デート 娯楽 パチンコ
染崎茜はパチンコが嫌いである。
友人に連れられたパチンコ店。
そこは別世界と信じたくなる。
日本国内にあってはいけない場所だと、
茜はその場所を強く否定していた。
友人は勝手に打ちに行き、
残された自分も勝手に打つことにした。
目を殺す勢いの光線と、
おしゃれで付けた香水が腐食するヤニ臭、
生気を失った目で小玉を追いかける大人の群れ。
ボタンを必死で叩く音も煩い。
当たらない腹いせに台を叩く輩には恐怖を覚える。
何よりも、今ここに自分がいることが、
彼らと同じ場所にいることが、
耐え難いものであった。
さっさと終わりにしたい。
帰りたい。
こんな所にいたくない。
そんな情念が渦巻いた彼女に、
銀河は祝福を授けた。
『マイク! ケデロ山脈奥地にある、
魔石の壁は危険よ!』
『へっ、かまうこたねえ!
化物どもが来ようが、
この超回転掘削機でミンチにしてやらぁ!』
『マイク!』
『カリン! 愛しているぜ!
この戦いが終わったら、一緒に壁丼食おうな!』
『マイクーー!!!』
かくして、マイクは超電導掘削機を片手に、
ケデロ山脈奥地を目指すのであった!
【壁丼 ウォールスイーツの罠】
Coming Soon・・・
「今世紀最大級の謎映画ね……」
「一発ギャグとしてはいいかもだけどね……」
昼食後訪れた、ショッピングモール内の映画館。
当麻と茜の2人は、
新時代アクション活劇を見るため、
入場券を買ってホールに着席する。
照明が消え、
動画の盗撮禁止の説明の後、
様々な映画の宣伝が流れていく。
「壁を……食べるのかな?」
「食べるみたいね……それ人間なのかしら……」
「何にせよ、ああいうネタ映画ってさ、
一度は見てみたくなるよ」
「駄目だよ当麻君!
そんな誘惑に負けたらいけないわ!」
当麻の頭からパチンコが姿を消したのはいつ以来だろうか。
金欠の時は、
寝ても覚めてもパチンコだった。
金が無いのはパチンコのせいで、
それを取り返す方法はパチンコで、
寝る時はパチンコで勝つ夢を見て……。
銀球に侵略されていた思考回路は、
既に一般人に成るには手遅れなほど、
ずたずたにされていた。
生活保護の考えすらも浮かばないほど、
困窮しきった状態でも、
銀球の海に陶酔しきっていたのだ。
……それはもう狂信的なまでに。
『タイムリミットは!?』
『まもなくです! 爆発します!』
boooooom!
『シット! また守れなかった!』
『大丈夫だ、問題ない』
『貴様、まさか!?』
『そうさ、私がこの事件の立役者』
『警察に紛れ込んでやがったのか!
おのれヤス!』
『まもなく爆発しますよ、この戦艦は』
『まだ海の怪物がうじゃうじゃいるってのに、
正気か!? 国防戦力をなんだと思ってやがる!』
『ふははははは! 死ねえ!』
booooooom boooooom boooom!!!
『あっははははははあ! ぐあっ!?
ば、馬鹿な……君は、僕の、ふぃあん…せ…』
『悪は死すべし』
『君は、あの時の……』
『警官長、空を見て』
『何だあの怪物どもは!』
『あれはクーマ。私たちは、空の戦いをするために、
巨大ロボットを開発したわ』
『メガトンゴリラ……』
『それが……世界の、運命』
第二部に続く
「いやー……ハズレ映画だったわね当麻君」
「すさまじいやっつけかん……爆発シーンに、
予算をかけすぎたんだと思うよ」
「本当、そこだけすごかったのよねえ。
キャラクター全員感情移入する前に新キャラ出たり、
死んじゃったりするしさ。
最後のクーマとか新設定だし……絶対続編目当てで、
無理矢理に捩じ込んだんだと思うよ」
ショッピングモール内のスイーツカフェ。
主にカップルが占拠する場所。
映画を観覧し終えた2人は、
映画感想に注力した。
この映画を選んだ茜に配慮して、
できるだけ良いところを列挙しようとした当麻だったが、
遠慮無く映画にダメ出しする彼女を見て、
その必要はないことを知りダメな部分を挙げていく。
「あと海の化物、最初は滅茶苦茶頭良くて、
攻めも守りも完璧だったのに、
途中からゴリ押しと逆襲ばっかりで」
「僕も思った。
前半後半で作っている人違うよね絶対」
(あの演出は信頼度激アツなんだろうな)
「ヒロインの告白シーンもあれいらなかったでしょお」
「そうだよね」
(成功してもチャンスアップ程度だろうな)
