4話 魔力だって、アミカちゃんのかわいさで!
「入学式では、魔力測定があります。その結果次第では、退学になるというのが今年からのルールで……」
入学式の会場まで案内してくれる人に、そんなことを言われた。ちょっと、音が遠くなったかも。日差しが強くて、やられちゃったかな。
でも、笑顔を心がけなくちゃ。そうしないと、何も解決できないから。
ハッキリ言って、状況は良くない。魔導石を使うにしても、測定のやり方が分からなくちゃダメ。
例えば、私のおでこから測定するみたいな検査だった場合、それで詰み。とにかく、情報がないと話にならないよ。
よし、まずは目の前にいる人に聞いてみよう。ひとりずつ案内しているみたいで、ふたりきりだから。
アミカ・ショウタイムなのかもね。頑張っていっちゃうよ。
「基準とか、聞いているんですか? その、何も分からないまま退学になったりとか……」
ちょっとうつむいて、怖がっている様子を演出。かわいいアミカちゃんの今みたいな顔を見て、無視なんてできないよね。
実際、案内の人は眉をハの字に寄せて、私のことをじっと見ていたよ。ちょっと、同情的かも。そうなるよね、やっぱり。
「たぶん、ほとんどの人は大丈夫だと思います。Eランクの人だけが退学らしいので。でも、どうして急に……」
Eランクというのは、いわゆる一番下だね。私とは違って、魔力がある前提でだけど。そう。私みたいに魔力がない人には、それを指す言葉すら無いんだ。
でも、少しだけ希望が見えてきたかも。魔導石をうまく使えば、検査をごまかせるかもしれないよね。
ソフィさんのおかげで、運にも恵まれてきちゃった。かわいいアミカちゃんのことを、天も愛しているんだよ。よし、このまま情報を集めちゃおう。
「検査は、みんなで一気にするんですか? 人前だと、緊張しちゃいそうで……」
「一応誰からも見えますけど、ひとりずつです。だから、こうしてひとりずつ案内しているんですよね」
そう言いながら歩いていると、奥の方で検査をしている姿が見えてきた。テントみたいなものの下で、全身に緑の光が当てられている。ちょっと遠くに、光を出す装置があるね。
たぶん、体全部から魔力を測定しているのかな。そうなると、魔導石は全身に仕込まなくちゃいけないかも。
まあ、まずは聞いてみよう。予想だけで策を考えるより、よっぽど効率的だから。
「あれって、どういう仕組みなんですか? 危なかったりしますか?」
「安心してください。空間にある魔力を測定するんです。だから、全身の魔力貯蔵量が分かるんですよね」
私を落ち着かせようとするような笑顔で、そう言われる。けれど、まずいかも。
確か、ソフィさんは魔力が少ししか込められていないって言っていた。まさか、全部の魔力を込めたりしないはず。魔力が抜けていくと、吐き気とか痛みを感じるって読んだことがあるし。
だから、全身にある魔力量よりは少ないはず。つまり、今回の測定では不利ってこと。
そもそも、ソフィさんは何ランクなんだろう。魔力が少ないって言っていたし、高くはないと思うけれど。わざわざ聞くのは、あんまりかわいくないし。人の秘密に、踏み込むものじゃないからね。
でも、今は困っちゃうかも。いや、それでもかわいさだけは捨てちゃダメだったよ。これで良かったんだ。
「ありがとうございます。じゃあ、頑張ってきますね」
測定を受けようとする人たちの列に近づいたから、頭を下げる。こういう細かいことが、かわいさに繋がるんだから。
「頑張ってください。応援していますね」
そう笑顔で言って、案内の人は去っていった。うんうん、アミカちゃんのかわいさが通じている証だね。
魔導石を取り出す。そして、ぎゅっと握りしめた。お願い。どうか通じて。
どうしようかな。列に並ぶ前に、周囲を見ていく。知っている顔が見えた。まっすぐな金髪を伸ばした、いかにも気品があるって感じの女の人。昨日、会った人。
お日様に照らされる姿が、輝いて見えそうなくらい。私ほどじゃないけどね。
挨拶しようかな。そう考えて、近づいていく。すると、その前に振り向かれた。私の手元を、じっと見てくる。
「あら、面白いものを持っておりますわね。見たことがありませんわ。それは、なんですの?」
魔道石から感じる少しの熱と同じものを、この人からは強く感じる。思い返してみると、クロエちゃんと同じくらいかも。
たぶん、この人は魔力が多いんだ。なら、チャンスのはず。いい感じに説得して、魔力を込めてもらっちゃおう!
今こそ、アミカ・ショウタイム! 私のかわいさを、全力で!
