13話 竜にだって通じちゃうかわいさ!
まずは、小竜を見つけること。森のどこかに居るはずだから、探していくよ。木のざわめきを道しるべに、私は歩き出したんだ。
誘導するために、全力で走らなくちゃいけない。そのためにも、今は体力を温存しないとね。
かわいさにも、緩急が大事。常に全力のかわいさよりも、見せ場で最高に輝く方が素敵だもん。
しっかりと安定するように、足元を踏みしめて歩く。そうしていると、まずは一体目を見つけたよ。遠目でも、圧力が伝わる。小さいと言っても、竜の中では。私たちなんて、簡単に潰せちゃう。
人よりちょっと大きいっていうのも、クマと人くらいの差なんだ。
お人形を地面に叩きつけるように、小竜が私たちを叩きつけちゃうんだ。
つばを飲む音が、どこか遠くに感じたよ。これから、小竜を引き連れないといけない。ちょっと、震えちゃいそう。
でも、負けないんだから。アミカちゃんのかわいさは、まだまだ止まったりしないよ。
見て分かったけど、逃げながら二体目を探すのは、絶対に無理。ちょっと翼が木をなでただけで、バキバキと折れているんだから。
つまり、もう一体を先に見つけるのが先。それから、二体とも誘導するんだ。
一体目の場所は、しっかりと覚えたよ。後は、もう一体を見つけるだけ。それから、ちょっと大声を出して誘導する。うん、手順はバッチリ。
頷いて、私は左側に歩き出す。すると、小竜が炎を吐いたのが見えたんだ。ほんの小さな火ではあるけれど、まっすぐに飛んでいた。
木に当たって、ジュって音を出して消えていったよ。焦げ付いていたけれど、燃え広がりはしなかったみたい。苦い匂いが、ちょっと鼻についたけれど。
ひとまず、小竜から離れていくよ。そうすると、ボキって音が聞こえた。音の方を見ると、木が倒れてくる。私の方に、当たりそうな軌道で。たぶん、火の影響。
全力で走って、なんとか避ける。ドシンという音が聞こえた。はねた土が、頬に当たったよ。
「ギャオオオン!」
耳どころか、全身に響く声がした。小竜が、私の方を見ているのが分かった。
見つかった! 私は、逆方向に走り出す。小竜も、ブオンブオンと翼を鳴らして飛んできた。
幸いなのは、今すぐには追いつかれなさそうなこと。8割くらいの力で走っても、なんとかなる。
距離を保ったまま逃げられているから、まだ大丈夫。
だけど、このまま逃げながら探すのは、絶対に無理。なら、一か八かだよ!
「きゃああああああああ!」
喉が張り裂けそうなくらいに叫ぶ。お腹から、全力で。どうか、この声で釣られて。そうしてくれれば、私たちの策は成功するんだから。
祈りながら、しっかりと足を回していく。少しだけでも、体力を温存したまま。
「ギアアアアッ!」
「ギャオオオオン!」
もう一体が、釣れたみたい。叫び声が、お互いに共鳴している。なら、後はカイン君のところに逃げるだけ。
そのまま、私は走り続ける。心臓の音が、耳にまで残りそうだった。
いつもより、息が上がる。土が足に引っかかる。苦しいというのを、全身が伝えてくるよ。
私は、ただ逃げ続ける。小竜は、ずっと追いかけてくる。だんだん、近づいてくるのが分かる。
おかしい。さっきまで、余裕を持って距離を取れていたのに。今は、全力で走り続けているのに。今の私は、きっとかわいくない顔をしているよ。
あと、一分。それだけあれば、カイン君のところにはたどり着く。ほんの短い時間だけど、まだまだ長い。
翼の音が、背中に届く。息を吸う音が、聞こえたよ。私は、全力で左に飛ぶ。頬が、ちょっとだけ焼けたような気がした。
あと、40秒。もう、カイン君の姿は見えている。彼は、両手に光を集めている。あとちょっと。ほんのちょっとだよ。
その瞬間、後ろから風の音が届いた。振り向くと、片方の小竜が腕を振り下ろしてくるのが見えた。ダメだ、当たる。
でも、最後まで希望は捨てない。全力で逃げながら、できるだけ体勢を低くする。
すると、服にちょっと爪が引っかかったんだ。ビリビリって破れて、下着が見えちゃう。でも、気にしている余裕はない。ただ、カイン君のところに走る。
「ナイスガッツだ、アミカ! 俺様が、しっかりと仕留めてやるよ!」
カイン君の両手から、ふたつの光が弧を描いて飛んでいく。それぞれが互いに小竜の頭に直撃して、弾ける。そのまま、両方とも小竜は落ちていったんだ。
