蜘蛛の糸
デート翌日。
当麻はもぞもぞと布団から這い出ると、
時計を確認した。
午前7時。
まだまだ早い。
そもそも当麻は、現在働いてもいない上に、
大学生でもない。
パチンコに神経を尖らせる事が出来るのは、
その膨大な自由時間のお陰である。
しかし、家主である黒騎の姿はない。
探してみるがいない。
一通り探し終えると、
LIMEにメッセージが届いた。
『クリスタル・オンステージ』
パチンコを打つだけの黒騎だが、
宝来と契約を交している以上、
仕事をしていると言える。
当麻は指定されている棚にある食材を見た後、
カップ麺を取り出してお湯を沸かし、
テレビを付けた。
黒騎が購入した、大画面TVだ。
「……いけない。これじゃただの、紐だ」
現代におけるモラトリアム問題の渦中にある当麻。
芸人が早朝乾布摩擦をする番組を見ながら、
湯を入れて蓋をした時、自戒する。
「……でも何して働こう……」
そもそも、当麻に夢などない。
将来こうなりたいだとか、
どういう風に過ごしたいだとか、
「せせこましいことだ」と一蹴しているクチだ。
顔立ちは悪くはないが、特別良いわけでもない。
今、テレビに映っている男性のスターに比べれば、
当麻など路傍の石にすぎない。
体力はあるわけでも、ないわけでもない。
走ればそれなりで、重い物は持ちたくない。
誰かの指示を聞いてそれを実行するだけであれば、
簡単なアルバイトもこなせるであろう。
しかし、自分で考える局面に弱い。
就活はやりたくもない。
文章を書くのも、絵を描くのも苦手だ。
何に関しても飛び抜けた分野がなく、
平凡な自分を磨く行為も行わず、
ここ最近はパチンコばかり打っている。
以前黒騎に質問したことがあったが、
「やりたくもねえことをしない人生を考えろ」とだけ。
「……今やりたいことは……」
それは当然ながらパチンコだ。
しかし、それだけが趣味では面白く無い。
趣味を探そうと当麻は思い立ち、
あてのない冒険の旅をするため外に出た。
火の元などは確認済みである。
とりあえず、LIMEで茜の履歴を見る。
あてもなく町を散策する。
秋葉原で先日の能力の謎を追う。
やることもない当麻には選択肢があった。
「茜ちゃんの既読したら今日は付き合わされるかもしれない。
町を歩いても誰にも出会わないかもしれない。
この間の気持ち悪い子は……いや、知っておかなきゃね」
どれを選ぼう。
当麻は考えた。
そして出した答えは……。
1000円投資して1000円帰って来た。
そして乙女フェスに1000円つっこんで、
そして誰もいなくなった。