「これには、魔力が込められるんです。あなたみたいな凄い人なら、すっごく面白い結果になるかもしれませんよ。もしかしたら、輝いちゃうかもしれません」
アミカちゃんかわいいテクニックその44! 興味を引きたいのなら、ちょっと大げさに!
普通のことを普通に言うだけじゃ、目立ったりはしないんだよ。
私も、ただ話しかけただけじゃ無視されたことも多かったからね。工夫したら、変わったこともあったんだ。
実際、魔導石が光るのかは分からない。けれど、魔力を全力で込めてみたいと思わせれば、勝ちなんだから。そのためには、好奇心を刺激しないとね。
「あら、そうですの。ふふっ、なら、私はちょうど良いかもしれませんわね。いくつか、貸してくださいな」
大成功みたい! アミカちゃんは、やっぱりかわいさの達人だよ! ちょっとだけ目や口を細めて、穏やかな笑顔で渡していくよ。うっかり相手の気が変わらないようにね。
その女の人は、魔導石を握って圧を高める。少し、熱が強くなるのを感じたよ。
真剣な目で魔導石をじっと見ているのは、やっぱり興味があるからなんだろうね。
そして、私に魔導石を返してくれる。さっきまでより、温かい感じがしたよ。
「あら、普通の顔をしておりますのね。今の魔力では、驚きませんでしたの?」
「凄い魔力だなって、思いましたよ。きっと、とても才能があるんですね」
「……なるほど。では、魔力測定、頑張ってくださいな。ねえ、アミカさん」
「さっきは、ありがとうございました」
目を細めて私を見てきた後、薄く笑みを浮かべながら去っていった。頭を下げて、送り出したよ。
もしかしたら、偶然出会ったわけじゃないのかもしれない。
それどころか、私の狙いを完全に察していた可能性もある。お礼、なのかな。だとしたら、かわいいテクニックは余計だったかも。でも、反省は後。
退学になったのなら、きっと関わることすら無いだろうから。優先順位は、ハッキリさせないとね。
そのまま私は、荷物をしまうふりをして全身に魔導石を仕込んでいく。カバンに手を突っ込んで、そこから袖やスカートの中に入れていくんだ。他に並んでいる人に、不正扱いされないようにね。
終わってから列に並んで、しばらく。測定の時には、荷物を置く。ここに魔導石が入っているって、みんな信じているはずだよ。
私のところに、緑の光が当てられる。そして、結果が出た。その数秒間、ちょっと息が遅かったかも。
「Dランク。では、講堂に入ってください」
軽く息をつく。ギリギリだったみたい。さっきの人の助けがなかったら、完全に退学だったね。
そのまま講堂に入って、指定された席につく。しばらく待って、入学式が始まったよ。
いろんな人が、退屈な話をしていく。けれど私は、真剣に聞いていくよ。それも、大事なかわいさだからね。
そうしていると、生徒会長の挨拶の番になった。出てきた人は、さっきの人。周囲を見回して、堂々と話し出していたよ。
「皆さん、私はユミナス学園の生徒会長、フィリア・アクリア・クレスメントですわ。名乗った通り、第4王女でもあります」
第4王女だったんだ。ちょっと、口を開きそうになっちゃう。頑張って、ぎゅっと引き結んだけれど。
でも、納得したよ。だから、気品を感じたんだ。王女様だもんね。
生徒会長だし、もしかしたら仲良くできるかも。王女様と親しくなれたら、いろんな意味でアミカちゃんのかわいさが補強できるはず。
「わたくしは、皆様にとって良き学生生活となるよう、尽力させていただきますわ。どうぞ、気軽に話しかけてくださいまし」
とっても落ち着いた笑顔で、王女様は頭を下げる。なんとなく、優しい人なのかなって気がしたよ。
それからは特に変わったこともなく入学式は終わって、それぞれの教室に向かう。同じ部屋にクロエちゃんがいて、手を振ってくれたりもした。私も、小さく振り返したよ。
少し待つと、先生みたいな人が入ってきた。そして、この学園について説明していく。
「この学園では、主に魔法を学ぶ。私は、担任となるエルカだ」
エルカ先生は、ちょっとだけおヒゲを伸ばした、グレーの髪が印象的な人。ダンディって感じかも。これからお世話になる人だし、しっかりと観察しないとね。
先生にかわいいって思ってもらえれば、授業だって順調に進むはずだよ。
「大事なこととして、ペアで授業をこなしてもらう。相方の足を引っ張らないよう、頑張りたまえ」
その説明が、一番大事だったよ。私は、Dランクとして入学した。ペアを見つけるのは、大変かも。
「では、各自ペアを組みたまえ。誰と組むか、よく考えるようにな」
先生がそう言った瞬間、クロエちゃんのところに人が殺到するのが見えたんだ。




