5話 アミカちゃんのペアは、クロエちゃんで決まり!
「クロエさん、Sランクなんでしょ? 私と組んでくれないかな?」
「俺なら、お前にふさわしいと思うぞ。どうだ、天下を取らないか?」
クロエちゃんは、いろんな人に声をかけられている。ちょっと眉を寄せながら、両手を顔の前に出しているよ。困った感じに見える。
聞く限りだと、Sランクみたい。そりゃ、人気者になるよね。
この調子なら、話しかけに行くのも難しい。私も、どうにか組む人を探さないと。
クロエちゃんなら安心できそうだけど、難しいかな。魔法のペアとして私を選ぶ理由はないよね。たぶん、よりどりみどりだろうし。
これがダンスのパートナーなら、アミカちゃんは引っ張りだこだったんだけどな。人気過ぎて、奪い合いになっちゃったかも。決闘とかまで起きちゃったりして。
ただ、Dランクの人と組みたい人は少ないだろうし、どうにかアミカちゃんのかわいさを伝えていかないと。メロメロにしちゃえば、私を求めるかもしれないんだし。
よし、まずは行動だよね。ひとまず、声をかけられそうな人を探してみよう。
軽く周りを見回してみると、堂々と立っている女の人が見つかった。誰にも声をかけようとせず、ただまっすぐに立ったまま。口元に、扇子のようなものを当てながら。
カールの入った燃えているような赤い髪が、とにかく目立つ。唇を釣り上げていて、自分に自信があるのがよく分かる笑顔だよ。
その人のところに歩いていって、笑顔で話しかけていくよ。うまく、興味を引けるように。
「あの、すっごくキレイですね。あなたみたいな人と一緒なら、私まで素敵に見えちゃうかもしれません」
「当然よね。このあたしは、輝ける存在なんだもの。仰ぎ見ることなら、許してあげてもいいわ」
胸を張って、当たり前みたいに宣言している。うん、少しは興味を引けたみたい。悪くないよ。やっぱり、アミカちゃんのかわいさは天にとどろいちゃうんだ。
この調子で、ペアを組むところまで行っちゃうよ。そうして、良い仲間を手に入れちゃうんだから。
「ですから、あなたがもっと輝けるように、お手伝いさせてくれませんか?」
「へえ、いい心がけね。悪くないわ。あんた、なんていうの?」
「アミカです。ミスティアさんの素晴らしい輝きを、いっぱい見せてください」
名前は、机に書いてあった。こういう自信満々なタイプは、名前を聞くと機嫌を損ねかねない。どうして知らないのとか言われたりするかも。
だから、褒めつつ私とのペアを組むことを良いことだって思わせちゃう。これが、アミカちゃんのかわいさだよ。
実際、ミスティアさんは感心したみたいに頷いてくれた。うん、いい感じかも。
「あたしを輝かせるには、実力が必要よね。あんた、ランクは?」
終わったかも。そんな気がした。たぶん、話をそらそうとしても無理。答えないと、ほぼ確実に機嫌を損ねちゃう。
そして、Sランクなんて言って気付かれちゃったら、アミカちゃんのかわいさも失われちゃう。
うん、仕方ない。ちゃんと言うしか無いか。でも、笑顔は忘れないようにしなくちゃ。
「Dランクって、判定されました。でも、むしろミスティアさんの輝きは目立つかもしれませんし……」
「ダメね。あたしは、最高の成績を取って輝くの。あんたじゃ、それを満たせないわ」
「そう、ですか……。ごめんなさい、お時間を取らせちゃって」
「ま、あんたも頑張りなさいよ。見る目だけは、あるみたいだし」
頭を下げて、私は次の相手を探しに向かう。目に入ったのは、腕を組んでいる男の人。ワイルドな金髪で、ちょっと生徒会長に似てるかも。
槍を握って、感覚を確かめているみたい。何度も何度も、少しずつ変えている感じだよ。
名前を見ると、ディーハルト・ステビア・クレスメントって書かれていた。生徒会長と同じファーストネームだし、王子様みたい。
よし、次はこの人でいこう。男の人をメロメロにしちゃえるかわいさだって、しっかり証明しちゃうんだから!
