32話 全力のかわいさで
カイン君は、王子様に向けて勢いよく剣を振り下ろしたよ。そして、同時に大量の氷を叩きつけようとしていく。雪崩をうつみたいに。
それだけで、すべてを燃やし尽くしているって分かったんだ。勝つために、全身全霊どころじゃないものをかけているって。
さっきまでカイン君の居た方を見ると、魔導石が丁寧に置かれていた。私の大事な物を、ちゃんと大事にしてくれたってこと。回収だけして、私も動き出すタイミングを計っていくよ。
私の武器は、みっつ。クロエちゃんの防御魔法と、ローランド君の光の石。そして、言葉での挑発。
どれもメリットとデメリットがあって、使い所が難しい。
防御魔法は、カイン君の攻撃を邪魔しちゃう可能性もある。光の石は、通用する場面がかなり少ない。言葉に至っては、効果がない方が普通なんだ。
だけど、私は勝つよ。カイン君の勝利を、彩ってみせる。それが、アミカちゃんのかわいさなんだから!
「なぜ、そこまでする! 全身が痛いはずだろう! たかが女狐のために、どうして!」
「苦しいからって止まるのが、ガッツなわけねえだろ! アミカはやった。なら、俺様だってやる!」
カイン君は、全身から汗を吹き出している。唇を釣り上げながらも、引きつらせている。
魔力が少なくなってくると、全身に痛みが走るらしい。たぶん、それなんだと思う。
だからこそ、止めちゃダメ。カイン君の気持ちに応える唯一の手段は、勝つことだけなんだから。
まずは、一手。まだまだ、挑発を続けてあげるんだから!
「カイン君、頑張ってください! 私のためにすべてを燃やして、勝って!」
「この期に及んで……!」
「隙だらけだぞ、王子様よう!」
王子様が私をにらんだ一瞬に、カイン君は剣を突き立てに行く。受けられて、蹴りで反撃されそうになる。
カイン君が距離を取ると、電撃が飛んでいく。私が、その前に躍り出る。
電撃が、私の前で霧散する。カイン君は回り込んで、氷を連発する。何度も何度も。顔を苦しげに歪めながら。
「クロエもカインも、どうして利用されたままで満足していられる!」
「私は、利用されているわけじゃない! 友達として、助け合っているんだ!」
「アミカの姿が、俺を利用しているだけだとでも? 最高のガッツじゃねえか!」
王子様は、カイン君に向けて雷を飛ばす。氷で防いでいる間に、また私が射線上に入る。カイン君をかばい続けて、王子様が魔法を止めたら飛び退いた。
カイン君は、合わせて王子様に氷を放つ。対する王子様は、飛んでかわす。
「カイン君! 私を守り抜いてくださいね! 悪い王子様から、絶対に!」
「貴様、まさか俺を……」
目を真ん丸にしながら、王子様は私のことを見ていたよ。何か、気付いたのかもしれない。
さて、今はどんな心理なんだろう。私が挑発していることは、いいかげん分かったと思うけれど。
今となっては、安易な挑発は通じないよね。どうしようかな。
光の石を使うには、まだ早いよ。そうなると、次はカイン君の盾になることかな。
でも、使い所が大事だよね。しっかりと、邪魔をしないように。
「アミカばっか見てんじゃねえぞ!」
また、カイン君は剣を振り下ろす。王子様も、また受ける。今度は、カイン君から蹴り飛ばしに入っていた。
王子様は距離を取って、雷を飛ばす。私は、もちろん盾になる。
「カイン君。最大の一撃は、撃てますか?」
「いけるぜ、アミカ。20秒、稼いでくれさえすれば!」
「なら、私が絶対に通しません!」
王子様は、ぽかんと口を開けているみたいだった。そして、きゅっと唇を引き結ぶ。
「そんな強さも、あるのだな……」
もごもご動く口から出た言葉は、よく聞こえなかった。けれど、槍を構え直す姿はハッキリと見えたよ。
「なら、俺の一撃を打ち破ってみせろ! 行くぞ!」
王子様は、その場から私に向けて電撃を放ってきた。一度目はまっすぐに。二度目はバラバラに。三度目は、収束して。いろんな手段で、追い込もうとしている感じ。手を変え品を変えって風に。
特に三度目は、強かった。激しい音が鳴っていたよ。何かが爆発したんじゃないかってくらい。
だけど、私に届くことはない。あっけなく、消え去っていくよ。クロエちゃんの防御は、絶対なんだから。
「最高だぜ、アミカ! これが、俺様の最大火力!」
その声が聞こえた瞬間、私は横に走り出した。そして、ゆっくりと止まる。
