26話 アミカちゃんのために争わないで!
「僕は、勝つぞ。カイン、お前を倒してみせる」
「俺様を超えるだけのガッツを見せられるのならな。やってみろ」
ふたりは、お互いに剣を構えているよ。目が燃え上がっているなんてこと、見なくても分かりそうなくらい。
クロエちゃんの方を見ると、手を振りながら笑いかけてくれたんだ。
「私としても、スミス君から守りきれない人には、アミカちゃんを任せられないよ」
「言われてるぜ、スミス? 目に物見せる覚悟は、あるんだよなあ?」
「クロエさんの言うことだから仕方ない。そんな風に納得する程度の覚悟じゃ、ないさ」
カイン君は獣みたいな笑みを浮かべて、スミス君はまっすぐにカイン君を見ていたよ。ふたりの意志は、とっても強いみたい。
実際、ふたりともクロエちゃんの足元にも及ばないと思う。それが、現実。
だけど、私はふたりのことも信じるよ。守ってくれようとする人を信じないのは、かわいくないから。
もちろん、打てるだけの手は打つけれど。信じると言っても、私にできることは全部する。それも大事なかわいさだから。
まずは、カカシ役をしっかりと頑張っていこう。ふたりが、全力を尽くせるように。
ふたりは、じっとにらみあう。そして、何も言わずにスミス君が飛び出していったよ。
「アミカさん、ごめん。でも、これも必要なことだ。カイン、守りきってみせろ!」
スミス君は、いきなり私の方に魔法を撃ってくる。激しい炎が、飛んできたよ。燃え盛る火球が、どこまでもまっすぐに。確かな熱が、届くような気がしたんだ。
カイン君は、氷を撃って相殺する。水蒸気が、ゴウゴウと舞い上がる姿が見えたんだ。
蒸気が広がる姿は、スープの蓋を開いた時の10倍よりも大きいかも。私の肌を温めるには、ちょっと過激すぎるかなって。ぷにっぷにのお肌が、真っ赤にヤケドしちゃう。
次に、スミス君は私に全力で駆け寄ってきていたよ。剣を振り下ろす姿が、見えたかな。
カイン君は、剣で真正面から受けた。ガキンと、甲高い音がなる。避ければ、私に攻撃が当たる。だから、カイン君は受けるしか無い。つまり、スミス君が主導権を握っているってこと。
しばらくつばぜり合いが起こる。カイン君もスミス君も、震えるほどに力を込めているみたいだった。
押し合い引き合い、ふたりは少しずつ大勢を変えていたよ。そして横に向かい合った時、スミス君は私に片手を伸ばす。そこから、炎の魔法が飛んでくる。
カイン君は、両腕を十字に組んで私をかばっていたよ。焦げた匂いが、届いてきたんだ。
「随分と手癖が悪いじゃねえか、スミス! だが、その程度で俺様に勝てると思うなよ!」
カイン君は吠えながら、だけど攻め込まない。冷静に、スミス君の動きを見ているよう。
熱い言葉を唱えているけれど、心は冷えているみたい。私を守るための手を、策を、しっかりと練っている。
それが分かっているからこそ、スミス君も動きにくいみたいだった。回り込もうとしても、カイン君は絶対に私を背中から離さない。
私を狙い続けるスミス君と、意地でも守ろうとするカイン君。ふたりの意地が、ぶつかり合っていたよ。
しばらく、拮抗して。しびれを切らした様子のスミス君が、カイン君に魔法を撃った。また、炎が飛んでいく。あっさりと、氷に防がれる。
「どうした、カイン! 臆病風に吹かれたか!?」
「安い挑発だな、スミス! 苛立ってるのが、丸わかりだぜ!」
挑発合戦は、スミス君の負けみたい。顔をしかめたのが、隠せていなかったよ。
それでも、まだカイン君は攻めない。態度とは裏腹に、とても慎重。だからこそ、本気が分かったよ。
私を守るために、最善を尽くそうとしてくれている。俺様系らしいワガママさを、今は感じなかった。
