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2.令嬢は何故蝉ドンしたか 前半
「お前を愛するつもりはない、……アヌシュカ嬢」
旦那様は優しいのでしょう。
酷い言葉ではないのです。眼帯で覆われているとはいえ、魔障の痣が隠せていないのです。
王都の宮廷魔術師でも聖女でも治せない未知のそれから、辺境までやって来た令嬢を遠ざけたいのでしょう。
嫁いだ花嫁に何かあってはならないと、突き放す目の奥にほんのり辛さが見えます。
社交の場では義姉のおかげで「義姉を虐げる令嬢」「男を咥え込む節操無し」と噂が沢山あってヒソヒソされていました。
旦那様はそんな花嫁の人となりを確認したうえで、言葉を選んでいたようです。
噂に惑わされない人ですね。英雄とは凄いものです。
「僕はどうしたらいいでしょうか、オルトス・ベルンシュタイン様」
「貴女に瑕疵が付かないようにこちら有責の白い結婚とするので……、『僕』?」
あ、うっかり。
リッツ家の身代わりで突貫の淑女教育とやらをされたけれど、『僕』呼びは治りませんでした。
いっぱい鞭で叩かれたけど、如何にも言ってしまうので『お前はしゃべるな』と言われていました。
旦那様が優しい人なので、ついお喋りしてしまったのです。




