25話 かわいさが集めたみんな
王子様は、私に槍を突きつけながら、強く、とても強くにらみつけてくる。私を、完全に憎い敵だと思っているように。
「今ここでやるか? お前にその度胸があるのなら、だが」
「私は誰かと傷つけあいたくなんて、ありません」
「逃げるというのなら、王子としての力を使うだけだ。好きにすれば良い」
「一方的にいたぶるような真似は、承服できかねるね……!」
エルカ先生の声が聞こえた。そちらを見ると、息を荒げている様子の先生が見える。たぶん、急いで走ってきてくれたんだと思う。
やっぱり、私のかわいさが届いちゃったみたいだね。ちょっと、希望が見えてきたかも。
クロエちゃんも、私を見ている。飛んできてくれたんだ。やっぱり、素敵だよ。
絶対に、ここで終わったりしないよ。私とクロエちゃんの物語は、始まったばかり。今からが、輝く時間なんだから。
いつの間にか、周りでは多くの人が見ている。きっと、噂が広がっていったみたい。
やっぱり、野次馬というのは出てきちゃうものだね。私のかわいさも、目当てかもしれないけど。
なら、もっと輝く姿を見せてあげる。アミカちゃんが誰よりもかわいいって、みんなの前で示してあげるよ。
じっと王子様を見つめると、私をもう一度にらみつけて、鼻を鳴らした。
「ふん。なら、戦力を用意すれば良いんだろう。ひとり、助っ人を出せば良い。ただし、クロエ以外だ」
「負けるのが怖いのかね? それでは、正々堂々とは言えまい」
「恥ずかしくないのか? 所詮アミカは金魚のフン。クロエの影に隠れるだけの存在だ」
王子様は、クロエちゃんをちらりと見る。そして、私を見下ろした。
確かに、クロエちゃんが居なければ、今日までユミナス学園に居ることはできなかったよ。
だけど、それが私とクロエちゃんの絆なんだから。今度は、王子様をじっと見つめ返したんだ。
「あ、アミカちゃん……」
クロエちゃんは、両手を胸の前で握って不安そうな顔をしている。
私は、できる限り穏やかな笑顔を浮かべたよ。少しでも、安心してもらえるように。
これが、アミカちゃんのかわいさ。今だって、変わらないよ。
「大丈夫です。私には、他にも手伝ってくれる人がいますから」
「なら、俺に勝てる戦力を用意すれば良い。できるのなら、な」
頭に浮かんだのは、カイン君だった。きっと、協力はしてくれると思う。そこは問題じゃないかな。
ただ、勝てるのかどうか。私の見立てだと、一歩届かないというのが現実。
それでも、他の選択肢は少ない。ミスティアちゃんは、協力してくれないだろうから。スミス君は、カイン君に比べたら一段落ちる。
でも、まずはしっかりとお願いするところからだね。直接戦ってもらうだけが、協力じゃないんだから。私のかわいさみたいな何かは、きっとあるはずだよ。
「アミカ君を攻撃して、降参させようというのではあるまいね」
「だったら、クロエの防御魔法だけは、手助けとして許可しようじゃないか。流れ弾で文句を言われては、敵わないからな」
「では、生徒会でその戦いを取り仕切りますわ。ね、アミカさん」
声が聞こえてきた方を見ると、落ち着いた笑顔が見えたよ。穏やかな令嬢って雰囲気の女の人。生徒会長で、第4王女。フィリアさんだね。
王子様は、フィリアさんの方を見ながら目を白黒させているみたい。驚いているのが、目に見えたよ。
「姉さん、なぜ……」
「あれほど騒いでいては、目立つに決まっているでしょう。考えの浅いことですわね、ディーハルト。それでも王子なのですか?」
王子様は、目をそらして拳を握りしめていたよ。たぶん、フィリアさんが王子様の傷に関係があるんだ。
少しは見えてきたけれど、いま何かを言ってもダメだよね。余計に状況を悪くしちゃうだけ。
そうだね。今は流れを見守ろう。かわいさが活かせる場面が出た時に、前に立つべきだよね。
「生徒会まで巻き込むような話じゃないだろう。姉さん、手を出さないでくれ」
「受けなさいな、ディーハルト。これは、わたくしの慈悲でもあるのですわよ?」
フィリアさんはただ微笑んでいるのに、とてつもない圧力を感じた。空気がビリビリと震えそうなくらいに。
