羞恥心を捨てること
積み上げられた100万円を前に。
当麻は目を輝かせたのだ。
これでまたパチンコが打てると。
新台入荷前の情報は、専門雑誌から読み取ることが出来る。
その台の大当たり確率や、
確変への条件、特徴など。
「1つ言っておくが当麻。
そこにある記者の実践結果とか、
余計なコラムはいらねえぞ」
黒騎の住処であるマンションは、
いわゆる億ションだ。
高額をパチンコと給金で捻出し、
数年がかりで積み上げた、
まさに彼の城である。
間取りも広々としていて、
十人程度なら余裕で泊めることも出来る。
調度品は最低限で、
高いだけで価値の分からないものは一点もない。
しかし、ワインには目がないのか、
小さなワインセラーは置いてあった。
「何でです?
結構ためになると思っているんですが」
彼らがその豪勢な場所でしていることもまた、
パチンコだった。
一室には古くなった実機が数台置いてあり、
パチンコに関わる書籍も多数置いてある。
「空物語っつー攻略性もねえ台を、
大真面目に語るような連中だ。
台の情報だけで十分。
特にお前にはな」
「そういうものなんですか……」
「じゃあ問題だ。
ST突破型パチンコで、
今も根強いシリーズ。
3まで出ている。
主にオタク向けである台の名称、
もしくはメーカーを答えろ」
「えっと……NAIWAの……山賊乙女?」
「ほお、記憶力は並以上だな。
そこまでわかれば上出来だ」
大手パチンコメーカーのNAIWA。
主にタイアップ機を主軸とし、
数々のヒット台を出す古株だ。
自社オリジナルコンテンツである山賊乙女は、
適当な演出とわかりやすさ、
連荘性能の高さ。
なにより強く可愛い山賊の少女たちが、
バトルロワイヤルや共闘などをする。
主だってオタク層に大受けし、
台数は少ないものの、
稼働していない店はない人気台だ。
「じゃあ新台の、『山賊乙女外伝 超銀河ライブ!』の、
スペック及び、稼動日開始日を答えろ」
「1/199のV入賞機。
100回転時短が必ず付く。
出玉性能はいまいちだけど、
継続率は7割を超えます。
稼働は一週間後です」
「うん、正解だ。
ちなみに秋葉原ではまず打てないと思え。
こういうオタク向けのコンテンツは、
真っ先に席を取られちまうからな」
黒騎とのパチンコ談義は続き、
しかし当麻は全く苦にはならなかった。
「じゃあとりあえずはその機種を一週間後に打ってこい。
……何でだと思う?」
「……恥ずかしさを克服するためですよね」
オタク向けの台には、
一般人には耐えられないほどの、
萌の押し売りが存在する。
原作を知らねばただの絵である上、
最近は半裸や、やたら胸を強調する絵柄など、
過度に色気を重視した過激な内容になっている。
闇パチという場所ではそういう台もあるのだと黒騎に言われ、
まずはその、台を打っていても苦痛を感じない、
慣れを作るべく、
当麻は一週間後、出撃するのであった。
パチンコ店に入る時点で、
既に恥ずかしいんだ。
だから気にしなくても良い。
半裸だろうと色っぽいボイスだろうと、
チューしようとか言う誘惑台にだって乗ってやれ。
案外それが、あなたと相性のいい最良台かもしれない。




