30話 最高に輝くかわいさを
カイン君は、雷の直撃を受けた。私たちの作戦は、失敗した。もうきっと、同じ手は通じないよ。
胸の鼓動が、妙に早い。汗がこぼれそうになるのが分かる。ちょっと、寒いかも。
カイン君は、無事なんだろうか。私の前で、ただ私を守っているけれど。今でも、両手でかばい続けてくれている。
降参、すべきなのかな。そんな考えが、頭によぎったよ。
「カイン君……」
私は、声を抑えきれなかった。悔しかったのかもしれない。悲しかったのかもしれない。分からない。とにかく、声も全身も震えているんだ。
王子様は、ただ私に冷たい目を向けるだけ。背筋が、ゾクリとしたよ。
「これで終わりだ、アミカ。痛い目を見たくないのなら、今すぐに……」
「俺様が終わりだって、いつ言った! ここからが始まりだぜ、王子様よ!」
カイン君は、王子様に剣を振り下ろす。さっきまでより、むしろ速いくらいで。王子様は受けて、即座に私に電撃を飛ばしてくる。
読んでいたみたいで、カイン君は氷を射線上に出していた。私には、届かない。
カイン君、笑ってる。ところどころに傷が見えるのに、それでも。今からが本番だって気持ちが、とても強く乗っているみたいに。
うん、私のやるべきことは決まったよ。ただ、信じて応援するだけ。それだけかな。
アミカちゃんかわいいテクニックその11。苦しみも悲しみも、地獄でだけ見せれば良い。
最高にかわいい私だけを、周りに知ってもらえば良いんだ。
そう、ここで悲しい顔をしても、カイン君は喜ばない。私のかわいい姿を見せることが、最高の応援になるはずだよ。
どこまでも弾ける笑顔で、行くよ! 口を大きく開いて、お腹に息を入れて!
今こそ、アミカ・ショウタイム! カイン君に、力をあげるんだから!
「カイン君、勝って! 私は、あなたを信じます! 私を狙う卑怯な王子様になんて、絶対に負けないって!」
「当たり前だろ! 俺様がガッツ見せねえで、誰がやるってんだ!」
カイン君は叫ぶ。そしてすぐに氷を王子様に向けて、たくさん飛ばす。それこそ、雨あられみたいに。
当たるかなと思ったけれど、激しい光とドカンという音が届いてきたよ。私の足元まで、揺れるくらい。
結局、王子様は無傷みたい。こうなってくると、私は何もしないのが正解だね。口で挑発するくらいが限界かな。
私が動き回って王子様の狙いを誘導しようとしても、たぶんカイン君と息を合わせきれないから。
いくらなんでも、そこまで以心伝心とはいかないよ。私とカイン君は、会って数回の関係だから。
勝手に分かってくれると信じるのは、かわいさじゃない。本当にやるべきことは、ちゃんと現実を見ること。カイン君と勝つために、最善を尽くすこと。
だから、今の私はこの場で立ち続けるだけ。妙な策は、足を引っ張るだけ。それが、今の私とカイン君の関係だもん。
「ただ見ているだけか、アミカ! それが醜いと、何度言えば分かる!」
「私は、カイン君に任せると決めました! それを貫くだけです!」
「ああ! 俺様が勝つ! それで、十分だぜ!」
カイン君は、今度は剣を叩きつけていくよ。上から、横から、下からも。
王子様は、槍の柄で受け続ける。的確に、垂直になる形で。
私は、ただ笑顔を浮かべ続けるだけ。それこそが、私のやるべきことだから。
もし少しでも王子様が苛立ってくれたら、十分に成果だから。カイン君の足を引っ張らないように動くのは、それが限界。
何もしないことこそが、私の策。
ねえ、王子様。どうか私を甘く見ていて。そうしてくれれば、カイン君の力になってくれるはずだから。
「カイン君、最高です! あなたなら、どこまでだってたどり着けます! 頂点にだって!」
