7話 どんな人だってメロメロにしちゃうよ!
クロエちゃんと別々の場所で課題を受けることになっちゃった。私が失敗したら、ふたりとも退学になっちゃう。それは、かわいくないよ。
せっかくペアに選んでくれて、私を助けようとしてくれた人。今度は、私が力にならなくちゃ。
ここでくじけちゃダメ。諦めるのは、本当に最後の最後。全部終わってからで良いんだから。
今はお昼休み。つまり、次の授業までに待っている最後のチャンスだよ。今のうちに策を見つけられなければ、終わりだね。
頬を張って気合いを入れたいところだけど、それはかわいくない。ゆっくりと、顔に出さない深呼吸だけをしたよ。
お弁当を食べながら、周囲を観察していく。みんなが友達やペアと話しているみたい。
誰なら、使えそうかな。クロエちゃんのためにも、役立ってもらわないとね。そうじゃなきゃ、私は何も残せないんだから。
王子様とミスティアちゃんを除けば、目立つ人は三人。といっても、良い意味でも悪い意味でもあるけれど。ひとまず、あたりは付けられたかな。
「まったく、どうして平民なんかと組む羽目に……」
「僕より下のランクで、なんでそんな事を言うんだよ……」
甘辛く煮られた人参を食べながら、まずは平民扱いされている男の子を見ていく。キリッとした感じだね。
どうにも、ランクが高いのにバカにされているみたい。うつむいて、拳を握りしめていたよ。ちょっとだけ、震えてもいたかな。
たぶん、自分の実力を認められないことが悔しいんだと思う。本当は勝っているのにって。
つまり、うまく褒めることができれば、良い感じに使えそうな気がするよ。ランクも含めて、しっかり確認しないとね。
ランクが上ってあたり、最低でもCランク。私の扱いを考える感じだと、たぶんBランク。Dランクというだけで、誰とも組めなかったんだから。
うん、まずは一人目の有力候補が見つかったね。とはいえ、まだ確定するには早いよ。授業内容次第で、どうするべきかは変わってくるし。
この調子で、他の人達をどう落とすかも考えていかないとね。
「これを、こうして……。うん、うまく動いています。僕の狙い通りですね」
「なに、それ? おもちゃなんて学園に持ってきているの?」
なんかコクがある気がする粉吹き芋を口に入れつつ、今度は何かで遊んでいる様子の人を見ていく。ちょっと穏やかそうな男の子。
コマみたいに回っているものをじっと見つめていて、メモを取っている。
手作り感のある見た目だから、自分で作ったものなのかも。
印象としては、好奇心にあふれた子供に近いかな。うん、ちょっと見えてきた。
なら、おもちゃって言われているものを褒めれば、取っ掛かりになりそう。もしかしたら、作っているものだって役に立つかも。
うん、二人目にどう対応するかも、なんとなく浮かんできた。引き続き、三人目を見ていこう。
「凄いじゃん! Aランクというだけあるね!」
「当たり前だ。俺様は天才なんだぞ。その程度で褒められてもな……」
よく焼かれてパリパリになった薄いパンをつまんで、俺様系の人を見ていくよ。ほんの少しだけ悪そうな感じ。
額を抑えてため息をついているね。退屈そうに褒め言葉を受け取っているみたい。
実力に自信があるからこそ、簡単には褒められたくないのかな。プライドが高いんだろうね。
つまり、褒めるのは難しいことをしている時。他にも、いっそのことバカにするのも手段かも。やり過ぎると、かわいくないけどね。うまい言い方を考えなくちゃ。
ひとまず、ターゲットは決まったよ。後は、授業を待つだけだね。その内容で、誰に声をかけていくかを決めようかな。
「アミカちゃん、大丈夫? ごめんね、役に立てなさそうで……」
クロエちゃんが、眉を寄せながら話しかけてきたよ。自分も退学になるかもしれないのに、私の心配をしてくれている。本当に、優しい人。
だからこそ、ちゃんと課題を乗り越えないとね。恩を返せないのは、かわいくない。誰だって、そう言うんだから。
「いえ、私がどうにかします。クロエちゃんは、自分の課題をこなしてください」
「でも……。ううん、そうだね。私が失敗しちゃったら、おしまいだもんね」
クロエちゃんは、胸の前で両手をぎゅっと握りしめていたよ。
たぶん、私が心配するまでもないけれど。でも、こういう時には笑顔で送り出すのがかわいいよね。
「頑張ってください、クロエちゃん。私は、あなたを退学になんてさせませんから」
「うん、信じているよ。アミカちゃんなら、きっとできるって」
そう言って、クロエちゃんは自分の席へと戻っていく。すぐに、チャイムが鳴ったよ。
エルカ先生ともう一人が入ってきて、誰がどっちについていくかを指示される。ひとまず、狙った三人のふたりが同じ組だったよ。
ついていくと、ちょっとした森みたいな場所にたどり着いた。校舎裏にある林ってところかな。木漏れ日が届いてきて、ピクニックにちょうど良い感じかも。
エルカ先生は地面に手を当てて、何かを念じているみたい。すると、種みたいなものが飛び出てきた。
「このように、今回はエルツの種子を集めたまえ。すりつぶして溶かせば、いい味が出るのだよ。20個集められれば、合格としよう」
たぶん、地面に魔力を送り込むんだと思う。もっと言えば、狙った場所に送り込む必要がある。
そうだとすると、魔導石では厳しいかな。魔力を溜め込んで吐き出すだけで、好きに送り出せる道具じゃないから。
やっぱり、誰かに代わりに集めてもらう必要があるね。魔導石で、魔力の足しにしてもらうとかかな。余裕がある人を選べば、魔導石も必要ないかも。
今いるのは、平民の人とおもちゃの人。たぶん、平民の人の方が合っていそうかな。よし、やっていこう。
まずは、平民の人、スミス君にこっそりと着いていく。どうやって褒めるかを考えながら。
とりあえず、スミス君が種を取り出す瞬間を観察するよ。他の人と比べた感じ、一歩早そうだったね。
地面に魔力を送り込んで、種を見つける。そして、種に直接魔力を送り込む。この手順が早いってことは、魔力操作がうまいってこと。
よし、褒め方も思いついてきたよ。このまま、やっちゃおう。
今こそ、アミカ・ショウタイムだよ。私のあふれ出す魅力で、難題も乗り越えちゃうんだから!
