ランク
「祝福を受けた奴がいたぁ?」
パーラー・クリスタル地下。
モニタールームに鎮座していた黒騎のもとに、
大慌てで転がり込んだ当麻。
「はい! 僕の、僕の大当たり予測が、
変化したんです!
止まった大当たりのはずなのに進んでいたんです!」
「落ち着け、どういう意味だかわからん」
休憩中の宝樹が、スーツ姿で現れた。
手にはコーヒー三杯載せたトレイを持っている。
「動転した様子で……。一体なにがあったのですか?」
「宝来さん、僕は見たんです!
大当たり回数が変わったんです!」
「そりゃあ変わりますよ。大当たりしない台など、
あんまり欲しくありませんし」
「違うんです! そうじゃないんでっ!?」
当麻の脳天に、イライラした黒騎のチョップが刺さる。
「とりあえずコーヒー飲んで落ち着いてから話せや。
ホウレンソウきっちり守れないと社会人失格だぞ」
「打ち手って職業でしたっけ!?」
「少なくとも俺はそれで月給もらっている」
「週2出勤で実働時間は3~10時間。
指定した台を打ち続け、得たお金はそのまま手取り。
その代わり負けても実費支給なし。
月給一千万円。という仕事ですよ」
「なにそれズルいです」
釈然としない当麻はとりあえずコーヒーを飲み干し、
一息入れた。
商店街の珈琲店から仕入れた、挽きたての味は、
とにかく苦い。が、美味い。
「僕の、大当たりを予知できる目。
それが変化したことは今までありません。
どんな時も収束するんです。
大当たり0回の台は何時間、2700回転回しても出ないし、
大当たり100回の台があったら、
必ず誰かが座ってそれに届く。
クリスタルの閉店後に何度も立ち会ったことがありますし、
その都度確認をしましたから、間違いありません」
「ほう。お前なりに祝福の研究はしていたんだな。
感心感心」
「それでは今回、当麻さんの言う女性の座った台は、
本来の大当たり回数、いくつだったのです?」
「……1でした。
一度だけ当たって、あとはにべもない。
そんな素っ気なさ漂う、地雷台です。
それなのに、俺が出るときには11……12になっていた。
11のままなら、見間違いで済んだかもしれない。
でも、変化した。絶対に変わるはずのない予知が、
外れたんです!」
「お前の目は依然として正常なんだろ?」
「にも関わらず変化したとすれば……。
彼女が何かしらの祝福を持っていて、
それが貴方の祝福を上回ったと?」
上回ったという宝来の表現に、
黒騎は強く否定した。
「そりゃあないな。
ランクSを上回るとしたら、
それはもう神様の領域だ。
『未来や運命に勝つ』なんて、
そんな祝福あったら俺なら株やるよ。
ソッチのほうが手取り速い」
「ですね。その能力でしたらパチンコにかぎらず、
様々な局面で応用できそうですし」
「単純に、お前の祝福の弱点だったんだろ。
お前の見る未来は、祝福がない場合の未来なんだろうさ。
俺の場合は大当たり回数そのものにはあまり関わらない。
今まで俺がいても百発百中なのは、
俺の能力ではお前の能力を覆せなかった。それだけだ。
ランクBのさだめってやつだな」
「あの……前々から気になっていたんですが……。
ランクBとか、Sとか……なんですかそれ?」
素朴な疑問をぶつける当麻。
黒騎は、それ知らずに今までいたのかとため息をついた。
宝来も興味があると迫る。
黒騎が説明を始めた。
ランクというのは、
自覚しうるものであること。
自覚するまでに時間がかかること。
当麻も、何事もなければ数日後には、
自分の能力がSであることを自覚しただろうと言う。
「ランクCはしょぼい能力だ。
俺の友人の中にいるんだが、
『MAX機種に勝ちやすい』とかいう、
漠然としていて実数が測れないもの。
ランクB、俺みたいな能力(球を2つ余分に入れる)の場合、
わかりやすいが、上位能力に比べれば劣るもの。
いずれも、祝福を受けたやつだとわからないものばかりだ」
「劣るんですか? だって、貸玉1回で2個入るんですよ?
つまり沢山回せるじゃないですか」
「あのなあ。パチンコは回ったほうが良いのは確かだ。
だが回しても無駄な場合だってある。
確率を寄せるだけで、大当たりに近づくだけで、
大当たりに触れられるかはわからん。
そりゃあBだろ」
黒騎はコーヒーを傾けた。
ブラックだが、彼には飲み慣れた品だ。
「ランクA。これは確実に強力だ。
給料日や、ドハマり台、どんな劣勢時でも、
優位に立つ能力。
お前の会ったっていう女も、
多分これだ。確実にオスイチ決めるとか、
そんなの常識外れにも程がある」
「ですが、多用はできませんね。そんなもの」
「それが弱点だ。足がつきやすい。
強力無比だが、制御が効かないのがA。
で、ランクSは、A以上のものを、
自身で制御できる」
「僕の……『大当たり回数が見える力』ですね」
「そうだ。俺が他に知っているのも、
あれはSだろうよ」
「……あれ、あと二種類は?」
「ランクG。いわば、神だ。
……そんな奴いるかどうかもわからんがな。
いたとしたら、一度お目にかかりたいものだ」
「Gが頂点とするのであれば……。
後はC以下ですか」
「そう、流石宝来さん。察しが早い」
「C以下って……どういうことです?」
黒騎は咳払いして、
足を組み直した。
「D。DANGEROUSとか、
DAEMONとか。
そういう意味でのDだ。
……以前、そういう奴に、
俺は会ったことがある」
コーヒーを飲み干し、
黒騎は語り始めた。




