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オスイチの女



一週間後に出撃する間に、

一度もパチンコに行かないなど、

当麻にとってはありえないことであった。




「とにかく、若い。

 銀河の祝福を受ける奴は総じてな。

 それでもって、あまりパチンコと関わりなさそうな、

 そんな風貌のやつが発現しやすい」



黒騎のマンションの最寄り駅から2つ。

川を挟んだ先にある駅で下車した当麻は、

パチンコ店の物色を開始した。


コンビニで購入したコロッケをかじりながら散策し、

ひとけの多いパチンコ店を探す。


やはり稼働率が8割を超える店は早々無い。

一番良かったのが、

5割弱だ。


もっとも、正午前でそれだけ集まってるのであれば、

普通に人気店と言っても差し支えはない。




「いらっしゃいませ」など、

煩わしい建前口上の聞こえない店内は、



「キュイン」

「ぽぽぽぽぴー」

「きゅきゅきゅきゅきゅきゅいん」



など、光線と確定音が耳に届く。


コロッケのあった包み紙をゴミ箱に投下後、

当麻は台のデータカウンターを見始めた。


2通のない安定性のある台を念頭に探していると、

空物語にたどり着いた。



大当たり回数は61回。


ミドルスペックで確変機の61回であれば、

出玉は相当期待してもいいだろうと腰掛ける。

以前であれば61回大当たりをあますところなくしゃぶっていたが、

今の当麻には勝つためではなく、

少しだけ勝つという考えがあった。


200回転ほど回した時、大当たりが到来する。

が、これは通常大当たりなので、

100回転の時短で手仕舞いになった。


そのまま出玉も現金も銀河に流し込むと、

確定音が景気よく鳴り響いた。



空物語は単純明快で決して悪くないのだが、

この確定音が鳴ると、同じシマ(周囲の台)の打ち手たちが、

何割かそちらを向く。


一瞬だが注目度が上がるのだ。

それがこの上なく居心地悪い。



またしても通常だったものの、

時短中に大当たりをして確変。


そのまま3回連続確変の後、

時短に入る。そして終わる。



出玉は一律1500球。

それが4回。6000球。


投資金額は2万。

この店は等価交換※ではないので、

今やめれば3000円ほどのプラスになる。


 ※ 店により交換レートが違います。

   なお、最近は等価交換が禁止になるそうです。


当麻はそこでやめず、打ち続けた。

1000球あれば60回転は出来る。

250回転目で4000球以上、

釘の森を通過していった。


そこで確定音だ。


視線が集まるので、

当麻はデータカウンターを見た。

自分の台ではなく、隣の台を。



大当たり回数はたったの1。


回転数は0のため、まだ誰も打ってはいない台だ。

誰かがこの台に座ったらどうしようと、

当麻は内心ハラハラしている。


彼はもうしばらくここで打つ予定なのだ。

61回大当たりの台となれば、

途中何回も大当たりが押し寄せることだってある。


確定音だって鳴るだろう。

隣は一切当たりが来ないか、

来ても即座に時短。


嫉妬と殺意がチクチクと痛い。






ふわりと、一瞬だが良い匂いがする。


煙草の臭いが充満するパチンコ店では珍しい、

清潔感あるシャンプーの匂いだ。


そんなバカなと当麻は思う。


しかし、その匂いの元は、

危惧してやまない隣の台に座った。


サンドに1000円だけ投入し、

僅かな球を流し込むと、

悠々と打ち始めた。




確定音が鳴り響いた。




隣の台で。

まだ500円分も溶かしきっていない。

たった6回転目で。



オスイチ(お座り一発)という単語がパチンコには存在する。


座って初めての投資が大当たりを生む。

座って一回転目で大当たりする。

座って貸し玉ボタン一回以内で大当たりする。


諸説様々あるが、

誰もが羨むラッキースタートだ。


……しかし、当麻は浮かない顔だった。


大概の人は、

一度景気よく大当たりした台を信奉する。

しかし、この台にはもう先がないのだ。


データカウンターを再度確認しても、

1という数に変化がない。


この匂いの主だってそうに決まっている。

当麻はそう思って、ちらりと顔を見た。


見知らぬ女性の顔だ。

店員が駆け寄ってきて、身分証明書を確認するほど、

若く見える。着ている服もオシャレで、

パチンコ店特有の女性らしさ皆無の輩とは、

一線を画していた。



「あっちゃー……今日はついてなかったか―」



時短100回転が終わったと同時に、

女性は席を立った。


打ち出し機に装填された銀球3球ほども空撃ち※して回収し、

そのまま店員を呼んで計数機に流すよう指示する。


 ※パチンコを辞める際には球を流します。

  全部流した後、釘の森に打ち出さぬ加減でハンドルを回すと、

  下皿に空撃ちした分の球が流れます。たった3球ほどですが。



「……偶然か?」



あれ以上打ち続けても当たらない。

それがわかるのは自分だけだ。




「とにかく、若い。

 銀河の祝福を受ける奴は総じてな。

 それでもって、あまりパチンコと関わりなさそうな、

 そんな風貌のやつが発現しやすい」



先日、黒騎から教えてもらったことだ。


銀河の祝福を受けているのであれば、

納得しうる出来事。



「(もし、僕と同じ能力だとしたら、この台には座らない。

  ……オスイチを決める力でも持っているのか?)」



それなら即効で帰るのも納得だと当麻は頷く。

そんな強力な能力であれば、

ひけらかせばパチンコ界隈で生き残れないからだ。




休憩札をもらった当麻は、

店から出た女性を追いかけたのであった。


パチンコの休憩時間は40分。

駆け付けなければ出玉がぱあになります。

……というのは箱積みの店のみ。

自動計数機のお店であれば、上皿分が没収される程度です。

もちろん、データカードはこちらで取り扱いましょう。

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