23話 その時間に価値を導いて
「無駄だとも……! 私の費やした時間は、無駄そのものでしかなかった……!」
エルカ先生は、目を見開きながら叫ぶ。血を吐き出すかのように、重く。
やっぱり、心のトゲはそう簡単には抜けはしないんだよね。私も、分かるよ。
だけど、違うよ。先生の時間に価値があったことを、私が証明してみせる。それが、私のかわいさだから。
「エルカ先生。あなたが助けてくれた時、私は見つけられませんでした。魔法を使っていたんですよね?」
「ああ。少しだけ色を変えて、目立ちにくくする魔法だ。森だからこそ、成功したようなもの」
うん、大体分かったよ。私の狙いは、正しいみたい。その魔法が使えるのなら、エルカ先生はもっと先に進めるはず。
絵に使った時間は、決して無駄にならないよ。私が、価値を持たせてみせるんだから。
「エルカ先生。絵では光を見るんですよね。どの方向から光が当たるかが、大事なんですよね」
「……ああ、そうだとも。私とて、よく勉強したものだ。明暗は、絵の基礎なのだから」
エルカ先生は、少し遠くを見ていたよ。懐かしむように、筆を動かすような動きをして。
やっぱり、絵は先生の心に刻みこまれている。今も、知識も経験も消えたりしていない。
だからこそ、私にもできることがある。先生に、未来に繋がる希望を見せられるんだよ。
私は、魔法については詳しいんだから。できるかできないかくらい、分かるよ。
先生の目としっかりと向き合って、私は話していく。
「だったら、その光を魔法で再現すれば。もっと、うまく隠れられませんか?」
「そのようなこと……。絵空事……。いや、そうではない……」
先生は、あごに手を当ててつぶやきだした。きっと、理論や仕組みを考えているんだと思う。
最初は否定しようとしたけれど、手段が思いついたんだよね。うん。私にだって思いつくくらいなんだから、先生にだって思いつくよね。
光そのものを生み出さなくてもいい。どういう風に光が来るのかを理解していれば、色の明暗を再現できる。そういうことだよ。
「隠れるために大事なのは、現実をそのまま再現することじゃない。そうですよね?」
「それは……! ああ、その通りだ……! 特徴的な色こそが、大事なのだ……!」
何度も頷きながら、エルカ先生は深く考え込んでいる。ペンとノートを取り出して、色々な考えを書き記しているみたい。
しばらく、私は待ち続けていたよ。ペンが踊るのを、ずっと見ながら。
そしてペンを止めた先生は、光に包まれる。それが消えた時には、私は本当に見失っちゃったんだ。
右を見て、左を見て、どちらにも見つけられない。それってつまり、先生の魔法が一歩先に進んだってこと。
しばらくして、先生は現れた。私の目の前に。一歩だけ、下がっちゃった。そんな私を見て、満面の笑みで頷いていたよ。
分かるよ。私が驚いたってことは、先生の魔法が成功したってこと。私の意見が、正しかったってこと。そうでしょ、エルカ先生?
