29話 かわいさに翻弄されちゃえ!
フィリアさんが開始の合図をして、さっそくお互いが動き出したよ。王子様から雷が、カイン君から氷が飛ぶ。雷はどこまでもまっすぐに飛んでいって、出された氷に直撃した。
ものすごい爆発音がして、お腹までビリビリしたよ。少し蒸気が立ち上っていて、軽く視界にモヤが入る。私のかわいさが、ギャラリーに届かなくなっちゃいそうだね。
「この程度で終わるほど、弱くはないか。お前ほどの実力があるのなら、分かるはずだ。ただ他者を利用するだけのやつが、どれだけ醜いか!」
王子様は、槍を突き出しながら叫んでいたよ。顔を歪めながら、吐き捨てるように。
何もダメージを受けていないのに、どこか苦しそう。やっぱり、心のどこかに傷があるんだろうね。
でも、エルカ先生の時とは違う。きっと、勝たなきゃ話すら聞いてもらえないよ。
だから、私のすることは簡単。ローランド君にもらった道具を、最高のタイミングで使うことだけ。それまで、カイン君に頼り続けるだけ。
「アミカには、体を張るガッツがあんだ! 俺様にただすがるだけの、情けないやつじゃねえよ!」
カイン君は剣を振り下ろして、突き出された槍にぶつける。激しい金属音が、私のところまで届いてくるよ。ガキンガキンって、しびれそうなくらい。かなり前にローランド君の鉄の棒が出していた音よりも、何倍も激しく。
受けられた王子様は、また突きを出す。カイン君も、また剣を振り下ろす。何度も何度もぶつかりあって、キンキンした音が響き続ける。まだ、ダメ。王子様の目を直接狙える状況じゃない。
そうだね。カイン君が少しでも勝てるように、私にもできることがあるかな。
私のかわいさが届かないのなら、逆に利用してあげるね。王子様は、私の声なんて聞きたくないでしょ?
カイン君との戦いに茶々を入れられて、どこまで冷静さを保てるのかな?
私は、ちょっとだけ媚びるような笑顔を浮かべたよ。少しでも、王子様のシャクにさわるようにね。
「カイン君、あなたなら、きっと勝てます! 私に、未来を見せてくれます! 王子様と違って! 私のために、頑張ってください!」
「貴様、やはり……! このセリフを聞いても、お前はアミカの味方をするというのか! カイン!」
すぐに、王子様は顔を歪めたよ。苦々しいって感情が、隠せていないみたい。
でも、だからこそカイン君は笑うんだ。とっても楽しそうに、唇を釣り上げてね。
私の考えなんて、何も言わなくても伝わっているみたい。そうだよね、カイン君。
王子様は、今度は槍と一緒に雷を放つ。カイン君も、合わせて剣と氷を放つ。
槍はグッと突き出されて、カイン君は剣の腹で受ける。雷が勢いよくカイン君に突き進んでいって、目の前に現れた氷に防がれる。
金属音と爆発音が混ざりあって、すっごく耳が気持ち悪い感じ。
ふふっ、王子様は一気に攻めようとしているよね。冷静さを、失っちゃってるんじゃないのかな?
「今の言葉こそが、アミカのガッツなんだよ! てめえには、見えねえか!?」
「カイン……。お前を、見誤っていたようだな。そこまで、女に溺れるとは!」
今度は、王子様は後ろにステップをしてから魔法を撃つ。雷を、次々に。カイン君だけを、ただ狙い続けながら。
対するカイン君は、少しも攻めようとしない。ただ淡々と、雷の先に氷を置き続けるだけ。
何度も何度も、氷が砕け散っていたよ。それでも、カイン君は不敵に笑う。戦いが、楽しくて仕方ないみたいに。
「この俺様を溺れさせられるっていうのなら、大した女じゃねえか! なあ、アミカ!?」
「最高に素敵ですよ、カイン君! その調子で、悪い王子様をやっつけてください!」
「貴様……! クロエに守られてさえ、いなければ……!」
苦虫を噛み潰したみたいなっていうのは、今の王子様みたいな顔なんだろうね。ふふっ、私を攻撃できないのが、悔しいのかな?
