15話 絶対に信じ抜くこと
たどり着いた自分の部屋。ソフィさんは、掃除を終えたところみたい。つまり、ちょっと空いているってこと。ちょうどいいタイミング。運命が、私の背中を押しているんだよ。
なら、今すぐに言わなくちゃ。私の気持ちを、どこまでもまっすぐに。
私は、ソフィさんの背中に声をかけたんだ。
「ソフィさん。話があります。聞いて、もらえますか?」
「もちろん、構わないわ。なんでも、聞かせて。アミカさんの言いたいことを、全部」
薄く微笑んで、私を受け止めようとしてくれている。やっぱり、ソフィさんの全部が嘘だなんて思えない。思いたくない。
だからこそ、一度痛みを受けてでも、私たちは先に進まなくちゃいけないんだよ。
そうだよね、ソフィさん。きっと、私のかわいさは、目の前の道を越えた先にあるんだから。
「実は……。校舎裏でエルカ先生と内緒話をしているのを、見てしまったんです」
「アミカさん……。気づいて、しまったのね……」
ソフィさんは、目をそらしている。胸のあたりを、握りしめながら。
きっと、後ろめたいことがあるんだと思う。私は、責めたりしないよ。ただ、どうしても聞かなくちゃいけないことがあるんだ。
私が退学するとしても、納得できるように。ソフィさんが私を退学させたいのだとしても、前に進めるように。
少しだけ、息を吸う。そして、私はゆっくりと話し始めたよ。
「ソフィさん。お父さんに何かを命令されているのだとしても、構いません。私を、大事に思ってくれているのなら」
「……アミカさんは、大好きよ。とってもかわいい、妹みたいな子なの。それだけは、誓うわ」
また目をそらして、今度はぶら下がった拳を握りしめている。震えるほどに、強く。
それだけで、分かったよ。ソフィさんの気持ちは、本物だって。私を傷つけることを、心から嫌だと思ってくれているんだって。
ソフィさんは、私をかわいいって認めてくれている。なら、それで十分なんだよ。
私は、決意を示すだけ。ふわりと微笑んで、ソフィさんに告げていくだけ。
「なら、簡単です。何度裏切られたって、何度でも信じ直すだけ。もちろん、今だって信じます。信じ続けます」
「いつか、アミカさんがすべてを知った時……。あなたは……」
うつむいて、歯を食いしばっているよ。もしかしたら、私に嫌われちゃうって思っているのかもしれない。
そんなことない。断言したって、今のソフィさんには信じきれないのかも。
だけど、気持ちを伝えることを諦めちゃダメ。ソフィさんだって、大切な気持ちを伝えてくれたんだから。
それが、ソフィさんがかわいいって言ってくれた私だから。でしょ?
私はソフィさんの手を取って、優しい笑顔を向けたんだ。
「大丈夫です。今は何も言わなくたって。それが、信じるってことですから」
ソフィさんは、私の手をじっと見ていた。それから、一粒だけ涙がこぼれたよ。
でも、見ないふり。私たちの関係は、それで良いんだ。
たとえ嘘がどこかにあったとしても、私たちがお互いを大切に思っていることだけは本当だから。
それに、心から大切な場面では、ソフィさんは私を選んでくれる。そう思うんだ。
「アミカさん……。私は、あなたに……」
「言いたくなったら、全部聞かせてください。それまでも、それからも。私に、美味しいご飯を食べさせてください。ずっと、一緒にいてください」
「もちろんよ。もちろん、よ……。私は、ずっと……」
ソフィさんは、私の手を胸に抱えて、大事に大事に握りしめてくれたんだ。
もう、迷ったりしない。どれだけ怪しいことがあったって、信じ続けるだけ。
そして、ソフィさんは私の信頼に応えてくれるはずだよ。
退学させる話だって、きっと私を守ろうとしてくれただけ。家にいた頃より、美味しい料理を作ってくれたみたいに。そうなんでしょ?
だから、絶対に離れたりしないよ。ソフィさんは、私の家族なんだから。お父さんよりもお母さんよりも、ずっとずっと大好きな人なんだから。
「ソフィさん。私も、大好きです。どんな未来が待っていたって、ずっと」
「アミカさん……。私もよ……。どんな未来が待っていたとしても、ずっと……」
ソフィさんは、私をぎゅっと抱きしめてくれた。声も体も震わせながら、それでも優しく。
私も、もちろん背中に腕を回したよ。そうしたら、もっとかわいいって思ってくれるはずだから。
絶対に、負けないよ。ソフィさんが何を抱えていたって、丸ごと抱きしめてみせる。それが、アミカちゃんの母性ってもの。あなたに、教わったことだから。
しばらくして、ソフィさんは離れていったよ。ちょっとだけ、肌寒さを感じる。さっきまで、暖かかったからかな。
涙の跡が残るソフィさんだけど、今は輝くみたいな笑顔を見せてくれたんだ。
「じゃあ、これから夕飯を作るわね。アミカさんが、喜んでくれるように」
「ソフィさんの料理なら、どんなものでも嬉しいですよ」
「その程度じゃ、足りないわ。私にできる範囲で、最高の料理を作ってみせるから」
私は、ソフィさんがキッチンで料理する背中を、ずっと見守っていた。そっと胸に手を当てて、暖かいものを感じながら。
いつもより、作っている時間は長かった。だけど、少しも退屈なんて感じなかったんだ。
「おまたせ、アミカさん。少ない品数だけど、きっと口に合うはずよ」
そう言って机に並べられたのは、スープと野菜炒め、そして煮物。全部、野菜とキノコだね。
お肉やお魚っていうのは、どんなものなんだろう。野菜と豆、キノコは食べたことがあるけれど。
まあ、良いよね。たぶん、それがお父さんの命令なんだろうし。ソフィさんは、野菜とキノコだけで最善の料理を作ってくれたんだよ。
スープには、ちょっと黄色い輪っかみたいなのが浮いている。前は洗剤みたいって思ったけど、たぶん調味料なんだよね。
口をつけると、やっぱりこってりした感じがあったよ。
具の中には、キノコといろんな野菜、そして知らない葉っぱみたいな物があったよ。
巻かれていて、ちょっとヌルヌルしてる。口に運ぶと、味が染みていたね。
野菜炒めは、どれもシャキシャキしていて美味しい。煮物は、口に入れただけで崩れちゃう。
どれも最高で、かわいく食べることを忘れそうになっちゃった。
ソフィさんは、どこまでも本気を出してくれたんだ。それが、私への答えなんだよね。
食べ終えて、私は頭を下げていく。深く、深く。それが、私が返す答えだよ。
「ありがとうございます、ソフィさん。とっても、とっても美味しかったです」
「なら、良かったわ。これからも、力を尽くす。誓うわ」
「無理はしない程度に、ですよ。ソフィさんが倒れちゃったら、悲しいし困ります」
「アミカさんのお世話は、今は私の仕事だもの。分かっているわ」
「なら、良いんです。明日の料理も、楽しみにしていますね」
「ええ、期待していて。絶対に、裏切らないわ」
胸を張って、ソフィさんは宣言する。すぐに、私は頷いて返したよ。
明日から、また課題が待っている。今度こそ、退学になるのかもしれない。
でも、絶対に諦めないよ。クロエちゃんとソフィさんの気持ちに、勇気をもらったから。
私は、布団に入る瞬間も笑顔でいたんだ。




