幕間 魔国『穏健派』先代魔王の怒り
※残酷描写あり
アヌシュカの居たリッツ伯爵領当主は頭を抱えていた。
落ちこぼれの弟が市井で何処かの平民と作った娘。
『アレ』を辺境伯に売って得た大金を元手に新規のビジネスを立ち上げたが上手くいかない。
しかも『アレ』でウザ晴らしをしていた愛娘シャルロットが、メイドを何人も痛めつけ辞めさせるだけにとどまらず。
――ピューロ男爵令嬢の腕を扇子で打ち据えて骨折させてしまった。
たかが男爵家…ではない。
その家は代々王家から上位爵位の打診があれど、王家を支える為に断り続ける忠臣の名家。
王家の家紋の手紙で相応の慰謝料の支払いを命じられ、断ることなどできない。
金がまた無くなった。
娘を諫めるも…。
「何よ‼あの平民女はどれだけ殴っても平気だったのよ!?たかが扇子で折れる訳ないっ!男爵令嬢の分際で言い掛かりよ‼」
そう言って聞こうともしない。
――規格外の耐久力を持つアヌシュカを、感情のまま痛めつけた。何度も、何度も。
結果、他者への加害の境界線がグンと低くなり、暴行性が高く『人』を壊すことの加減が出来なくなっている。
そのことに、この令嬢は気付いていない。
伯爵にとってはそんなことは些事だった。
夢を見るのだ。その所為で何もかも上手くいかないのだ。
薄暗い森に横たえられ、己の周囲を魔獣が取り囲んでいる夢。
銀色の髪の紅い瞳の女。ゾッとするほどの美貌の女がケタケタと笑い、手をかざすと獣どもが己を貪り食う。
ハッ、と。夢から醒めたかと思えば、ゴロリと転がる食いちぎられた己の首を女が踏んでいる。そして、再び夢の中で元通りになった身体を獣に貪り食われるのだ。
獣に貪り食われ続けた己の首の塚が出来上がっても、夢は醒めない。
正気のまま痛みと絶望を味わい、おぞましい程美しい女の暴虐は終わらない。
『我が真なる魔王の尊き志に従い、我は人を食べない。――代わりに、夢の中でお前が獣に食い散らかされる様を何度も見てやろう。
ふふッ、お前たちのどす黒く煮詰まった感情は食べてやらぬわ。……勝手に自滅するとよい。
――愛しのアレンと我の愛し子を慈しむ限り、その者には魔獣の森の祝福を。虐げる者には森の罰を――』
女の後半の言葉は、獣の唸り声と当主の断末魔で掻き消える。
『ふふッ、おやすみなさい。明日も、悪しき夢を――』
魔国『穏健派』諸侯王 序列 前『侯爵』エレシュカ。
アヌシュカに人間界での魔王の特権は譲渡したが、夢と死の世界ではその力は健在である。
『穏健派』と呼ばれても、それは決して人に害意を与えないという訳ではない。
愛娘を『アレ』と蔑んでいるところもエレシュカの怒りのポイントです。