「あの、スミス君。すっごく、魔法が上手なんですね。感激しちゃいました」
「ふ、ふーん。どこを見て、凄いと思ったんだい?」
ちょっとそっぽを向いて、でも鼻のあたりをこすっている。
効いているのが丸わかりで、ちょっと面白いかも。もしかして、初めて褒められたのかな。ちょうど良い。
でも、まだまだ。しっかりと落とすところまで行かないと、退学だからね。油断せず、全力のかわいさで。
まずは、上目づかいだよ。ちょっと瞳をうるませて、かわいくいっちゃおう。
「種に魔力を送り込むのが、とっても早いなって。いっぱい努力をしたし、センスもあるんだって思います。もっと、ずっと見ていたいくらいですよ」
「やっぱり、分かる人には分かるんだ……」
「そこらの貴族よりも、よっぽどすごいと思いますよ。ね、スミス君」
アミカちゃんかわいいテクニックその90! 褒める時は、1か所だけを具体的に!
他はふわっとしていても、いい感じに解釈してもらえるものなんだよ。
全部具体的だと、逆に疑われちゃう。ふわっとしてると、適当なことを言っていると思われちゃうんだ。
スミス君は、目を見開いてボーっとしているみたいだったよ。かなり、効いているみたい。
平民であることがコンプレックスなら、貴族よりすごいって言われるのは嬉しいよね。見事に、狙い通りかな。
アミカちゃんのかわいさには、どんな男もメロメロ。その証明の、一歩目だよ。
「それなら、本当にずっと見ていると良いさ。楽しめるものならね」
「はい。そうさせてもらいますね、スミス君」
少しだけ肘のあたりに手を触れて、そっと送り出す。本の少しだけの接触が、効果的なんでしょ?
実際、顔を赤くしてエルツの種子を採取し始めたみたいだし。そのまま、たくさん集めてもらおう。
「スミス君なら、全部取れちゃったりするかもしれませんね。100個とか、取れちゃったりして」
「ああ、僕なら簡単だよ。見ていると良いさ」
そう言って、スミス君はペースを上げていく。私はずっと褒め続けながら、スミス君に付き合っていたよ。うまく言った時には、目を見開いたりしながら。
もうすぐ時間だって頃に、百個に到達する。それを、また褒めていく。今回は、今までより一番に。
「凄いです、スミス君! やっぱり、百個にたどり着いちゃいましたね。天才っていうのは、こういうことなんですね!」
ちょっと背伸びをして、胸のあたりで両手を握る。興奮を隠せないっていう風にね。
スミス君は、自慢気に胸を張ってニヤリと笑っていたよ。
「そういえば、君は集めなかったのか?」
「あっ……。スミス君を見るのに夢中で、忘れちゃってました……。えへへ……」
そう言って、軽く舌を出して頭に手を持っていく。スミス君は、ため息をついていたよ。口元を、緩ませながらね。
「もう、仕方のない人だな……。ほら、僕の集めた分」
課題の分、20個を渡されたよ。これで、予定通りだね。
アミカちゃんのかわいさなら、どんな課題だって乗り切らせちゃうんだから。
スミス君は褒められて嬉しい。私は退学を回避できて嬉しい。お互い得をするのも、かわいさってものだよね。
「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いしますね」
「そうさせてもらうよ。よろしく」
そうして課題をクリアして、その日は乗り越えられたんだ。
次の日は、スミス君とは別の組。エルカ先生は硬そうな実を取り出して、指で砕く。
「これを、30個壊してくれたまえ。できたものから、合格としよう」
確か、あれって鉄のハンマーで砕く時もあるんじゃなかったっけ? かなり、難しそうだね。




