つまりパチンコは暇つぶしではない
安くて旨い。
打ち手でなくとも、
サラリーマンやフリーターも求める。
当麻と女性が求めたのも勿論それだ。
ただし、彼ら打ち手には、
休憩時間が40分と定められている。
その間に食事もトイレも済ませるため、
食べられるのは調理時間のかからない料理に限定される。
安く旨く、そして早い。
そうなれば、
ラーメン
そば・うどん
丼もの
どれも栄養バランス度外視のものだ。
駆けつけること2分。
女性がどの店に入ろうか悩んでいるところに、
当麻がたどり着く。
「あれ? さっき景気よく勝ってた人じゃないですか?
どうしたんです? 休憩ですか?」
女子高生の服装をさせれば確実に似合う。
そんな外見の女性は、当麻の顔を覚えていた。
全体的に赤が目立つ。
薄手のコート。黒く柔らかそうな手袋。
綺麗な茶色に染めた髪は、肩に届くか届かないかの長さだ。
当麻よりも大分背が低く、
両脇に手を差し込めばすぐに持ち上げられそうである。
金のネックレスはしているが、イヤリングはしていない。
スカートから覗く膝から下部分が、
細いながらもしっかりと地面を踏みしめていた。
「ちがう、……そうじゃなくて……話がしたくてさ」
当麻は他人と積極的に会話をする人間ではない。
黒騎と打ち解けたのもつい最近で、
人見知りは今だ健在だ。
顔面偏差値というものがこの世にあるとして、
上位に入るだろう女性を前にはなおさら。
緊張を禁じ得ない。
「ナンパですか?」
「違う!? そうじゃなくて……あの……その……!」
何故追いかけたのか?
当麻自身混乱していて、
話の内容を思い出せずにまごつく。
「ははぁん。お兄さんってば、
最近流行りの童貞男子演じちゃってたりしますぅ?」
「ど、どど、童貞です! ……何いってんの僕!?」
「あっははは! お兄さん面白ーい!
ねぇねぇ、私今日大学offなんだけど、
お兄さん、暇つぶしに付き合ってくれるの?」
いたずらっぽく笑った女性は、
15歳だと言っても通用しそうではある。
そんな女性から混乱に冷水をかけられたと思いきや、
人生初のデート(暇つぶし)に誘われる。
当麻はわけがわからなくなったが、
逃げずに踏みとどまった。
目の前のデート。
残された箱。
様々な思惑が交錯する中で、
黒騎の言葉が雷光の如く閃く。
『いいか。お前は存外、女が好きそうな顔をしている。
女を作ってもいいが、恋愛とかではなく繋ぎ止める程度にしておけ。
恋愛は……面倒くさいし』
閃いた言葉を参考に当麻は言った。
「暇つぶしの前に、箱流してきてもいいかな?
すぐに戻るからさ。
(黒騎さん、それダメな男の発想だと思います!)」
「あ、そうだったね。
じゃあここで待ってるから、
20分以内だよお兄さん」
「わかった」
音信不通のお母さん。
俺、パチンコやってたら女の子と遊ぶことになりました。
心のなかで母(存命)に手紙を綴る当麻。
彼は勝てる台を捨てて、
暇つぶしに向かった。
おかしい。パチンコで彼女が出来るのであれば、
私は既にハーレムを作っているはずなのに。




