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有意義の選択肢



ラーメン。


カツ丼。


そば、うどん、またラーメン。



思えばまともな食生活をしていないと、

当麻は振り返る。


というのも、今自分のいる店が、

おしゃれな、パスタが振る舞われる店だからだ。




普段であれば決して近寄ることも出来ない、

派手さはないが、おしゃれな外装。

客は全員カップルか女性ゆえ、

男1人で入るには心細い。


その上、入る客が全員おしゃれなかっこうをしている。

最近の流行りは勿論、

個々人の個性を押し出す服装には、

当麻は身震いを覚えるほどだ。


パチンコにハマっていた頃には感じなかった、

オシャレの重要性。


いわば無言のドレスコードを求められている現代社会では、

これまでの当麻は肩身の狭い思いであった。





だが今彼が着込んでいるのは、

全体的に青を取り入れた色調の服。

買いたての新品で、お値段2万円弱。



全身コーディネートで4000円程度に収めていた時代からは、

想像もつかないような出費だ。


2万円あれば4円パチンコで5000発勝負をする、

そういう思考があるためである。






「絶対に合うって。ほらこれも着てみてよ!」



パチンコ店で知り合った女性。


名前は 染崎茜そめざきあかね


現役大学生というだけで、

年齢までは当麻に教えない。



「当麻君は服が似合うんだからさ。

 パチンコばっかりじゃあもったいないって」



待ち合わせの後、服飾を扱う店に寄り、

着せ替えを喜々として楽しむ茜に、

当麻は翻弄されていた。

いつの間にか名前で呼ばれていても、

彼には嫌な感じはなかったのである。



「あの、僕の着せ替えだけでいいのかな?

 欲しい服とかあったら買うよ?」


「ええ? 私はもう十分持っているし別にいいよ。

 それよりさ! ほらこっちの青! 良いでしょこれ!」



「(青は……保留の色とかで嫌な思いでしかない……)」


 ※抽選保留の色が変化するのが最近の主流。

  これが大抵の場合 青<緑<赤<虹 などの順に熱い。

  青は大概期待はずれに終わるのが一般的だが、

  中には青のほうが熱い台もごく一部ある。



「じゃあ赤? ……ううん、嫌!

 だって私と被るじゃん!

 色だけペアルックとか恥ずい!」


「ご、ごめん!」


「ほら。謝っている間に着替えて、

 当麻君急ぐ!」


「あい!」



結局青に染まり、そわそわする当麻。

続いて床屋……ではなく、美容院に連れて行かれた。



「髪ぼっさぼさだから整えてきて」


「……気にしたことなかった」



マイナス6000円。



「サングラスとかオシャレじゃない?」



マイナス3000円。



「靴も……ボロボロだねー。

 これなんか似合いそうだね」



マイナス8000円。





「いけない……収支がつかない……」


髪も服も靴も整え、

サングラスは胸ポケットに入れたまま当麻は、

散財したことに戦慄していた。


能力で勝てるとはいえ、

そういう庶民的な部分は未だに払拭できない。



「あー楽しかった―!

 ねえねえ当麻君。

 ここ食べ終わったらどこ行こうか?」



注文し終えた段階で、

茜は満面の笑顔を浮かべている。


個室で、隣り合って座っており、

茜との距離が近い。

やはり、匂いが良い。


素直に可愛いと当麻は思ったが、

そういうことをしている場合じゃないのだと、

自分に言い聞かせた。



「えっと……どこ……かな……パ……あいや……」



そうだ。パチンコ店だ。

当麻は思った。

カップルでパチンコに行く人もいる。

自分たちが行っても……そう思ったのだ。



「あ。今、パチンコ行こうとした?」


「……うん」


「ううん……私ね。

 本当のこと言っちゃうんだけどさ」



セットでついてくるドリンクを飲みながら、

茜は当麻の耳元に口を近づけて言い放った。




「パチンコそんなに好きじゃないの」


「……え? だって、さっき」


「好きじゃないからあんまりお店にいないの。

 だって、全然楽しくないんだもん」


「好きじゃないならどうして行くのさ?」


「だって、そういう……いや、これは秘密。

 なんというか私、勝ちやすいっていうか……さ」



バツの悪そうな顔の茜。

言いにくいんだろうと思い、

当麻はフォローする。



「僕も勝ちやすいんだ。

 そこは別に言わなくてもいいよ。

 でも、僕はパチンコが大好きだから行くんだよ」


「何で好きになれるの?

 煙草臭い、騒音はする。

 臭い人もいるし。年齢層高いし。

 台を頻繁に叩いたりする◯◯◯◯もいるのよ?

 動物園というか放し飼いの小屋みたい」


「それ僕の前で言える度胸凄いね……」


「当麻君はこういうので怒ったりしないでしょ?」


「何でそう言えるの?」


「質問に質問で返した」


「お、怒らないよ」


「でしょお? 当麻君優しそうだもん。

 真面目そうだし。何でパチンコ店にいたのか不思議だったし、

 気になってたから、声かけてもらった時は、

 少しびっくりしたんだけど」


「……むず痒いな」


「褒めてるんだよ?」


「それはありがとう」



セットのサラダが届く。

2人は咀嚼しながら話をすすめる。



「今日くらいパチンコ忘れない?

 ねぇねぇ、アドレスとか教えてよ。

 大丈夫、またデートしたい時に連絡するだけだし」


「あ、やっぱデートなんですかこれ」


「私みたいな美少女捕まえてデートじゃないとか。

 傷ついた―。私今ちょー傷ついた―」


「ごめんなさい! 許して! 下さい!」


「じゃあこの後映画見に行こうか」


「わ、わかりました……」




今日は新装開店日でもリニューアル記念日でも、

グランドオープンの日でもない。


そう言い聞かせて、当麻は自分を納得させた。



「ねぇ当麻君。

 ちなみに今日はいくら使った?」


「……3万くらいかな?」


「パチンコで3万円使うのと、

 こういうことに3万円使うの。

 ……どっちが有意義だと思う?」



若干真剣な表情になった茜に、

当麻は威圧感を覚えた。

返答次第ではそのまま帰ってしまいそうな顔だ。



「……有意義なのは、絶対こっちだよ。

 そんなのわかっているさ」



料理が届く。

ナポリタンは茜が、

カルボナーラは当麻が注文したものだ。



「勝ちやすくなる前、

 パチンコに狂っていた時もそれはわかっていた。

 どっちが有意義か。

 パチンコをヤメれば、

 そのお金でなんでも出来るってことも。

 ……それでも僕は、パチンコを選んで、

 負けて、後悔して。

 ……有意義なのを馬鹿にして、

 パチンコをやる自分を正当化してたのかもしれない……」



ぴろりん、カシャッ!



「いいね。その憂いを秘めた表情、Good!」


「真面目な話なんだけど!?」


「それ昔の自分なんでしょ?

 だったらもう良いじゃない。

 昔を振り返ったって、

 過去には戻れないんだからさ。

 そんなことより、冷めちゃう!

 私の愛しいナポリタン!」


「あ、僕のカルボナーラもだよ、

 いただきます」



そうだ。


たまにはこんな日があっても良い。


卵風味のパスタで舌を喜ばせながら、

穏やかな気持で当麻は思っていた。


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