3話 これもアミカちゃんの人徳ってやつ!
寮にある自分の部屋。その扉の前で、私は立ち往生していた。
これは、誰かに手伝ってもらって解決する問題じゃないかも。だって、毎日開けてもらうのは無理だし。個人の部屋だから、ずっと付き合ってはもらえない。
そう。いま部屋に入れたところで、後で困るだけ。これは、ちょっと厳しいかも……。
でも、うつむいちゃダメ。人目があるかもしれないんだから、しっかり笑顔で。かわいくしていなくちゃ。アミカちゃんは、そうあるべき。
私はいつでも輝いていないと。でないと、なんの価値もない存在になっちゃうから。
ノブを回したり、いろいろ押したりしてみる。だけど、やっぱり開かない。たぶん、シャワーとかも使えないよね。
このままじゃ、アミカちゃんのかわいさまで危険だよ。お風呂でキレイにならないと、いくら顔が良くてもね。小汚いって思われたら、私は終わり。
拳を握りしめたいし、もっと言えば扉を殴りたい気持ちもある。でも、そんなのかわいくない。
暴力は、かわいさとは正反対。だから、絶対に使わないよ。だってそう。お星さまは誰も傷つけたりしないんだもん。アミカちゃんだって、同じこと。
隙間風みたいなものが、私を吹き付けた。ちょっとだけ、震えちゃう。もしかしたら、風も私を拒絶してるんじゃないかって。
ううん、アミカちゃんの魅力は、風だって魅了できる。私に焦がれて、近寄ってきただけ。それだけだよ。
でも、どうしよう。本当に、詰んでいるかも。クロエちゃんに頼っても、意味がない。他の人だって同じ。だからって、代わりに扉を開ける手段もない。
寒い。さっきの隙間風で、凍えちゃったのかも。私は、ここで折れる運命なのかな。
ううん、諦めちゃダメ。とにかく、落ち着こう。扉の前にいてダメなら、ちょっと離れてみるとか。
他の人の動きを見ていたら、なにか思いつくかもしれないからね。
とりあえず、いくつか廊下を歩き回っている。人の流れが、見えていたよ。みんな、忙しく歩き回っているみたい。
そうしているうちに、座り込んでヒモをいじっている人を見つけたよ。長い金髪の、綺麗な人。完璧な肖像画から、出てきたみたいな。でも、今はとっても困った顔をしているよ。
みんな、遠巻きに見ている。近寄ろうとすらしていないみたい。
なら、私がかわいさを見せちゃわないとね。人前でなら、もっと輝けるんだから。お星さまよりも、ずっとね。
「大丈夫ですか? 私に手伝えることがあったら、言ってください」
「あら……? そうですわね。このヒモが、絡まってしまって。ほどけなくて、動けなかったのです」
「なら、私に任せてください。そういうの、得意なんです」
服と靴のヒモが絡まっていて、かなり動きづらそうになっていた。だから、うまく動けなかったみたい。
私には、自分で頑張ってほどいた経験もあるからね。こういう時は、ヒモの先をまず探すこと。見つけたら、先から順番にひとつずつ。根気さえあれば、単純なんだよ。
すぐに外すことができて、私は笑顔でほどけたヒモを見せていく。そうしたら、相手は薄く微笑んでいたよ。
「ありがとうございました。このお礼は、また後ほど。では、アミカさん。さようなら」
優雅に手を振って、女の人は去っていったよ。私は名乗っていないのに。そんなことも聞けないまま、見送ったよ。
ただ、私はかわいさを貫けた。それだけは、間違いないんだ。
でも、何も解決していないけれど。また扉の前に戻っていって、深呼吸。
ちょっと、座り込みたくなっちゃった。誰かに見つかったら終わりだから、できないけど。
どうしようかな。どうしたら、解決するのかな。ただ、時間だけが過ぎていく。
うつむきそうになるのを、歯を食いしばって抑えていたよ。
「アミカさん、見つけたわ。親切な人に、ここに居るって教えてもらえたの。長い金髪の、綺麗な……」
そんな声が後ろから聞こえて、振り向く。メイド服を着た、よく知っている顔があったよ。
なんだか、座り込みそうになっちゃった。さっきとは違う理由で。かわいくないから、頬を噛んで我慢したけれどね。
でも、多分安心したんだと思う。力が抜ける感覚は、きっとそのせい。
それに、さっきの人助けも返ってきたんだ。良かったよ。まだ、何も解決していないけれど。
そうだとしても、私はアミカちゃんだから。かわいい笑顔で、お迎えしないと。顔を華やがせて、お腹に力を入れて明るい声を出すよ。
「ソフィさん! こっちに来ていたんですね!」
「ええ。門を開けられなくて、ごめんなさい。手伝ってくれた人には、感謝しないと」
そっか。ソフィさんは、私を助けてくれるつもりだったんだ。なら、私はひとりじゃない。家でも助けてくれたメイドさんだもん。信じなきゃ、何もかわいくないよ。
でも、どうするんだろう。ずっとソフィさんについていてもらうのも、難しいだろうし。
例えば、教室の扉をどうやって開けるのかとか。メイドさんが入れない場所だと、結局ダメなまま。
そんな事を考えている間に、ソフィさんは大きな荷物を床において、扉を開けていたよ。そして、中を手で示してくれる。
「ひとまず、入りましょう。細かい話は、それからね。アミカさん、お腹が空いているでしょう」
そう言われると、なんだかお腹が軽いような。実際、しばらく立ったままだったもんね。少し、疲れちゃったのかも。