私は、弾けるような笑顔を見せたんだ。
「ふふっ、私の言った通りでしたよね。ね、エルカ先生」
「ああ……! 私の経験も、無駄ではなかったのだな……!」
「はい。きっと、先生の心に生きているんです」
「そうか……! 私が絵画を志した時間にも、意味があったのだな……!」
エルカ先生は、何度も何度も頷いていた。目頭を、ずっと抑えたまま。声が震えているのには、気付かないフリをしておくね。それが、私のかわいさだから。
ソフィさんが絵を見せてくれたのは、きっとこの時のため。私に、ヒントをくれていたんだ。光が大事だって、教えてくれたもんね。
本当のことを聞くなんて野暮なことはしないよ。私はソフィさんを信じるだけ。それが、一番かわいいんだから。
先生は、憑き物が落ちたような顔をしていたよ。私は、微笑みを見せたんだ。
今なら、私の気持ちは通じる。それを、心から確信しながら。
「先生が私を心配してくれていたのは、分かります。でも、私はやり遂げたい。進めるところまで、進みたいんです」
「ああ。私が、間違っていたとも。すまなかった。そして、ありがとう」
先生は、地面と並行になるくらいに頭を下げていた。10秒くらい、下げ続けていたよ。
そして、ゆっくりと頭を上げていったよ。私は、穏やかな笑顔で返したんだ。
「私は、諦めません。退学も、しません。認めてくれますよね?」
エルカ先生は、迷わずに頷いてくれた。それが、答えだったんだ。
私のかわいさが、また道を切り開いてくれた。それだけじゃないけれど。ソフィさんやクロエちゃんにもらったものも、大事なピースだったから。
ううん、違うかな。みんなに貰ったものも含めて、私のかわいさなんだよね。
ね、ソフィさん。クロエちゃん。
「反省すべきだね。過剰に私の過去を重ねて、アミカ君自身を見ていなかった。君なら、乗り越えられるかもしれん。たとえ乗り越えられずとも……」
「先生みたいに、別の道に活かせる。そうですよね」
「その通りだ。頑張ってくれたまえ、アミカ君。心から、応援しているとも」
私に向けて、エルカ先生は優しい笑顔を見せてくれたんだ。
これで、私を追い詰め続けた課題は終わる。でも、確かに得たものはあるんだ。
ソフィさんを信じる気持ち。クロエちゃんとの友情。そして、私の新しいかわいさ。
うん。これまでの課題だって、無駄じゃなかったんだ。エルカ先生だって、救われたんだから。
私は、弾ける笑顔で返したんだ。
「もう、負けません。どんな苦難が待っていても、乗り越えてみせます」
「私も、もう退学などさせないとも。本当にすべきことは、後悔のないように導くこと。そうだろう、アミカ君」
「はい。私の未来にも、協力してくださいね。困らされた分の、お返しも含めて」
「もちろんだとも。全力で、サポートさせてもらうよ。教師として、人生の先達として」
エルカ先生は、胸を叩いて宣言したよ。その目には、確かな決意が見えたんだ。
これからは、きっと心強い味方になってくれるはず。
やっぱり、私のかわいさは天まで届いちゃうよ。お日様もお月様も、全部魅了しちゃうんだから!
この調子で、ユミナス学園の全員をメロメロにしちゃうよ。私の言うことを、なんでも聞いちゃうくらい。なんてね。
「はい、期待していますね。エルカ先生は、凄い魔法使いなんですから」
「クロエ君ほどの天才ではないがね。それでも、経験で力になろうとも」
やっぱり、クロエちゃんは凄いんだ。褒められていると、私まで嬉しくなっちゃう。今だって、自然な笑顔で頷けちゃったくらい。
私の友達は、きっと誰にも負けない。クロエちゃんがペアである限り、どんな相手にだって勝てる。そうだよね。
クロエちゃんの魔法と、私のかわいさ。2つが組み合わせれば、天下無敵なんだから!
「クロエちゃんと一緒に、絶対に卒業してみせます」
「ああ。だからこそ、ひとつだけ言っておかねばならぬことがある」
エルカ先生は、真剣な目で私を見てきた。きっと、私に待ち受けている試練。そんな予感がしたんだ。
頷くと、神妙な顔で話し始めたよ。
「ディーハルト君には、気を付けたまえ。彼は、無力な君を嫌っている。王族の権力を利用されれば、私の力も通じん。だから……」
王子様は、前に戦った時だって私のことを責めていたからね。だから、本当に嫌いなんだと思う。
なんとなく、理由は分かる気がする。努力で手に入れた力だからこそ、力を持たない人の努力を疑うんだよね。
でも、逃げてばかりもいられない。いつかは、向き合わなくちゃいけないんだ。
「はい。先生のお言葉、しっかりと受け止めますね」
「彼にも、アミカ君の努力と本当の力が伝われば良いのだがね……。そうすれば、彼とて……」
「大丈夫です。私は、絶対に乗り越えてみせますから」
「ああ、期待しているとも。私にできる範囲で、必ず協力する。なんでも言ってくれたまえ」
次は、王子様をメロメロにすれば良いんだよね。
もしかしたら、求婚とかされちゃったりして! そうしたら、私は本物のお姫様になれちゃうんだから!
よし、頑張っていくよ。王子様にだって、私のかわいさは通じる。そう証明してみせるよ!




