0/191
実機のタイトルとかはボカしています。
3万円を握りしめた。
僕は最期のパチンコを楽しむことにした。
遺書はいらない。
22歳になっても、
遺すものなんか何もないのだから。
パーラー・クリスタル。
いつもは行かないこの店だけど、
僕が最初、パチンコ屋に感じた魅力を持っている。
少し遠出をして、僕が最初に来た店で、
だから最期もここで決めたいと思った。
自動ドアの先には喧騒があった。
台数だけは屈指の空物語、
看板キャラ:マフィンちゃんの声でリーチと聞こえる。
彼女のリーチは弱いけど、
ホールには無くてはならない存在だ。
キュインと鳴る確定音も。
それを見つめる老人の姿も。
ああ、パチンコ屋に来たんだって実感する。
最期なんだから目に焼き付けねばならない。
僕は死ぬ気で楽しもうと思った。
……しかし、何を打とう?
好きな台とか特に無いし……。
僕は、少しでも楽しみたい気持ちもあったし、
勝てるなら勝ちたいし、
希望だけは持っておきたいと思って、
各台にあるデータカウンターを眺めながら散策した。
スロットは、技術がないから出来ない。
ひねって終わりのパチンコの、
なんと明瞭簡潔なことか。
「3……1……10……41……41?!」
凄い。昼間なのにこんな大連荘しているのか!?
しかもこれはミドルスペック。
こんなに当たったってことはいくらぐらい勝ったんだ……。
……。
いや、待って……。
回転数がまだ0だぞ……?
でも大当たり回数は41?
データバグかな? 店員さんに教えないといけないのかな?
……別にいいか。
誰か、座った人が言うだろう。
よく見れば、大当たりが伸びているのに、
回転数が全く伸びていない台が結構ある。
どういうことなんだろう……。
僕の目がおかしくなったのかな?
データカウンターに不備が散見される。
そう思っていると、僕の背後で確定音が鳴った。
何やら大当たりをした人がいる。
見れば34回目の大当たりだ。
しばらく眺めていると、
また大当たりを決めた。
……でも、34という数字が変化しない。
何度も大当たりしても、34がそのままだ。
打っている人もそれを見た、
けど何も反応がない。
……どうなっているんだ?
僕の目がおかしくなったんだろうか?
そうに違いない。
だって変わらないんだもん。
しかもまだ昼間なのに、
こんなに連荘する台がそこらかしこにあるわけがないもん。
……そんな中で、
大当たり回数0の台を、
ひたすら打っている人がいた。
総回転数は1000を超えている。
※必ずしも、その人だけで1000回回したというわけではない。
……僕の予想。
直感が、……妄想がもしも正しいのであれば、
この台は終日打ち込んでも当たらないはずだ。
そう、僕は妄想している。
この目に映る大当たり回数が、
もしも真実であったのならばと。
例えば、10回大当たりをする台を今から打っても、
途中でお金が尽きてしまうかもしれない。
僕は待つことにした。
ゆっくり、大当たり回数が非常に多い台を探す。
最期なんだ。
こんな妄想を信じたって良いじゃないか。
僕の目に、その日の大当たり回数が見えるって、
そんな特殊能力を信じたって。
そして僕は見つけた。
大当たり回数、191という破格の台。
今から打っても、間に合う。
しかも誰も座っていない。
……隣には、誰か居るけど、その台は23回だけだ。
同じ高継続率の台なのに、
どうしてこうも違うんだろう?
台の名前は……魔戦士タンバリン?
また昔のアニメか。
最近多い気がする。
誰がどんな役どころかよくわからないし、
説明されてもなんだし。
……まあ、今はそんなことどうでもいい。
191回の台だ。
座って、お金を出す。
怖くない。
もう何も。
絶対に当たるから。
そうさ。そうでなきゃ。
3万円が全財産なんて、
そんな人生なんか……僕は欲しくない。
もしもこの目が本物であれば、
3万円が霞むほど、
大きなお金を掴めるはずだ。
その後のことは、よく覚えていない。
当たりを決めて確変に入り、
ひたすら大当たりを決めた。
『逝ねよやぁああああ!』
という、おそらく物語の主人公であろう者の、
雄叫びが耳に響く。
大当たりが洪水のように押し寄せていて、
ただただ圧倒されるばかりだった。
光も音も心地良ものになっていて、
もう右腕だって引きつっていて、
よだれも出てたかもしれない。
見事191回の大当たりを決めて、
僕は放心状態だった。
店外に行って、
金景品を交換したら、
お札が40枚以上あって、
僕は動揺したし、
意識も朦朧としていたし……。
とりあえず、このお金は貯金しよう。
というか持ち歩けない。怖くて。
続く
ここまでの登場人物に女性がいない不具合。