本当に、あっさりと倒しちゃった。カイン君の実力は、本物だったみたい。
カイン君は、上着を脱いでいく。そして、私に被せてくれた。
「俺様なら、その姿も勲章なんだがな。アミカにとっては、違うだろ?」
「そうかもしれません。ありがとうございます、気を使ってくれて」
「見事なもんだったぜ、アミカ。俺様が完全に助けられなかったのは、悪かった」
「もしかして、小竜の攻撃ですか? 服が破れちゃったのは、仕方ないですよ」
「いや、あれは誰かの魔法だった。分かったから、俺様は倒すことに集中できたんだ」
ちょっと歯を食いしばっている様子で、カイン君はこぼす。自分の力だけで倒せなかったのが、悔しいみたい。声も、ちょっと震えていたし。
それにしても、今回も誰かに助けられたみたいだね。いったい、誰なんだろう。クロエちゃんは、この場にいないみたいだけど。
「その人にも、お礼を言いたいですね。誰か、分かりますか?」
「いや、俺様ですら探れなかった。相当な実力者だろうぜ」
額を手で抑えながら、首を振っている。誰かが分からないのも、プライドを傷つけているのかもしれない。
でも、だからこそ慰めは逆効果。カイン君みたいな人は、自分で納得できないことに何を言われても、絶対に納得しないはずだよ。
「じゃあ、次は探れるようにならないといけませんね」
「ああ、そうだ。俺様は、誰よりも強くなるんだ。こんなところで、立ち止まっていられねえ」
「頑張ってください。私も、応援しています。時々、また協力してください」
「いいぜ。今度こそ、完璧にアミカを守りきってやるよ」
親指を立てて、そう宣言してくれたんだ。私は、輝くような笑顔で頷いて返したよ。
視線を感じた気がして、そちらを見る。王子様が、槍を握りしめていたんだ。
手を振ったら、にらまれた気がする。これ以上は危ない気がして、課題の提出に向かうよ。
エルカ先生に小竜の素材を渡す。すると、鋭い目を向けてきた。
「これで、満足かね? 合格だとは、認めようとも」
エルカ先生の言葉はどうあれ、結果は結果。ひとまず、カイン君も私も、無事に合格できた。それで、教室まで一緒に戻っていったんだ。
クロエちゃんと会うと、目を白黒させているみたいだった。
そのまま、一気に駆け寄ってくる。カイン君は、手を挙げて去っていったよ。
「アミカちゃん、その服……。何があったの?」
「小竜に、服を破られてしまって……。カイン君に、貸してもらったんです」
「そんなのって……! アミカちゃん、そんなに危ないことをしたの!?」
クロエちゃんは私の両手をぎゅっと握りしめて、瞳を揺らしながら叫んだ。私は、一歩下がりそうになっちゃった。もちろん、我慢したけれど。
私にだって分かる。クロエちゃんは、私を心配してくれただけ。その気持ちを拒絶するのは、絶対にかわいくないよ。
だったら、少しでも安心させてあげないと。そう思って、ふわりと笑顔を浮かべたんだ。
「大丈夫です。服は破れちゃいましたけど、怪我はしていませんから」
「よく見せて……! ほっぺた、やけどしてる……! アミカちゃん……!」
すぐに全身が魔力で包まれて、やけども擦り傷も消えていった。泥だらけだったのも、綺麗になった。
やっぱり、クロエちゃんの魔法は凄い。きっと、なんだってできるんだと思う。
「ありがとうございます。また、助けられちゃいましたね」
「アミカちゃん……。あなたが傷つくくらいなら、私は退学になってもいいよ……!」
涙をポロポロこぼして、クロエちゃんは私の胸に抱きついてきた。そっと、抱き返したよ。
クロエちゃんは、私より私のことを大事にしてくれているのかもしれない。なら、もう無理はしないで良いのかな。
いや、違うよ。クロエちゃんを悲しませる無理はしない。それでも、絶対に諦めないよ。
だって、退学になっちゃったら終わりだもん。こんなにも私を大事にしてくれるクロエちゃんとも、会えなくなっちゃうんだから。
「クロエちゃん。明日、一緒にお出かけしませんか? もし退学になっても良いように、思い出を作りましょう」
「……うん。アミカちゃん、絶対に無茶はしないで。明日が最後になっても良い。だから……」
私たちは、指切りをしたよ。もう、後悔はしないように。明日を、全力で楽しめるように。
そして、今日の授業は終わったよ。明日、何をしようかな。胸が弾む私がいたのを、確かに感じたんだ。