しっかりと頭を下げて、きらめく笑顔で頷いていくよ。感謝の気持ちが、届くように。
「ありがとうございます。確かに、お腹がペコペコなんですよ」
「なら、腕によりをかけて作るわね。あんまり豪華なものは、難しいけれど。ごめんなさい、アミカさん」
頭を下げるソフィさんは、歯を食いしばっているように見えた。たぶん、お父さんあたりから命令されているんだろうね。豪華なものを食べさせないようにって。
でも、それはソフィさんのせいじゃない。雇い主からの命令に逆らえば、クビなんだから。生活がかかっているんだもん。仕方ないよね。
だからこそ、責めたりしないよ。相手の事情を考えない人なんて、かわいくないもん。
ソフィさんはキッチンをしばらくながめて、カバンから食材を取り出す。そして、料理を始めていったよ。
カバンには、なにか色々と入っている感じだね。筆っぽいものも見えたような。後は、なんか重そうかな。私が持ったら、顔がかわいくなくなっちゃいそうなくらい。
どうしても必要なものは、自分で持ってきたつもりだけど。ちょっと、どんなものか気になるかも。
ともかく、今は料理ができあがるのを待とうかな。ついでに、持ってきた荷物を入れちゃおう。
そう考えていたけれど、タンスの扉が開かない。することもなくなった私は、本を読んでいく。
しばらくして、料理の匂いが届いてきたよ。香ばしい、野菜の匂い。後は、何か分からないけど、どこか良い匂いも。
ソフィさんは料理を運んできてくれた。今回は、色とりどりの野菜の煮物。それと、野菜が浮かんだスープ。
ひとつずつ食べていくと、煮物はちょっと辛くて甘い感じ。スープは、なんか溶かした石鹸みたいな何かが浮かんでいた。ちょっと黄色い感じ。
口に運ぶと、深みっていうのかな。そういうのを感じたよ。不規則に浮かぶものが、こってり? するというか。知らない味だけど、一体なんだろう?
「このスープ、いつもよりおいしい気がします」
「なんのことかしら?」
ソフィさんは、ただ笑顔を浮かべている。なら、これ以上触れない方が良いのかな。
たぶん、本当に腕によりをかけて作ってくれたんだと思う。命令に逆らってでも。お野菜だけでも、しっかり工夫して。
けれど、気付かれたらソフィさんはクビになっちゃうのかもしれない。なら、黙っているべきだよね。
パーフェクトなかわいさを持つアミカちゃんは、気づかいも一流なんだから!
「じゃあ、今日は舌の調子が良かったのかもしれませんね」
「そうね。アミカさんが健康みたいで、何よりだわ」
「ありがとうございます。今日もお料理を作ってくれて」
「仕事だもの。当然よ。感謝されるまでもないわ。気持ちは、嬉しいけれどね」
そう言って、ソフィさんは薄く微笑んでいた。やっぱり、私のことを大事にしてくれているのが伝わってくるよ。
せっかくの料理だから、ちゃんと味わって食べていく。スープは全部飲み干しちゃった。ちょっと、はしたなかったかも。
でも、ソフィさんはニコニコしてくれている。これも、かわいさなのかもね。
「じゃあ、荷物をしまうわね。その前に、これを。アミカさん、タンスに近づけてみて」
ソフィさんから、石みたいなものを渡される。それをタンスに触れさせると、開いていったよ。
つまり、この石があれば、魔力が必要な道具は使えるってことなのかな。
ソフィさんのカバンには、他にも似たようなものがたくさん入っている。きっと、とても重かったんだろうね。
そこまでして、私が頑張れるようにしてくれる。だから私は、ソフィさんに最高の笑顔を向けたよ。顔全部を使って、満開になるように。
「ありがとうございます。これがあれば、ちゃんと生活できますね」
「その魔導石に魔力を込めれば、家具に魔力を注ぎ込めるわ。とりあえず、魔力が必要な道具は使えるはずよ」
魔導石っていうみたい。どの本にも載っていなかったはず。もしかして、とても凄いものだったりして。でも、お父さんやお母さんがわざわざ準備するとは思えない。
ソフィさんは、信じられないくらい頑張ってくれたのかも。いろんなところに、頭を下げてくれたりとか。もしかしたら、作ってくれていたりして。なんて、そこまではないか。
でも、かなり手間をかけてくれたのは間違いないよ。本当に、見たことないものだから。
なら、全力で学生生活を楽しんでいかないとね。それを、ソフィさんも望んでいるはず。
アミカちゃんかわいいテクニックその107! 親切はまっすぐに受け入れるのがポイント!
変に遠慮なんかせず、後でお返しするのが大切なことなんだ。
断り過ぎたら、逆に機嫌を損ねちゃうこともあるんだからね。
「ありがとうございます。いくつか持っていって、使わせてもらいますね」
「かなりの魔力を注ぎ込めるわ。私の魔力では、ほんの少ししか込められなかったけれど……」
「分かりました。ソフィさんのおかげで、安心して過ごせそうです」
「気にしないで。アミカさん、頑張って。そのために、魔導石は生み出されたの」
「大丈夫です。私は、絶対に負けません。まずは明日の入学式、頑張りますね」
その言葉に、はにかんで返してくれたよ。
アミカちゃんかわいいテクニックと、魔導石。このふたつの武器を使って、学生生活を乗り切っちゃうんだから!
えっ? 入学式では、魔力測定の結果次第で退学!?




