10. 甲斐性見せてくださいよ
※少々胸糞要素あり
目を覚ますと皆さん揃って何か話しています。
ぽやぽやな感覚は治まりました。
良い感情と悪い感情を一気に摂るのは良くなかったようです。
ダリアは頭を下げて、キチンと食べられないものを聞くべきだったと言っています。
「大丈夫です。食べられないものは無いです」
冷や汗を流して頭を下げるのは料理長さんです。責任取って辞めると言っています。
ブンブンと首を横に振って料理長さんを引き留めます。
料理長さんのスープはまだ一口しか食べていません。食べられないのは嫌だと思いました。
「駄目です。スープ美味しかったです。僕の父のスープの味でした。幸せの味です。
なので、辞められると食べられません」
「奥様ぁ…!」
+++++
「……」
アヌシュカの様子を入り口で眺めるオルトス(ダリアが部屋に入れてくれなかった)。
(調査書では父母が相次いで亡くなり、村で育てられていたのを、彼女の伯父にあたるリッツ伯爵家に引き取られたとあったな)
市井では平民として父母の愛情を受けて過ごしていたのだろう。…社交の場での噂といい痩せた身体といい、伯爵家では冷遇されていたようだが。
(だから酩酊状態でも表情筋が固かったのだろうか)
頬は赤くなったし、瞼も落ちかけていたが感情の起伏が薄すぎる。
「どうです、覗き見中の主。身体の痛みが無い間に夫をやる気になりました?」
「いや、しかし…」
政略結婚ならば、無理に愛そうとせず良好な関係を維持すればいい。
だが、魔王の呪いを受けた自分が彼女と接していくのは危険ではないか?
「まあそうですよね~。主が無下に扱う女主人ですものねぇ。使用人にも舐められるでしょうねぇ」
「そんな使用人はいないだろう」
「以前からバーンベルク女侯爵からお預かりしていた令嬢令息は、主もきちんと合意していましたからねぇ。今回は意識朦朧の主相手に、女侯爵が強引に結ばれた結婚ですし?
年の若い女主人に舐めた対応するでしょうねぇ」
「……」
「そりゃあ、そんな分を弁えない使用人はこっちで対処しますけど。――それをやる時は、奥様が傷ついた後でしょうねぇ」
ただでさえ感情の起伏が薄い少女が、何も言わずに嫌がらせに耐えるのを想像して自己嫌悪に陥る。
アヌシュカの診察を終えた医師の言葉を思い出す。
「奥様は…命が危うい程のお怪我を何度もされてお出でです……」
嫌がらせ――否、普通の令嬢ならば耐えられない程の虐待の痕跡があった。
頭の傷は鈍器で殴打されたもの。背中の傷は乗馬鞭で出来たもの。
薄っすらとなってはいるが、背中には広範囲のやけど痕もあった。
それらの暴力を己が招く可能性にゾッとする。
不可思議な酩酊状態も、思い出の味に感極まって自分の感情を表に出さない分、身体が驚いて過剰な反応をしたのだろう。
アヌシュカが見せた人間性を、自分が潰してしまうのは良くない。
今は魔障痕の痛みも薄い。その間に歩み寄って、関係は良好だと周囲に認識させねば。
「……怖がられないといいが」
「とっとと甲斐性見せてくださいね」