カイン君の前には、まるで山みたいな氷が浮かんでいた。少なくとも、見上げなくちゃいけないくらい大きいものが。
王子様は、氷のことをじっと見ている。迎え撃つかのように、槍を構えて。
カイン君は氷を浮かび上がらせて、落としていく。
私は、光を王子様の右目に向けて放つ。王子様は、両手で両目をかばっていたよ。
かがみながら、苦しむ姿が見える。熱湯でも浴びちゃったくらいに、激しく。そこに向けて、氷が落ちていったんだ。激しい土煙と氷の破片が舞い上がって、私のところまで届いたよ。
煙が晴れると、王子様は槍を杖にして起き上がろうとしていたよ。少しして、倒れ込んでいく。
仰向けになって、どこか晴れやかに笑っていたんだ。なにかから、解放されたみたいに。
決着がついた。誰の目にも、明らかだったよ。
そして、フィリアさんは私たちのところへ近づいてくる。
「終わり、ですわね。アミカさんたちの勝利ですわ。……本当に、見事でしたわ」
フィリアさんは私の手を取って、じっと見つめてきたよ。5秒くらいして、ようやく手を離すくらいに。
どこか、強い感情が見えたような気がしたかな。どんなものかまでは、分からなかったけれど。
そしてフィリアさんは、冷たい目で王子様を見下ろしていたよ。壊れたガラクタを見るような目で。
「では、ディーハルト。下水で、顔を洗いなさいな」
「いいえ、必要ありません。王子様が、私を認めてさえくれるのなら」
私は、フィリアさんの手をぎゅっと握って首を振ったよ。きっと、敗者にムチを打つのはかわいくない。
下水で顔を洗うなんて、きっと苦しいと思う。分かっていて、させたくはないよ。
でも、王子様は一度目をつむって、まっすぐに私の方を見てきたんだ。
「……違う。認めているのなら、けじめが必要だ。俺は、やる」
「それこそ、違います。ねえ、王子様。私と、握手してくれませんか? それで、仲直りです」
王子様のところに歩いていって、手を差し出す。握ってもらえれば、立ち上がれるように。そして、そっと微笑んだんだ。お月様みたいに、じんわりと。許すって気持ちを、伝えるように。
これが、アミカちゃんのかわいさだよ。他の誰がなんと言ったって、変わらないこと。
「アミカ……。お前は……」
「どう、ですか? 私と仲直りするのは、嫌ですか?」
王子様は、しばらく色んなところを見ていたよ。そして最後に私を見て、頷く。目を合わせながら、ゆっくりと。とても、まっすぐな目。気持ちなんて、言葉がなくても分かるくらい。
「……分かった。お前が、それで納得するのなら……」
そう言って、私の手を取ってくれたんだ。すぐに、すっと立ち上がる。そして、クロエちゃんたちの方に手を向けていたよ。
「さあ、行ってくれ。お前たちの勝利を、祝う人たちのところへ」
私はその言葉に従って、まずはクロエちゃんの方に向かう。まっすぐに走ってきたクロエちゃんは、勢いよく抱きついてきたんだ。
「アミカちゃん! これで、ずっと一緒に頑張っていけるね!」
背中まで、手を回される。私も、同じように手を回していったよ。
そんな私たちに、他の仲間達も近づいてきたんだ。
「アミカのガッツが、勝利を導いたんだ。悔しいが、俺様だけじゃ勝てなかった」
「おめでとう、アミカさん。カインも、悪くなかったな」
「僕の道具を、あんなに役立ててくれて……。ありがとうございます」
「ほ、保険を使わなくて済んで、良かった……」
「少しは、心配させられたがね。まったく、無茶をするものだ」
みんな、それぞれの形で私を祝福してくれたんだ。
だから私は、最高に輝く笑顔を見せていくよ。口も目も、最大限に使って。
「カイン君のおかげで、アミカちゃんは勝てたんだ。そのケガ、ちゃんと治さないとね」
光がカイン君を包みこんでいく。すぐに消えて、もう傷は見えなくなっていた。カイン君は腕を回したり首を回したりして、調子を確認していく。元気いっぱいに、ジャンプまでしていたよ。
もう、バッチリ回復しているみたい。これで、全部終わったね。
みんな、笑顔で私の方を見ていたよ。勝利を祝福する気持ちが、どこまでも伝わってくるくらいに。
ただ、少しだけ目に入るものがあったんだ。
それは、王子様が去っていく姿。どこか、思いつめたような顔で。
「ごめんなさい、みんな……」
「行ってきて、アミカちゃん。それが、アミカちゃんなんだから」
クロエちゃんに背中を押されて、私は王子様を追いかけていったよ。