「まずは、この王子様をぶっ倒す。そこからが、最強への道だよなあ!」
「この期に及んで、ぬけぬけと! だが、良いだろう。そこまで言うのなら、望み通りにお前から倒してやるよ、カイン!」
そう言って、王子様はカイン君に向けて槍を突き出す。受けようとするカイン君を見て、王子様は笑った。
何も見ないまま、私に向けて電撃を飛ばしてきた。カイン君は、また私をかばったよ。
今度も、カイン君に電撃が直撃する。バチバチという音が、私のところまで聞こえたんだ。
明らかに、私を餌にする戦略を取ってきた。フィリアさんの言っていたことが、頭によぎったよ。
王子様は、正々堂々と戦うのが一番弱いって。たぶん、こういうことなんだね。
私を守ろうとするカイン君。だからこそ、それが隙になる。王子様は、どこまでも私を弱点として利用するつもりなんだ。
「動くんじゃねえぞ、アミカ! 俺様は、必ず勝つ!」
「どこまで耐えられる! カインが倒れたら、アミカの負けだ! さあ、どう動く!?」
王子様は、私に槍を突きつけてきた。確かに、このままじゃまずいかも。
でも、だからこそ落ち着いて。いま勝手なことをしても、カイン君は力を発揮できない。それに何より、必死になって守ってくれている気持ちを裏切るってこと。
私のかわいさは、ただ勝手な判断をすることじゃない。カイン君の気持ちに、できる限り応えなくちゃ。
でも、だからといって何もしないのは違うよね。カイン君が本当に苦しい時には、絶対に。
誰からも見えないように、私は背中に隠した拳を握ったよ。動き出すタイミングを、考えながら。
「カイン君、頑張って! あなたが勝つのなら、私は何もしなくて良いんです!」
「それがお前の本性だ! 薄汚い女狐め! 自分の愚かさを、退学で償え!」
「分っかんねえやつだなあ! それは、アミカのガッツに決まってんだろ!」
カイン君は、王子様の動きをうかがっている。攻め込もうとせずに、様子見をしながら。息が上がっているのが見える。
間違いなく、今カイン君は苦しんでいる。だから、少しでも消耗を抑えようとしているんだ。
王子様は、私に手を向ける。カイン君は、私をかばおうと動く。そこに向けて、王子様は槍を突き出す。
カイン君は、氷を出していたよ。砕け散った奥に、槍が突き進んでいく。ギリギリ、剣で受けるのが間に合ったみたい。
完全に、王子様は私をどう利用するかを戦術にしているね。
私を狙うふりをして、カイン君を狙う。カイン君を狙うふりをして、私を狙う。
どの攻撃が本当で、どの攻撃が嘘か。しっかりと見極めなきゃいけない。そういう風に、カイン君を追い込んでいくつもりなんだ。
「女に溺れる男は、こうも弱いものか。俺は、お前のようにはならないよ。なあ、カイン」
「俺様が弱いかどうかを、てめえが語るんじゃねえよ!」
カイン君は、今度は距離を取りながら氷を撃っていく。王子様の姿を、観察しながら。
たぶん、ただ待っているだけだとダメだと思ったんだろうね。私を狙うかカイン君を狙うかを、見極めきれないから。
距離を取ったのは、少し遅れても対応できるようにってこと。私には、よく分かったよ。
そして、王子様にとっても同じだったみたい。
徹底的に私を狙い続けて、壁としてカイン君を釘付けにする。そして本人は悠々と回り込みながら攻撃する。雷でも、槍でも。
カイン君は、何度も雷に当たっていたよ。そのたびに叫んで、激しく反撃しながら。
だけど、限界が来たみたい。片膝をつく姿が、見えたんだ。
「これで、終わりだ! 愚かな男よ!」
王子様は、カイン君にもう一度雷を放った。私は、その前に飛び出していったよ。カイン君を、背中にして。




