16話 クロエちゃんと導くかわいさ!
「さて、本日は久々にペアでの課題としよう。気合いを入れたまえよ、諸君」
今日のエルカ先生は、眉間にシワを寄せているみたい。それにしても、珍しい。今日はクロエちゃんと一緒に授業を受けられそうだね。
エルカ先生は、たぶん私を退学させるためにペアを分けて課題を出してきたんだと思う。もう、諦めてくれたのかな。
いや、まだ油断しちゃダメ。隙を作るために、緩急をつけているのかもしれないんだから。
クロエちゃんを悲しませないためにも、しっかりと気合いを入れないと。でも、頬は張れないからね。ちょっとだけ深呼吸して、まっすぐに前を見るよ。
エルカ先生は私たちを先導していく。グラウンドにたどり着いて、ペア同士で並ぶように指示される。
クロエちゃんと隣になって、お互いに笑顔を見せあったんだ。今回は、少し楽しめそうかも。
とはいえ、ちゃんと話を聞いていかないとね。ペアであることを利用して、罠を仕掛けてくるかもしれないんだから。
エルカ先生は咳払いをして、低い声で話し始めたよ。
「さて、今回はペアで模擬戦をしてもらう。勝てば無条件で合格。負けた場合は、内容次第となるね。良き勝負を、見せてくれたまえ」
話を聞く限りだと、今回は本当に何も無いみたい。いったい、どうしちゃったんだろう。
でも、気にしている場合じゃないよね。余裕があるのなら、せっかくのクロエちゃんとのペアを楽しまなくちゃ。
とはいえ、あんまり役には立てないと思うけど。模擬戦だと、条件が悪すぎるからね。
囮として引き付けるのも、一つの戦術ではあると思う。でも、普通にクロエちゃんを狙われて終わりだよね。私は、特に攻撃もできないし。
あっ、そうだ。クロエちゃんに生徒の特徴を教えるのはどうかな。どんな技を使っているかは、観察していたからね。それを伝えれば、楽に勝てちゃうんじゃないかな。
「アミカちゃん。今回は、私に全部任せてくれる? どんな敵も、やっつけちゃう。そう言ったでしょ?」
クロエちゃんにそう言われて、私はプランを全部捨てたよ。だって、気持ちは分かるつもりだから。
私は何回か、クロエちゃんの手の届かないところでケガをした。だから、今回で取り戻したいんだと思う。
それを押してでも、私の活躍を目指すのは違うよね。クロエちゃんの気持ちを大事にする方が、絶対にかわいいよ。
だから私は、少しも迷わずに頷いたんだ。
「もちろんです。クロエちゃんに、私の運命を託しますね」
「ありがとう。絶対に、勝ってみせるから。誰だって、寄せ付けないよ」
私たちはもう一度笑いあって、戦いの準備をしたよ。エルカ先生が審判になって、始めるみたい。
1番手は、私たち。相手は、王子様ともうひとり。強敵だね。王子様は、じっと私を見ているよ。思うところが、ありそうだね。
でも、大丈夫。クロエちゃんに勝てる人なんて、居るはずがないんだから。
前に並んだ私たちを見て、エルカ先生は話を始める。
「言い忘れていたが、ペアの片方が倒れた時点でそのペアは負けとする。気張りたまえよ」
なるほど。私を、弱点として最大限に活用するみたい。でも、私たちを甘く見過ぎだよ。昨日食べたソフトクリームより甘々だね。
クロエちゃんを信じるって決めたのなら、どこまでも信じ続けるだけ。私は、クロエちゃんと勝ってみせるんだから。
「では、はじめ!」
その声が聞こえると同時に、私はクロエちゃんの背中に隠れたよ。間違いなく、アミカちゃんが一番かわいくなれる戦術なんだから。
クロエちゃんに任せるって言ったんだから、全部任せるだけ。もちろん、それだけじゃないけどね。
さっそく、クロエちゃんが魔法を放つ。炎が一直線に進んでいくよ。ふたりとも、左に飛んだ。私は、右側に移動したよ。
そうしたら、クロエちゃんが壁になってくれる。回り込もうとすれば、炎が邪魔になる。
あなた達は、私を狙いたいんでしょ? だったら、狙おうとするたびに潰してあげる。クロエちゃんを盾にして、ね。
どこまで、冷静に戦ってくれるかな? ふふっ、楽しみだよ。
私に魔法を撃とうとしても、絶対にクロエちゃんに向かう。そうしたら、絶対に私を守ってくれるんだから。誰が最強かなんて、比べるまでもないんだから。
さあ、いくよ。アミカ・ショウタイム!
