2話 親切だって大事なかわいさ!
ユミナス学園の門は、魔力がないと開かない。資料には、書いてなかったんだけど。書くまでもないってことなのかな。
いや、理由を考えるのは後だよ。とにかく、状況を整理しないと。
目の前にそびえ立つ荘厳な門は、見上げるくらいに大きい。そして、重厚な扉が閉じている。私を拒絶するみたいに。
爪を噛みそうになって、抑えた。門を通り抜ける人に見られたら、終わりだから。
ひとまず、なにか策があるかも。前向きに行くよ。暗いことばかり考えていたら、かわいさが減っちゃう。顔にも出ちゃうからね。
私のかわいさが失われるなんて、この世界の損失なんだから。一度目をつぶって、開く。
よし、なんとか道を探してみせるよ!
ひとまず、登って入るのは無理そうかな。引っかかる場所があんまりないし、門の上あたりがネズミ返しみたいな効果を発揮しているみたい。
横から入ろうとしても、同じくらい高い。足をかけるのも、多分無理だと思う。
門をペタペタ触ってみたり、遠くから観察してみたり。そうしても、手がかりは見つからなかった。
あと30分くらいで入らないと、遅刻になっちゃう。最悪、受付されないかも。そうなってしまえば、ただ家に帰るだけ。なにひとつとして、できないまま。
でも、ゆっくり深呼吸するよ。笑顔でかわいくいるのが、アミカちゃんなんだから。
行き詰まっちゃったし、いったん門から離れてみるよ。別の場所に、解決策があるかもしれない。それに、ちょっと頭を整理する時間も必要だから。
周りを見ていると、地面にうつむいている女の子を見つけた。周りには、本や服なんかが散らばっている。
その子は、泣きそうな顔でひとつずつ拾い集めていた。荷物を詰め込んだカバンをぶちまけちゃったみたい。
私ほどじゃないけど、かわいい子。穏やかさと清楚さが混ざったみたいな感じだね。
長くてきれいな黒髪と、おっとりして見えるタレ目が印象的かな。私が完璧なお人形だとすると、この子はふわふわのぬいぐるみ。
そんな顔を歪ませながら、砂をはたき落としたりして荷物をカバンに入れている。
門に入っていく人は、誰も手伝おうとなんてしていない。
もしかしたら、手伝っている間に間に合わなくなるかもしれない。そうしたら、ユミナス学園には入れない。
そうなったら、私の人生を変えることもできない。元通り、家で嫌われ者を続けるだけになる。
けれど、ここで見捨てるなんて、かわいくないよ。かわいさを捨てちゃった私になんて、何も残ったりしないんだから。
今こそ、アミカ・ショウタイム。観客が何人でも、関係ないよ。軽く目を細めて優しい笑顔を作って、女の子に話しかけたんだ。
「手伝いますよ。どれから拾えば良いですか?」
「良いの? ありがとう。服からお願いしていいかな。本は、私が拾うから」
本を大事そうに抱えて、丁寧に汚れを払っている。見た感じ、かなり高度な魔法理論の本だね。ユミナス学園では、習わないような。きっと、とても魔法が大好きなんだと思う。
なら、邪魔をしないのが大事だね。大切なものに無神経に触られたら、嫌だもんね。言われた通りにするのが、今は無難だよ。
だから、まずは服から整理していくよ。一個一個丁寧にたたんで、カバンの中にしまう。
人のものを扱うんだから、自分のものより丁寧なくらいに。それで、ちょうど良いんだから。
半分くらい終わったところで、時計を見る。時間は、あと16分くらい。このペースなら、2分残る。
学園の門を開けて受付に向かうまでに、普通なら10分くらいのはず。調べた記憶だと、そうだった。
つまり、手伝い続けていたら、きっと間に合わない。見捨てた方が、今の状況を乗り越えられる可能性は高いかな。
「もう、良いから……。あなたまで、間に合わなくなっちゃう……」
私が時計を見たら、そう言われたよ。自分も危ないのに、優しい子なんだと思う。言葉に従うのが、普通なんだろうね。
でも、もう決めたから。私はかわいさだけは捨てない。それだけは、絶対に無くしたりしない。
アミカちゃんかわいいテクニックその40! 親切をするのなら全力で!