「……」
「どうしたの当麻君?」
「駄目だ……忘れようとしてもさ……思い出しちゃうんだ」
当麻は目の前に並べられたスイーツから目を背けた。
自分は、ここにいて良い人間じゃあないと思った。
今、パチンコの演出のことを、考えていた。
あの映画を見て、それで忘れた気になっていたのだが、
それでも思い出してしまった。
パチンコが嫌いだと公言した茜を前に、
申し訳無さが先行してしまう。
彼女とのデートは正直、魅力的以外の何物でもない。
会話は弾む、息はぴったり、
半日で分る相性の良さ。
彼女が当麻に合わせているのかもしれないのだと、
当麻自身が疑念を抱くほど。
そんな楽しい相手を前にしても、
それでもパチンコの影が当麻の目にちらつくのだ。
ここにいてはいけない。
ここはパチンコを軽蔑するような、
そういう一般人が楽しむ場所なのだ。
当麻は自分に言い聞かせて、席を立とうとした。
「楽しくなかった?」
思い出すの一言で何をと考えた結果、
当麻はパチンコについて考えているのだと茜は思った。
たった半日で、彼女も当麻のことをある程度は理解していた。
「私とのデート。楽しくなかったの?」
「そうじゃないよ。絶対、そんなことはない。
……楽しかった。出来れば何度でも、
こういう楽しい時間を作りたいくらいに」
「でも、パチンコには……勝てないのかな?」
見透かされていると、恐怖する当麻。
そんなことはない。
そんなことはない。
そう言いたいのに、
言うことが出来ない。
携帯電話が鳴った。
当麻はそれをとり、それが黒騎からの電話であると知る。
「あ、あの」
電話をする。
それだけのはずだったのだが、
素早く電話を掠め取って茜は当麻に、
どういう関係なのかを問いただした。
「……僕の、パチンコ仲間です」
「りょーかい☆」
恐ろしく満面の笑みを浮かべた茜は、
承諾なしに電話に出た。
『お、やっと繋がったわ。
どうだ、勝ってるか?
……あん? どうした、黙って』
「当麻君はパチンコで人生を踏み外させませんから」
『誰だ? 彼女か何かか?』
「はい。付き合って半日の新規カップルです」
修羅場が始まる……。
何故かそんな予感がする当麻。
修羅場を作る気満々の茜。
『へー。案外やるもんだな。
情けない奴だがまぁ、仲良くしてやってくれや。
それじゃ』
電話はそこで終わった。
拍子抜けした2人。
何も始まらなかった。
「……」
色々、言いたいことがあったはずなのだが、
応援された上に彼女の有無を強く言及されなかった。
考えてみれば当然だ。
黒騎にソッチの気はない上、
同性である。
茜は人の趣味を強く否定しない故、
パチンコを辞めさせようとする修羅場でもない。
むしろどうすれば修羅場になり得たのか、
今2人は硬直したまま、気まずい雰囲気を、
存分に味わっている。
「あ、このケーキ美味しそうだよー」
「そ、そうねー……うう」
恥ずかしさに茜はテーブルに突っ伏した。
「ありがとう当麻君。やっぱり君のこと大好きだわ私」
「あ、あはは……ど、どうもです」
ケーキバイキングを注文。
茜は軽量度外視でケーキを食べ続けた。
途中で胸焼けをおこした当麻は、
その食いっぷりに驚きを隠せずにいた。
「当麻君! 私は諦めないからね!
パチンコ行く暇ないくらい、
いつか夢中にさせてあげるからさ!」
「あ、ありがとう」
気恥ずかしさと腹痛で、
デートはお開きになる。
帰り際、当麻はパチンコ店に寄った。
しかし、楽しいことには変わりないが、
充足感は比べるのが馬鹿らしいほど、
茜との時間のほうが良かった。
「僕がパチンコをやめた時か……」
それはいつだろうか。
今はまだ、わからなかった。
NGシーン。
黒騎『お、やっと繋がったわ。
どうだ、勝ってるか?
……あん? どうした、黙って』
茜「アナタ、当麻君の、彼氏ですか!?」
『……(悪い笑顔)
そうだよ。あいつは今俺と一緒に住んでいるんだ』
「エエっ!?」
『毎日楽しんでいるぜ』
「毎日!?」
『あいつの寝顔とか見たことないだろ?』
「寝顔!?」
『この間風呂の中で』
「ひゃあああああ!」
電話回線ぶっち。
茜、電話を当麻にぶん投げてぶつける。
当麻「あいたああ!?」
「不潔! サイテー! 男色家!
私腐女子になるから! サヨナラ!」
「ええええええ!?
最後の、ええええええ!!?」




