20話 魔法は手に入れられなかったけれど
エルカ先生から、魔法陣についての問題を解く課題を出された。
クロエちゃんは、不安そうに私を見ている。笑顔で、手を振り返したよ。
他にも、平民で実力者のスミス君は、チラチラと私を見ている。私のことが、気になるんだよね。
おもちゃから広がる発明家のローランド君はワクワクしたように視線を向けてくる。私の発想に、期待しているのかな。
一度盗みをしたけど反省をしたマイケル君は、私に向かってガッツポーズをしていたよ。頑張る姿を、きっと見せてくれるね。
とっても強い俺様のカイン君は、腕を組んで横目で見てきた。私が何をするか、実は興味津々でしょ。
私ってば、すっごく人気者みたい。昼は太陽で、夜はお星さま。それが、アミカちゃんなんだよね。
目線を返してあげると、みんなも反応していたし。やっぱり私、輝きすぎかも。
「では、問題用紙を配ろう。くれぐれも、不正はしないように。終わったものから、提出してくれたまえ」
エルカ先生は、私をじっと見ながらそう言ったよ。さすがに、不正をでっち上げられはしないとは思うけれど。でも、怪しいことはしない方が良いよね。
一通り問題用紙が配られると、私はペンを取る。そして、すぐに書き進めていったよ。
クロエちゃんは心配していたけど、私にとっては簡単な問題なんだから。
気付いていないかもしれないけれど、魔力子の波動理論って単語を聞いても、戸惑っていなかったでしょ?
私には、必死に魔法の勉強をしていた頃があったんだ。
理由なんて、事情を知っている人は誰にだって分かると思う。勉強を頑張れば、魔法を使えるようになるかもって。みんなと同じになれるかもって。お父さんやお母さんに、愛してもらえるかもって。
結果は、単純極まりないものだったけれど。今の私が、その答え。
魔法陣の内容は、空間内を一定の温度に保つだけのもの。魔力さえ込めれば、その通りに発動するようにって。
でも、迷うことなんてひとつもない。それどころか、私の魔法陣は手のひらよりも小さいくらい。
もちろん、大きな魔法陣の方が、いろんな機能を組み込みやすいよ。それだけ、私の書いた魔法陣は効率がいいってこと。
私が、どれだけ勉強したか。この魔法陣を見れば、誰でも分かると思うよ。エルカ先生だって、間違いなく感心しちゃう。私はかわいいんだって、認め直しちゃうかも。
書き終えて、見直しを終えて。時間は、半分以上余っていたよ。間違いはないって確信しながら、エルカ先生のところに提出しに行く。
受け取った先生は、目を見開いていたよ。そして、眉をひそめて私の方を見てきたんだ。なんか、どこか悲しそうな顔に思えたよ。
「……合格だ、アミカ君。文句のつけようもない。では、退出してくれたまえ」
教室を出ていくと、クロエちゃんが待っていたよ。私は、もちろん笑顔で手を振ったんだ。
クロエちゃんは、ちょっとだけ目を見開いていたよ。それから、穏やかな笑顔を見せてくれる。
「アミカちゃん、もう合格したの? すごいね。私だって、ついさっき終わったのに」
「ふふっ、クロエちゃんに教え方を教えられる程度には、私は勉強してきたんです」
「なのに、魔力がないだけで……。分けてあげられるのなら、簡単なのにね」
クロエちゃんは、拳をぎゅっと握っていたよ。そして、全身を震わせてもいた。
私に魔力を分けられる技術があるのなら、本当に迷わず分けてきそうなくらい。
でも、大丈夫。私には、クロエちゃんが居てくれる。ソフィさんが居てくれる。今の関係は、とっても素敵なんだから。
私は、クロエちゃんと手を繋いだよ。そして、そっと微笑みかける。少しでも、安心できるように。
クロエちゃんも手を握り返してくれて、私たちはお互いの目を見て笑いあったんだ。
しばらく、そのまま見つめ合う。足音が聞こえて、離れたよ。ちょっとだけ、クロエちゃんは目をそらしていたね。
扉が開いて、そこからミスティアちゃんが出てくる。
「ま、あたしなら楽勝よね。どうってことないわ」
そう言って、私たちを見る。少し目を細めて、言葉を続けたよ。
「あんたたちもいたのね。まったく、あたしよりも目立ってるじゃない。もう」
言い残して、ミスティアちゃんは去っていったよ。私たちは、またお互いを見て首をひねったんだ。