中途半端は、一番かわいくないんだよ。貫き通す決意が、大事だからね。
そう。半端な優しさなんて、相手を傷つけるだけ。そんな行動が、かわいいわけがないんだ。
たとえ一緒に間に合わなくなるとしても、私は手伝い続けるだけ。一番大事なことは、決まりきっているんだもん。
「いえ、最後まで付き合います。間に合うのも遅れるのも一緒。それなら、恨みっこ無しですから」
「でも……。ううん、ありがとう。なら、急ごう。あなただけは、間に合わせるから」
そう言って、本の汚れが残ったままカバンに詰めていたよ。私も、できるだけ急いで、でも丁寧に汚れを取っていくよ。
この子は、私のために本へのこだわりを捨ててくれた。だから、余計に大事にしなくちゃいけないんだ。
間に合わせるのが、一番気持ちに応えることだけどね。だから、ちゃんと急ぐことは忘れずに。
全力で頑張って、なんとか終わらせることができた。残りは、あと4分。このままだと、厳しいかも。
でも、絶対に恨んだりなんてしない。恨みなんて、かわいくない。最後まで、私はかわいく居続けるんだ。
そんな覚悟を決めた私の手を、優しく握る手があった。そっちを見ると、弾けるような笑顔が見えた。
「終わったね。後は、任せて。舌を噛まないようにだけ、気を付けてね!」
私の足は、地面から離れていく。ふわふわとした感覚があった。そして、強い風を感じて、視界が遠くに流れていく。私たち、鳥よりも早いかも。
あっという間に門にたどり着いて、触れることすらなく開く。
たぶん、門を直接魔力で動かしたんだ。近づく前から、遠くに魔力を届かせて。普通は、触らないとできないはず。とってもすごい子なんだって、分かったよ。
そして門を通り抜けて、私たちは飛んでいく。受付にたどり着いて、身分証明のカードを出した。
手続きが終わると、すぐにチャイムが鳴る。時計を見ると、ちょうど時間だったみたい。
私たちは案内されながら、お互いの顔を見て笑いあったんだ。なんとなく、ふたりがつながっているような気がしたよ。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は、クロエ・エミリナ。あなたは?」
「私はアミカです。よろしくお願いしますね」
「えっ、ファーストネー……ううん、なんでもない。よろしくね、アミカちゃん」
クロエちゃんは私の顔を見ながら、ふわりと微笑んだんだ。とっても素敵で、私の次くらいにはかわいいって思えたよ。
そんな子になら、理由を言っても良いのかもしれない。
アミカ・ノートゥングを名乗るなって言われたこと。家の恥だから、ふさわしくないって。
だけど、少なくとも今は違うかも。クロエちゃんは気を使って疑問を飲み込んでくれた。その気持ちに応えるのが、大事だよね。
つまり、やることは簡単なこと。私も、最高に輝く笑顔で返したんだ。全力で、口を広げて。
「こちらこそ、よろしくお願いします。せっかくの出会いを、大事にしたいですね」
「ふふっ、そうだね。アミカちゃんとは、仲良くしたいな」
「こちらこそ、ですよ。クロエちゃんの優しさは、伝わりましたから」
「アミカちゃんが優しかっただけだよ。私は、ほんの少し返しただけだから」
「ふたりで一緒で、良かったですね。やっぱり、あのとき手を貸して良かったです」
きっと、クロエちゃんが居なかったらダメだった。今はまだ、言えないけれど。
他の人に開けてもらうなんてこと、思いつきもしなかったんだから。いま思えば、視野が狭まっていたね。
アミカちゃんのかわいさを保つためには、選択肢を広く持っておかないと。それこそ、大空よりもね。
「あっ、ここでお別れだね。私の部屋は、あっちみたい」
「たまには、遊びに行ってもいいですか?」
「もちろんだよ。必ず、歓迎するからね」
そう言って、クロエちゃんは自分の部屋へと向かっていく。寮の部屋に荷物をおいて、それから次の日に入学式って順番なんだ。
いい友達もできそうだし、バラ色の学園生活が送れるかも! ううん、アミカちゃん色だね!
そんな期待を胸に、私は自室に向かったんだ。
えっ? 寮の部屋を開けるのにも、魔力が必要? しかも、どの家具にも?