「クロエちゃん、私を守ってください! 弱い方を狙うだけの、卑怯な人たちから!」
「うん! 何一つとして、通さないよ!」
舌打ちの音が、聞こえてきたよ。王子様の方からみたい。
アミカちゃんかわいいテクニックその62! 信じる姿勢は、とってもかわいい! 邪魔する人は、かわいく見えないんだよ。
さあ、悪者になっちゃってね。王子様は、今回は主役になれないんだから。
しかめっ面をしているね。こわーい顔をしたら、ますます悪役みたいだよ。
王子様たちは、炎が消えた方から回り込もうとしてくる。クロエちゃんは、もちろんその先をふさぐ。
私たちは、しっかりと信じ合っているんだから。つながっているんだから。断ち切れるわけ、ないんだよ。
王子様たちは、クロエちゃんに雷を放つ。片手だけで、防がれていく。王子様たちは、どんどん撃ち続ける。クロエちゃんは、堂々と立っているだけ。
完璧だね。私が邪魔にならない限り、絶対に勝てるよ。後は、ただ詰めていくだけでいい。一手一手を重ねていけば、それで終わりなんだから。
王子様たちは、私の方に回り込もうとする。クロエちゃんが魔法を撃って、動きを潰す。
今度は、二手に分かれようとするみたい。私は左に動いて、クロエちゃんも左に魔法を撃った。
私と敵の間には、常にクロエちゃんがいる。私を狙おうとしても、何もできない。王子様たちには、打つ手はないみたいだね。
王子様は、私のいる方をにらみながら叫んだよ。
「クロエを盾として、その影に隠れるだけか! 情けない姿もあったものだな!」
そんな安い挑発じゃ、アミカちゃんのかわいさは崩せないんだよ。クロエちゃんを信じることが、一番かわいい。迷う理由なんて、どこにもないんだから。
「私は、クロエちゃんを信じるだけです。誰にだって勝ってくれるって!」
「そうだよ。これが、私たちの絆なんだから!」
王子様は、ため息をついた。それから、まっすぐにクロエちゃんの方を見たよ。
「なら、最高の一撃をくれてやる。それで決着をつけようじゃないか。合わせろ!」
ふたりが、一緒に雷を撃つ。渦のように巻きあって、風をまき散らしながらクロエちゃんに向かっていく。バリバリという音が、お腹に響いたよ。
対するクロエちゃんは、まっすぐに光を放つ。あっけなく、雷ごと王子様たちを飲み込んでいったんだ。
終わったら、王子様のペアはふたりとも倒れ込んでいた。腕を地面につけて立ち上がろうとしても、無理みたい。
「ここまで! アミカ、クロエペアの勝利とする! ディーハルト君たちも、見事だったとも。合格としよう」
戦いが終わって、私たちはハイタッチをしたよ。手に響く痛さが、どこか心地よかった。
これが、私たちの絆。信じ合う気持ちだよ。
授業が終わって、教室に戻ろうとする。クロエちゃんは、誰かに声をかけられて立ち止まっていたよ。
話す人もいなかったから、重そうな荷物を持っている人を手伝いながら教室に帰ったんだ。
お礼を言われて、少しして。クロエちゃんは、あごに手を当てて深刻そうな顔をして戻ってきた。
そして、眉を困らせながら私の手を取ったんだ。
「アミカちゃん、どうしよう。魔法を教えてって言われちゃった……。こんな時、どうすればいいの?」
クロエちゃん、本当に困っているみたい。なら、私が助けてあげる番だよね!




