隣の祝福は呪い
パチンコ店に向かう途中の黒騎に、
当麻は話しかけた。
「黒騎さん。去年の暮からパチンコ打ってないんですが、
何か理由があるんですか?」
「ああ゛? 年末年始といやあ、
最大規模の集金の季節じゃねえか。
そんな時にパチンコ打てるか」
俺がランクDの奴に出会ったのは、
もう何年も前になる。
その頃の俺は、
銀河に見初められていて、
働かずにひたすらパチンコで腕をふるっていた。
日に2~3万は稼げる。
ダメだとしても後から必ずプラスになる。
店側も不審に思うくらい、
怖いくらい俺は勝っていた。
しまいにゃ俺のゴト行為を疑って、
店側が台の不調だとかなんだとかいちゃもんつけたり、
釘の流れをジッと見て首を傾げたりしてよお。
でも、何もなかった。
当然だ、能力は見えねえからな。
俺の服の中にもゴトに使いそうな針金とか、
電磁波、磁石、そういったものは何もない。
かと言って店側も、勝てる台を選べるなんて思わないし言わない。
「うひゃひゃひゃ!」
騒音の中でもわかるくらい品のない笑い声を出したのは、
勿論俺じゃあない。
4円で万発を叩きだして満足していた俺の、3つ隣。
ボタンは強打する、外れれば台パンする。
とにかく台を壊したいのかと思うほど、
そいつは台をバシバシ叩いていた。
そしてきっちり当たっている。
さっきまで敗色濃厚だったのに、
盛り返していた。
泣きの一回なんていう、ほぼハズレ確定演出でも、
強打した瞬間当たる。
周囲は迷惑そうな目を向けているが、
お構いなしに、気狂い人な男は台を叩いていた。
よく、空物語でボタンを意味もなく連打し、
当たったらドヤ顔するババアを思い出す。
あいつらは連打して自分で当たりをひねり出したと、
本気で勘違いしているのだ。
演出の一環であるのをまるで理解していないのだ。
口は悪いが、キ◯◯イ染みている。
『お客様。他のお客様の御迷惑に』
「ああ!? 当たってんだよこっちは!」
『……』
店員の注意を跳ね飛ばしたか。
すぐさま店員は強面の屈強な男を連れだし、
気狂い男を引っ立てた。
後で聞いたんだが、温情で出玉は全て景品になったという。
出禁の奴に随分と甘い。
「にいちゃん、あの男には気をつけな。
他の店でも騒ぎを起こしてやがるからよお」
馴れ馴れしく話し掛ける隣の席のジジイ。
情報だけは聞いておくが、それ以上は突っ込まない。
聞こえないふりをして打ち続けた。
それからしばらくして、
別の店に行った時だ。
「なんでだよぉ! いれろよぉお!!」
まだ開店間もない店の前で騒ぎ立てているのは、
やはりあの男だった。
その店に出禁を食らっているにもかかわらず、
入店したいと言っている。
店側は警察を呼んだ。
警察が来るまでの間に、
男は恥部を出して放尿したり、
何するかもわからないから店に入れろと、
やはりキ◯◯イで、喚き立てる。
ムカついた俺は、
弱り切った店員から男を引剥し、
顔面を殴った後、転倒後に追い打ちの蹴りを腹に叩き込んだ。
その日は俺まで警察に連れて行かれたが、
罪状は無し。正当防衛だとかで無罪だ。
一方であの男は、身元不明。
公然わいせつ、脅迫など、幾つかの罪状が付いた。
「後になって分かったことだが、
その男は4年前に刑務所から出て、
またパチンコを打ちに行った。
だが、またも台パンがひどかったらしい」
黒騎の話を聞いて、
当麻は困惑した。
「まさか……その人が……」
「ああ。ランクD。
『台パンすると台が好調になる』ってやつだろうな。
傍迷惑な能力だよ。
男は最後、金もないのにパチンコ店に入って、
座った瞬間台を叩きまくっていたらしい。
制止する店員が取り押さえたが、
『俺が叩けば当たるんだよ! 叩かせろよ!
死ね! てめえら皆俺の能力に及ばねえくせに!
死にやがれ、金よこせ、叩かせろ!』。
……ってな感じだった」
得る能力によって、
そしてそれを扱う者によって、
ここまで差が出てしまうものなのか?
当麻は生唾を飲んだ。
自分の能力が、
ランクSではなく、Dだったらどうなっていたのだろうか?
考えるにゾッとした。
きっと末路が悲惨なものになっていたはずだ。
「その、男はどうなったんです?」
「消えた。行方不明ってやつかな。
刑務所の中から忽然と消えて、
脱獄だなんだと騒がれていたが、
結局見つからずじまいだ」
聞きに徹していた宝来が口を開く。
「ランクDですか。
そんな方が来店しないように、
こちらも警備を強化すべきですかね?」
「オーナー、この店の警備は凄まじいわ。
いらねえよもう」
黒騎は立ち上がると、
心配そうな目の当麻の頭を叩いた。
「なあにポケーッとしてんだ。
昔話は終わりだ。
Dは他にも色々あるが、
大抵気の違った奴ばかりだ。
能力だってショボい。
お前はSのまま、
今直面した問題に取りかかればいい」
当麻はその言葉を聞いて、
「はい」とだけ返した。
直後、携帯の呼び出しがかかる。
茜との約束を守るため、
当麻は地下室を後にした。