ミスティアちゃんって、よく分からない人だよね。優秀なのは、間違いないみたいだけど。
私たちは、しばらく黙ったまま。でも、どこか心地よかったんだよね。
次に出てきたのは、ローランド君。私の方を見て、顔を華やがせた。そして、すぐに話しかけてきたよ。
「温度を上げる魔法陣を組み込めば、あの鉄の棒で鍛冶ができるかもしれない。面白くないですか?」
「なら、魔法陣の小型化が大事ですね。でも、ずっと触れている必要はありそうです」
「ああ、そっか。魔力を注ぎ続けなくちゃいけないですよね」
そう言って、ローランド君は頭をひねっていく。魔導石があれば、その問題は解決するのかもしれないけれど。
ただ、ソフィさんにもらったものだから。私の判断だけで、あげたりはできない。
代わりがあるのかも分からないし、ソフィさんの苦労も分からない。それで余計な希望をもたせるのは、かわいくないもんね。
「私なら、魔法陣がなくてもできそうだけど……。それじゃ、ダメなの?」
「クロエさんのような個人に頼らなくてもできる。僕の目標には、それが大事なんです」
「例えば、私もできるかもしれない。それが、ローランド君の理論の価値なんですよ」
クロエちゃんは、手を打っていた。私を通してなら、すぐに納得してくれたみたい。
なんだかんだで、クロエちゃんは天才の考え方をしているよね。誰でもできるということに、あんまり価値を見出していないというか。
そこも、魅力なんだけどね。分かってもらうには、手順が必要なんだと思う。
話を続けようとすると、また扉が開いた。今度は、王子様が出てきたよ。私とクロエちゃんを見て、鼻を鳴らす。そして、遠くまで去っていったんだ。
それから、どんどんと生徒たちが出てくる。スミス君とカイン君も、その中に混ざっていたよ。
「アミカさん、元気そうで何よりだ。僕たちより、よっぽど早い。負けていられないな」
「やるじゃねえか、アミカ。俺様よりも早えなんてよ。ガッツあるぜ、なあ?」
「そうだな。僕たちだって、まだまだ成長できる。カイン君にも、負けないくらいにな」
「ああ、その意気だぜ。おめえも、悪くねえ。スミスって言ったか。俺様に、膝をつかせてみせろ」
なんか、スミス君とカイン君がちょっとにらみ合いながら、意気投合しているみたいだった。
私を通して仲良くなるんだから、かわいさが爆発しちゃったんだろうけれど。
でも、良いね。知り合い同士の関係が広まれば、もっといろんなことで協力してもらえるかも。
私を奪い合うことだけは、厳禁だけどね。罪な女すぎたら、困っちゃったりして。
クロエちゃんは、ふたりの方を見ながらあたふたしていた。やっぱり、人には慣れていないみたい。
というか、スミス君やカイン君はオラオラしてそうだから、腰が引けてるのかもね。
どっちにしても、いま紹介するのは早いかな。私は、クロエちゃんに笑顔を向けたよ。
「ふたりも、無事に合格できてよかったです。また、ゆっくりお話しましょう」
「ああ。また面白いことがあったら、俺様に言え。最高の戦いを、見せてやるよ」
「僕も、もっと認めてもらえるように頑張るさ。じゃあな、アミカさん」
ふたりは、去っていく。ローランド君も、合わせて去っていったみたい。気を使わせちゃったかな。
クロエちゃんを見ると、ほっと息をついていたよ。かなり、緊張していたんだね。
そうしていると、また扉が開く。今度は、マイケル君が出てきたよ。そしてすぐに、チャイムが鳴る。
笑顔でマイケル君に手を振ると、ちょっと赤くなりながら返してくれたよ。
休み時間になったから、クロエちゃんと席に戻って話す。穏やかな時間が、続いていたよ。お互いに笑顔で、楽しい話ができたんだ。
その日は大きな課題もなく、普通に乗り越えられたよ。
また遊ぼうかなって考えていると、エルカ先生が近づいてきたんだ。
「アミカ君、生徒指導室に来てくれたまえ。話がある」
それだけ言って、エルカ先生は無言で先導する。たどり着いた先で、ただ席にうながされる。
エルカ先生は、少しだけ目をさまよわせる。そして、私をじっと見て告げたんだ。
「単刀直入に言おう。アミカ君、君はユミナス学園を自主退学してくれたまえ」