相当、私が憎いみたいだね。こっちをにらみつけて、カイン君に氷をぶつけられそうになっていたよ。
慌てて、カイン君に向き直っていたけどね。もう少しかな。もう少しで、王子様は最高の隙をさらしてくれるはず。
私は、それまで口で攻撃を続けるよ。カイン君も、合わせてほしいな。私の戦いなんだから、任せるって言ってくれたもんね。信じているよ。
「目の前に居る俺様も見えねえか!? てめえには、戦いのセンスもねえみたいだな!」
「たかが一撃も与えられない分際で、よく吠えたものだ! クロエの足元にも及ばない程度だろうに! ただの代替要員だろうに!」
王子様は、今度は近づいて槍を突き出していたよ。カイン君の顔を狙っている感じみたい。
でも、だからこそカイン君は落ち着いている。私にも狙いが分かりやすいんだから、ただ合わせるだけでいい。
あっさりと、王子様の攻撃は防がれる。続いて、また顔を狙っていたよ。
だいぶ、料理ができてきたみたい。もう少しで、仕上げができるはず。しっかりと、待たなくちゃ。
私は、こっそりと息を整えたよ。そして、後手にローランド君にもらった石を握りしめたんだ。
「棚上げか? クロエの足元にも及ばねえのは、てめえもだろうが! 王女様にもか!?」
「黙れ……! 貴様ごときが、知ったような口を効くな……!」
王子様は、顔を真っ赤にしていたよ。相当、トサカにきたみたい。
なるほどね。少しは分かった気がするよ。フィリアさんは、クロエちゃん並みの魔力を持っている。王子様は、クロエちゃんに二体一でも勝てなかった。
だから、王子様は努力を心の支えにしているんだ。そうすれば、フィリアさんにも勝てるかもしれないからって。
一応、ただの推測。でも、当たっていると思うよ。実際、カイン君に対して攻撃のペースを高めているからね。
槍を突き出して、カイン君に受けられる。雷を飛ばして、やっぱり氷に止められる。
明らかに、冷静さを欠いているよね。そろそろ、私の出番かな。
きっと、最高のタイミングはカイン君が反撃に移った時。その瞬間に最大の威力が出せるように。よし、もう一手を打とう。
カイン君への苛立ちだけじゃ、まだ足りないよね。私からも、追撃をあげる。
「王子様の努力は、私が誰よりも見てきました! フィリアさんにだって、きっと勝てるはずです!」
「アミカ……! 黙らないのなら、まず貴様から……!」
そう言って、王子様は私の方をにらみつけてきた。槍も、少しだけこっちを向いたみたい。
即座に、カイン君は剣を振り下ろす。王子様は、槍の柄で受ける。同時に、氷も放っていたよ。
雷を返す王子様は、憎々しそうな様子でカイン君を見ていたよ。剣を、両手を使ってなんとか押し返しながら。
「俺様との戦いだってのに、ずいぶんと余裕だなあ! そんなザマだから、王女様にも勝てねえんじゃねえか!?」
「貴様たちは、どこまでも俺を甘く見てくれる……! お望み通りに、叩き潰してやろう!」
魔力を集中させているのが、王子様を包み込む光で分かった。王子様から、カイン君の全身を飲み込みそうな雷が放たれる。
そして、カイン君も合わせて氷の壁を貼る。全身を、包み込むように。
ぶつかりあって、衝撃波が飛ぶ。地面から、土埃が舞い上がっていたよ。
少しして、二人の様子が見えてくる。王子様は、歯を食いしばりながらカイン君を見ていたよ。
そして、カイン君は氷を放つ。それに対して、王子様は魔力を集める。
今が、最高のチャンス!
私は王子様の目に向けて、光を放ったよ。王子様は、目を両腕で覆ったよ。
そこに、カイン君の氷が飛んでいく。合わせて、剣も振り下ろしていったんだ。
王子様に向けて、カイン君の攻撃が向かっていく。勝利に向けた攻撃が。
直撃しそうになる、その直前。王子様は、私に向けて雷を放ったんだ。
カイン君は私をかばって、雷の直撃を受けていったよ。バリバリって音が、私の耳に残った。
「カイン君!」
「……始めから、こうしておけば良かったのだな。女に溺れた男の末路がこれか」
カイン君を見ながら、王子様はこぼす。バカにしたように、冷たい視線を向けて。その奥にいる私も、にらみつけるように。
その言葉が、耳から離れなかったんだ。




