キライ
僕は殺したいほど、キライなヤツがいる。
後ろの席のヤツだ。
何がキライって、ヤツが立てる音がキライなんだ。
授業中にゲームやってるんだけど、微妙にタップする音が聞こえる。
結構強めにタップするんだ。
タンタン、タンタン。
失敗すると小さな声で
「ちっ」と舌打ちが聞こえる。
机の下でやってるから、机の脚が音を立てる。
カタカタ、カタカタ。
シャーペンをよく落とす。
カタン。カタタタ。
僕の足元に転がる。
(まただ)
僕は黙って拾って机に乗せる。
勿論、ありがとうなんてない。
ムカつく。
配布されたプリントが足りないと机を拳で叩く。
ゴンゴンゴンゴン。
口で言えばいい。
僕が「先生、1枚足りません」と手を挙げる。
先生も直接渡せばいいのに、1番前の生徒に
「後ろに回せ」と渡す。
僕がプリントを渡すまで
ゴンゴンゴンゴン。
止めることなく拳を机に振りおろす。
僕が渡したプリントはひったくられ、音は止まる。
1番嫌なのは試験の時の音だ。
カツカツカツカツ。
延々に続く筆記する音。
ふざけんな。
いつも授業なんて聞いてないくせに。
嫌がらせで、音を立てているんだろう。
カツカツカツカツ。
試験に集中できない。
まともに問題が読めない。
イライラする。
僕はちゃんと授業を受けてるのに、なんでこんなめに合うんだ。
手を挙げて先生を呼ぶ。
「先生、後ろの筆記する音がうるさくて集中できません」
先生は僕の後ろを見てから、困ったような顔をした。
小さな声で言ったつもりだったが、周囲が僕を見る。
先生は怪訝な顔をして、そのまま教壇に戻った。
なんで?
悪いのは後ろのヤツでしょ?
みんなだって聞こえてるでしょ?
僕が悪いの?
腹の奥にギリギリと熱く怒りが溜まっていくのがわかる。それは憎しみとなって僕を支配する。
殺してやる。
明日の試験も音を立てたら殺してやる。
僕はナイフをポケットに入れて登校した。
使うつもりはなかった。
脅せればよかった。
音が止まればよかった。
でも、
音は始まった。
カツカツカツカツ。
今までで1番強い筆記の音。
僕はもう、我慢できなかった。
ナイフを振り上げ、立ち上がった。
キャァ!
ガタガタ。
椅子を引き摺る音。
「何をしてる!」先生の声。
「こいつが!こいつが!」
振り返って、ヤツにナイフを向けた。
そこには、誰もいなかった。
「落ち着いて。君が1番後ろの席だよ」
教室中が静まり返る。
でも、僕の耳には確かに聞こえていた。
カツカツカツカツ。
僕がキライか?
いいよ。
わかった。
そして僕は、鼓膜にナイフを突き刺した。
教室から悲鳴が上がる。
ほら、もう聞こえない。
お前の負けだ。
カツカツカツカツ。
頭の中で音が聞こえる。
「やめてくれ!」
頭の中で声が聞こえた。
僕は君の嫌がらせが好きだったんだ。
だから、ぼくはね。死んでも君を離さない。
一生、僕の音を君にあげる。