スミス君は、また炎を撃つ。カイン君は相殺する。その蒸気を突き抜けて、剣を振り下ろしていたんだ。
ただ、カイン君は冷静に防御に回る。しっかりと剣で受け止めて、今度は腹に蹴りを入れたよ。
直撃して、一瞬だけ体がくの字になる。それでも、スミス君は低くした大勢から剣を振り上げたんだ。
「そう簡単に、負けてられないんだよ!」
「ガッツあるじゃねえか、スミス! だからこそ、俺様が勝つ!」
お互いに吠えて、剣がぶつかり合う。弾き飛ばし合って、今度は炎と氷がぶつかり合う。何発も何発も、ただ撃ち合っていたよ。
蒸気が、ふたりを包み込む。今度は、薄暗く感じる中で、剣の音が響き続けていたんだ。
そして、音が止まる。蒸気が晴れていくと、膝をついたスミス君が居たよ。カイン君は、首元に剣を突きつけていたんだ。
つまり、カイン君の勝ちってこと。王子様に挑む相手は、決まったみたいだね。
「お疲れ様、ふたりとも。悪くなかったよ」
クロエちゃんはふたりに近寄っていって、魔法でふたりを包みこんでいたよ。すぐに、傷が消えていくのが分かった。
カイン君は炎が直撃していたし、スミス君はくの字になるくらいに蹴られていた。それに、最後には蒸気の中で戦っていたからね。傷だらけだったんだよ。
そこまでしてくれるのは、嬉しい。けれど、少しだけ悲しくもあったかな。目を伏せるのは、ふたりに悪い。それに、かわいくない。だから、しなかったけれど。
「ありがとうございます。カイン君、頼らせてくださいね」
「俺様に任せておけ。絶対に、勝ってみせるぜ。誰が相手だろうとな」
「僕は、マイケル君を手伝うさ。負けたなりに、できることをしないと」
カイン君もスミス君も、お互いを見て笑い合っていた。なにか、通じるところがあったみたい。男の子って、ぶつかり合った先にわかり合う。聞いたことあったけれど、本当なんだね。
でも、良かったよ。わだかまりは、解けたみたいだから。私は、笑顔でふたりを見たんだ。
「さて、では作戦会議を続けますわよ。といっても、もう方針は決まっていますわよね」
「俺様がアミカを全力で守る。アミカは、俺様が動きやすいように守られる。それだけだな」
「余計なことは、なるべくしません。素直に、守られておきます」
「そ、それなら安心だね。僕も、落ち着いて見ていられるよ」
「ふふっ、微笑ましいこと。少しだけ、アドバイスを致しましょう」
フィリアさんは、手で口元を抑えながら笑っていたよ。どんなアドバイスか、気になるかも。
私は、ローランド君の発明を使うことも考えているんだけど。何か、役に立つかもしれないし。
まずは、フィリアさんの話を聞いてからだけどね。アドバイス次第で、何が役に立つのかも変わるかもしれないから。
「はい、聞かせてください」
「ディーハルトは、正々堂々と戦うのが一番弱い。ですので、一度だけ奇策を使って、一手で仕留めれば良いのですわ」
「確かに、ディーハルト君は正面から戦いたがるタイプだね」
フィリアさんの言う事に、エルカ先生も頷く。そうなると、かなり参考になる意見だと思っていいかな。
ただ、一番意見を大事にすべき人がいる。私は、カイン君に視線を向けたよ。
「俺様が真正面から勝てれば、必要ねえ策だがな。だが、これはアミカの戦いだ。従うぜ」
それを聞いて、私はローランド君の方を見たんだ。私にできることを、ちゃんとやるために。
ローランド君は、楽しそうに笑ってくれたよ。そして、頷いてくれたんだ。
「お願いします、ローランド君。あなたの道具を、貸してください」
「もちろんだよ。僕の道具置き場に、案内しますね」
これで、次の策を準備していけるね。勝つために、まだまだ手を抜いたりしないんだから!




