21話 どうしても手に入れたいもの
「アミカ君。君はこのユミナス学園にふさわしくない。自分でも、分かっているはずだ」
「それは……」
エルカ先生は、眉間のあたりを押さえてため息を付く。どうしようもなく、私は責められているんだと思う。
胸がキュってなる。心臓から、全身に冷たさが広がっていくみたい。寒いよ。クロエちゃん、ソフィさん、どこ……?
ううん、ダメ。誰かにすがるのは、かわいくない。私だけで、どうにかするしかないんだ。
ひとまず、今の状況を乗り切らないと。そうしなくちゃ、クロエちゃんとだって離れ離れになっちゃうんだから。
アミカちゃんかわいいテクニックその5。怒られた時は反論なんてせずに受け入れるのがコツ。
言いたいことを全部言わせてスッキリさせるのが、大事なんだよ。
正しいことを言い返したって、もっと怒られるだけなんだから。
そう、とにかく説教でもなんでも聞いて、エルカ先生の気が落ち着くのを待たなくちゃ。
どうやって退学を回避するかは、エルカ先生の機嫌次第なんだから。少しでも、いい気分にさせないと。
「どれだけ時間を無為にするか、分かっているのかね? 君はただ、当たり前に訪れる未来を引き伸ばしているだけだ」
エルカ先生の言うことは、たぶん正しい。頭をかきむしりたくなるくらいには。
でも、それじゃ何も変わらないよ。私は、ずっと嫌われ者のまま。ずっと足手まといだって思われ続けたままなんだから。
クロエちゃんとだって、ユミナス学園に来なくちゃ出会えなかった。それなのに……。
机の下で、私は拳を握ったよ。爪が食い込むのが、少しだけ痛かった。
だけど、いま反論しても無駄。私は、ただ受け入れ続けなくちゃダメなんだ。
「それは、はい……」
「だからこそ、私は退学を推し進めたのだ。学年主任になった今、私が取り組むべきことなのだ」
それって、やっぱり。今年急にEランクが退学になったのも。エルカ先生が、私を狙い撃ちしたみたいな課題を出してきたのも。
どうして、私が入学する時に。そうじゃなきゃ、もっと楽しい時間を過ごせたはずなのに。クロエちゃんとだって、ただ笑いあえたはずなのに。
うつむきそうになって、抑える。ううん、今回だけはうつむいた方が良い。エルカ先生の言う事を、素直に聞いているって思わせなくちゃ。
退学以外のことなら、受け入れる。その姿勢を取らなくちゃ、ダメなんだ。
「私は、出来損ないなんですよね……」
「いいや、君は確かに努力しているとも。あの魔法陣、見事なものだった。だからこそ、分かるはずだ。何の意味もないのだと」
そう、だよね。私は勉強しても、誰からも認められなかった。うつむくのが、深まっていくよ。
涙まで、こぼれそうになっちゃう。でも、ダメ。泣いていたって、何も解決しないんだ。
でも、上を向くことだってできない。私は、耐えるしかないんだ。耐え続けて、耐え続けて……。
その先に、どうなるの? エルカ先生は、退学を諦めてくれるの?
「私は……。みんなと……」
「木から落ちて、小竜に引き裂かれかけて。そうしてまで、得る価値のあるものなのか?」
私は、確かに死にかけていたのかもしれない。木から落ちた時も、小竜から逃げている時も。
だけど、他に道はなかったよ。ただ退学して、クロエちゃんと離れ離れになって、知らない男の妾として生きる。
そんな人生で、本当に生きる価値なんてあるの? ただ命を拾っただけで、私は幸せになれるの?
分かっているよ。こんな気持ちをぶつけたって、かわいくない。それに、エルカ先生は絶対に納得してくれない。
私の努力は、先生にとっては無駄そのものなんだから。きっと、愚かなだけなんだから。
ふとももを、ちょっとだけ引っかいちゃった。後で、ちゃんとケアしないと。傷なんて残ったら、かわいくない。
私は、かわいくなくちゃダメ。そうじゃなきゃ、生きている意味なんてないんだから。
でも、どうすればいいの? どうすれば、かわいくなれるの?
このまま退学を待っていたって、かわいくないはず。だけど、何も思いつかないよ……。
「だって、私は……。人間だって……」
「この道を選んだとて、何も達成できやしない。他の道を選ぶことこそ、君の幸福なのだ。分かってくれたまえ」
ううん、違うよ。私の幸せは、クロエちゃんと卒業すること。ソフィさんに食事を見守ってもらうこと。
ユミナス学園に来なくちゃ、ふたりの絵を書いてもらうことすらできなかったんだ。
まだ、諦めちゃダメ。そうだよね、クロエちゃん。ソフィさん。
そうだよ。私は、約束したんだ。絶対に、卒業してみせるって。どんな未来も、乗り越えてみせるって。
ただエルカ先生の話を受け入れるだけじゃ、何も変わらない。
少しでも、反撃の隙をうかがうんだ。それが、私のやるべきこと。かわいいってこと。
クロエちゃん、ソフィさん。見ていてね。私は、絶対に逃げない。エルカ先生だって、乗り越えてみせるんだから。
まずは、まっすぐに前を見よう。そこから、全部が始まるんだ。小さな一歩だけど、しっかり進んでみせるんだよ。
「私は、諦めたりしません。自分から退学なんて、しません」
「アミカ君……。どれほど茨の道か、君だけは分かっているだろう。苦痛にまみれて、それでも何も手に入らぬ道なのだ」
エルカ先生の顔が、よく見える。顔を伏せている姿は、後悔にまみれているみたい。
そうだ。私は、さっきまで何もしていなかったんだ。何も策を練らずに、ただ嵐が過ぎるのを待っていただけ。
違うよね。アミカちゃんは、かわいさで困難を乗り越えてきたんだ。今回だって、負けたりしないよ。ううん、ずっと。
まずは、エルカ先生の顔をじっと見る。どこまでもまっすぐに、目を合わせたんだ。先生は、目をそらしたよ。
私のやるべきことは、話を聞くこと。ただ受け入れるだけじゃなくて、エルカ先生の心を知ること。そこから、始まっていくんだ。
そう。エルカ先生は、ただ嫌がらせで私を退学させようとなんてしていない。言われたことを思い返せば、私が不幸になると決めつけているだけだった。
だったら、私の発揮すべきかわいさは単純なこと。先生が私を信じられるくらいに、惑いを切り開くこと。その先に、私達の未来は待っているんだ。
「エルカ先生。私は、この道を突き進んでみせます。どんな苦難が待っていても、乗り越えてみせます」
「それが人生を無為に捨てているのだ……! 君の才能なら、魔法以外なんだってできる……!」
魔法は、私には絶対に手に入らないものだろうね。分かるよ。
でも、違う。私が一番欲しいものは、ユミナス学園にこそあるんだ。
クロエちゃんと出会って、同じ傷を分け合えたこと。ソフィさんに、絵として形に残してもらったこと。
同じような思い出が、これからも広がっていくんだ。それが、私の幸せだよ。
エルカ先生は、自分の幸せを見失っているだけ。だったら、見つけさせてあげるだけなんだから。
今こそ始めるよ! アミカ・ショウタイム!




