょぼーんな気分だったんですけどー。
オタクキモイ的な考えの人だったりします?」
「いや、単純に君があの時……」
気持ち悪かったという言葉を即座に飲み込んで、
「驚くようなことするから」と言い繕った。
「それより良かった。
君に会いたかったんだ。
謎を解きたくてさ」
「ほほう……拙者に会いたかったとな?」
「拙者?!」
「あいや、気にせず。コスプレすると、
身も心も作品キャラに嵌り込む故に。
小粋な衣装でござろう?」
面倒くさい。と、引きつった笑いを浮かべる当麻。
察してか否か、女性はコスプレで簡単にポーズをとる。
ちなみにここは駅構内であるが、
コスプレ奨励地区内なので、問題はない。
「ところで拙者、肉が食べたいで候。
肉でござる! 女性に会いたいと申した以上、
それは果たし状と同義でござろう!」
「ごめん。もう言ってもいいかな?
面倒くさいよその話し方!
なんだか恥ずかしくなってくるし!」
「何を言う。
世間一般から見れば、
朝っぱらからパチンコに行く事自体恥ずかしいでござろう」
「……言い返せないです……」
「では早速行くで候!」
そんなやり取りの末にステーキハウスに来たことなど、
茜は知る由もない。
彼女はカウンター席で。
当麻とコスプレ女子の二人は座席で。
それぞれの注文をとって食べ始めていた。
彼女から見れば当麻が内緒のデートを、
珍妙不可思議で似非時代劇口調なコスプレ女としていることだけ。
それだけが真実なのだ。
自分から誘ってここに連れてきたのであれば、
「当麻君成長したね―!」と喜ぶ反面、
「何故それを私にしなかったんだ」と憤る。
逆に女に誘われたのであれば、
「まるで成長していない……」と残念がって、
「無理矢理なのねそうなのね」と安心できる。
複雑な想いを抱きながら茜が食べているのは山盛りステーキ。
当麻が200gの肉の盛り合わせを頼んだのに対し、
女性は山盛りのステーキを食べていたのだ。
軽い対抗心で選んだ品の重量感は凄まじく、
むこう一月は肉を見るだけで胸焼けがするのではないかと茜は不安に思う。
「この間はなんであんな、変な感じだったの?
なんかヤミを抱えてそうな黒っぽい感じ」
「アレが素でござる。拙者はコスプレすれば、
いかような性格にもなれるのでござるよ」
「なんであんな……変な……黒い……」
「アレが……性癖……」
肉を食べ過ぎて朦朧としつつある茜の頭が、
必死に聴覚をフルスロットルで情報を集める。
しかし、暴走気味で得た情報など全くあてにならない。
にもかかわらず、
「浮気だこれ!!」
と心臓を跳ね上げた。
このままでは珍妙不可思議コスプレ肉食女に、
お気に入りの当麻を盗られてしまうと、
焦りと不安が募る。
「それであの……パチンコを選んだ理由は?」
「新台で、長年のファンであれば当然座る。
当然でござろう。乙女シリーズは我が青春なのでござる」
「それで……◯◯◯を選んだ」
「新品……座る……乙女」
「待ってええええ!!!」
と叫びたい衝動を必死で抑えこむ茜。
そんなはずはないと言い聞かせる。
『そうよ。そんなわけない!
どう考えても当麻くんにそんな気はないし経験もないはずよ!
だってパチンコ中毒者で依存症だもの!
他のことに興味なんてないはずよ!
でもこのまま帰る訳にはいかない、
問いつめなきゃいけないわ!
そしてこの山盛りステーキをお腹に詰めなきゃいけないわ!』
食べ終えたのはほぼ同時。
しかしグロッキーな茜。
店を出たと同時に、
茜は店内から出た当麻と女性を止める。
「お二方……どこのホテルに行くつもりなの?」
「え……あ、茜ちゃん!? なんで?」
「ホテルとはなんと破廉恥な!
拙者これから秘密を話すために自宅に向かおうとして」
「自宅で『する』のね? いたすのね?
(げっぷ)……当麻君……私、
君のことを今でも信じているんだけど、
ねえ、信じていいんだよね?」
「茜ちゃん……少し……落ち着いて……」
過去の経験を踏まえ、
当麻は茜に肩を貸して歩き出した。
全くの誤解であることを話すと、
茜は顔を真赤にした。
「また勝手に暴走しちゃったよ……恥ずかしいよ……。
穴があったら埋まりたいよ……」
「ど、どんまいでござる!
というか彼女がいたのでござるか当麻殿」
「彼女……でいいんだよねきっと」
秋葉原の繁華街を抜けた先にある閑散とした住宅街。
その中の変哲ないアパートが、女性の家である。
「祝福とやらの秘密。
伝授しようぞ」
目を輝かせて、女性は自室の扉を開けた。
パチンコを打ち続けていると熱を帯びてきます。
それは握る手が、頭が、極めて快感を感じている危険な状態です。
いくらでも投資する思考になりますし、
当たれば負けていても悦び、
確変が続かず収支がマイナスでも、
次の大当たりで巻き返すという謎の狸の皮算用をし始めます。
一度外に出て涼むか、
トイレの水で顔を洗いましょう。
一番いいのは外に出て深呼吸することです。
冷静を保つことが負けないコツです。