近寄っていくと、王子様は目線だけ私に向けてきた。ちょっと、気だるげかも。
「あの、王子様。あなたは、どんな人と組みたいと思いますか?」
まずは、自分語りをさせちゃおう。そこから、相手の好きなタイプを探っていくよ。うまく好みに合わせるのが、かわいさを増幅させるんだから。
これも、アミカちゃんの素敵さがなせる技だよね。やっぱり、かわいすぎるよ。
王子様は、ちらりと私を見てきた。そして、退屈そうに話し出す。
「無論、努力ができる人間だ。自分の才を磨き上げ、確かな実力を持った者。Dランクなど、論外だ」
冷たい目で、私のことを見ている。もしかして、さっきの話を聞かれていたのかも。たぶん、説得するのは難しい。
でも、きれいな笑顔を保たないと。結果が出ないからって笑顔を捨てたら、それこそかわいくないんだから。
「じゃあ、私は釣り合わないみたいですね。いつかふさわしくなれるように、頑張りますね」
そう言って頭を下げて、王子様のところからは去っていく。鼻を鳴らすような声が、後ろから届いたよ。
続けていろんな人に声をかけていっても、結果は出なかった。
「Dランクは、流石にちょっと……」
「将来のためにも、妥協はできないの。ごめんなさい」
「身の程というのを、わきまえようぜ」
態度はいろいろだったけど、全員答えは同じ。私とは、組めないって。
ペアができていない人には、一通り話しかけた。けれど、ダメみたい。うつむきたくなっちゃう。拳を握りたくなっちゃう。
でも、ダメ。ここは教室。みんなが見ているんだから。かわいさだけは、無くせないよ。
どうするか考えるために、一度自分の席に戻る。すると、クロエちゃんの周囲には、まだ人がいっぱいだった。
「ごめんなさい。ちょっと、通してくれないかな。少し、考えたいから」
そう言って、クロエちゃんは集団の中を通り抜けていく。
「Sランクだからって、調子に乗りすぎじゃない? みんながダメなんて」
「なんていうか、態度悪いよな。俺たちの話も、ろくに聞いていなかったみたいだし」
そんな声が聞こえて、私はクロエちゃんを追いかけることにしたんだ。きっと、心無い声に傷ついている。だから、少しでも話を聞こうって。
クロエちゃんが私のために本を犠牲にしてくれたことは、まだ忘れていないんだから。
実は、ちょっとだけ期待もあるけれど。みんなと組むのを断るのなら、私と組んでくれるかもって。
しばらく追いかけていくと、クロエちゃんはグラウンドにあるベンチに座り込んでいったよ。そして、ため息を付く。
見る限り、本当にうんざりしていそう。だから、私は隣に座って、何も言わないことにしたんだ。
少しして、クロエちゃんは私の方を見てきたよ。ほんの少しだけ、目を見開いていたね。
「アミカちゃん……?」
「ふふっ、来ちゃいました。ねえ、クロエちゃん。なにか嫌なことがあったのなら、聞きますよ」
「アミカちゃん……。なら、聞いてもらってもいいかな?」
クロエちゃんは、少しだけ瞳をうるませていたよ。悲しい気持ちが、伝わってくる。だから私は、すぐに頷いたんだ。それが、かわいさのはずだから。
少しだけ沈黙が走って、ぽつりぽつりと言葉がこぼれていく。
「みんな、組みたいって言うんだ。私じゃなくて、Sランクの魔法使いと」
「そうかもしれませんね。Sランクって、凄いらしいですし」
「うん。私と組んだら、良い成績を取れるって思うんだろうね。本人が強くなるわけでもないのに」
「あくまで、クロエちゃんが強いだけですからね」
「それに、誰も私の顔なんて見ていない。嫌だと思っても、平気で話を続けてくるんだ」
「困っちゃいますよね。クロエちゃんにも、やりたいことがあるのに」
私は、ただクロエちゃんが話しやすいように言葉を選んでいくよ。それが、一番かわいいからね。
アミカちゃんかわいいテクニックその100! 相談を受けたら、まずは気持ちを全部吐き出させるのが大事!
アドバイスは意見を受け止めた後に考えるのが、優しい人って思われるコツだよ。
仲良くなる前だと、余計なお世話だって言われちゃうこともあるからね。私にも、経験があるよ。
クロエちゃんは、自分の気持ちをいっぱい話してくれた。それが、正解だよね。
「うん。私は、私を見てくれる人と組みたい。そう思うのは、いけないことかな?」
「そんなこと、ないですよ。クロエちゃんの気持ちは、大事です」
「……アミカちゃんは、私と組んでって言わないね。……うん、決めた」
そう言って、クロエちゃんは私の手を握ってくれた。もしかしたらって気持ちが、湧き上がってきたよ。
でも、もし違ったとしても、がっかりした態度を出さないように。それが、かわいさだよ。まっすぐに、クロエちゃんの目を見た。
クロエちゃんはゆっくりとはにかんで、しっかりと目を合わせて話してくれたんだ。
「アミカちゃん。私と、組んでくれないかな。あなたとなら、きっと頑張れるよ」
「でも、私は……」
言葉を言い切る前に、クロエちゃんは私の唇を人差し指で押さえてくる。そして、最高の笑顔を見せてくれたんだ。
「大丈夫。私は、魔法なら誰にも負けない。どこへでも、連れて行ってあげるから」
「クロエちゃん……」
「それで、どうかな?」
クロエちゃんは、小首を傾げた。私は、迷わなかったよ。
「お願いします、クロエちゃん。私と、ペアになってください」
「もちろんだよ。よろしくね、アミカちゃん」
私は頷いて、クロエちゃんも頷く。お互い、笑顔がこぼれてきた。ちょっとだけ、笑い声も。
こうして、私のペアは決まったんだ。
みんなの申請が終わると、エルカ先生はこう言ったよ。
「ペアの片方が落第になった場合、そのペアは退学だ。気張りたまえよ、学生諸君」