ちょっと光も見えて、魔力の感じだとクロエちゃんに匹敵するかも。
王子様は、気圧されたみたいに一歩下がったんだ。そして、少ししてから、むっつりと頷いたよ。
「……分かった。アミカ、逃げるなよ。少しでも、恥を知っているのならな」
そう言い残して、王子様は去っていったんだ。
入れ替わるように、私の知り合いたちが一斉にやってきたよ。ミスティアちゃんが、連れてきたみたい。
「ご苦労ですわ、ミスティア。これで、舞台は整いましたわね」
「まったく、このあたしを使いっ走りにするなんて。いくら王女様でも、許されないわよ」
「あら。では、わたくしと成り代わってみますか? できるのなら、構いませんわよ」
ミスティアちゃんはちょっとだけフィリアさんをにらんで、ため息を付く。腰に手を当てて、そっぽを向いた。そのまま、去っていったよ。
そして、私の知り合いたちはそれぞれの顔をして話しかけてきたんだ。
「アミカさん、大変みたいだな。もちろん、僕は力を貸すさ。なんだって、やってみせるよ」
スミス君は、ぎゅっと拳を握りながら軽く笑う。確かな気合いを、感じられたよ。力になってくれるのは、間違いないね。
「もしアミカさんが退学になったら、話し相手が居なくなっちゃいます……」
ローランド君は、少し寂しそうにうつむいている。だけど、私をまっすぐに見ていたよ。きっと、頑張ってくれるはず。
「よ、弱い僕には、決闘はできないよ。でも、必ず力になってみせる。約束だ」
マイケル君は、ちょっとオドオドしているみたい。それでも、しっかりとした意志が見えたよ。やっぱり、変わったんだね。
「もちろん、俺様の出番だろ? 相手にとって、不足なしだ」
カイン君は、腕を組みながら唇を釣り上げている。闘争心が沸き起こっているのが、目に見えるようだよ。逆境ほど燃えるのは、間違いないかな。
「みなさん、ありがとうございます。私のために、来てくれて」
「さて、これで準備は整いましたわね。さっそく、作戦会議と行きましょうか」
「ぼ、僕は戦えないから……。せめて、退学が中止になるように署名を……」
マイケル君は、すぐに意見を出してくれたよ。戦えないなりに最善を尽くそうって姿勢が、よく分かったんだ。
胸が暖かくなるのを、確かに感じたよ。私の怪我は、絶対に無駄じゃなかった。そうだよね。
「あら、良い提案ですわね。わたくしも、手伝って差し上げますわ」
「保険は大事だ。僕も疑っていない。だが、もっと大事なこともあるだろ?」
スミス君は、まっすぐにカイン君を強く見ていた。拳を、握りしめながら。きっと、誰が戦うのかを決めるつもりだね。
私としては、カイン君の方が強いと見ているよ。でも、止めるのはかわいくない。そうだよね。
対するカイン君は、腕を組んだままだった。
「勝てるのか、てめえに」
「そっちこそ。守れるのか、アミカさんを」
じっと、視線がぶつかりあっている。たぶん、男の意地ってやつなんだよね。
だったら、止めない方が良いかな。全力を出してもらった方が、みんなにとって良いはずだよ。
カイン君は、また唇を釣り上げていたんだ。
「なら、カカシでも用意するか? お前から、無傷で守ってやってもいいぞ」
私は、クロエちゃんの方を見た。やりたいことがあったから。
「クロエちゃん、良いかな?」
「もちろん、守りきってみせるよ」
何も言わなくても、伝わってくれたよ。カカシの代わりに、私が出るって。
かわいいアミカちゃんを奪い合うふたり。なんてね。意地のぶつかり合いだっていうのは、分かるつもりかな。
「なら、カイン君。私を守れるって、証明してみせてください」
「良いガッツだ、アミカ。それで、スミス。てめえは、どうなんだ?」
「ごめん、アミカさん。でも、僕はやる。勝てるんだって、証明してみせるさ」
片目を釣り上げるカイン君を見て、スミス君は私に頭を下げてきた。
私の決闘の前に、ふたりが決闘をすることになっちゃったみたい。
でも、私は見守るよ。それが、かわいいってことだからね。背中を押してあげるのも、大事なことだもん。
ふたりが納得できる未来だったらいいな。そう、そっと祈ったんだ。




