11話 責任を果たす気持ち
マイケル君は、他の人からツルを盗んだみたい。私も持っているってことは、黒幕だって思われるかも。
このままじゃ、退学になっちゃうかもしれない。どうしよう。ちょっとだけ、唇を噛んじゃった。
マイケル君を見る。すると、一歩下がった。確かに、盗んだという証なのかも。不安そうな顔もしているよ。
今の私は、絶対にかわいくない。そう思われていない。だって、マイケル君に盗みを指示したって思われているかもしれないんだから。
そうだ。本当に、かわいくないことをしちゃったんだ。さっきまでの私は、ただマイケル君を利用するだけ。相手の気持ちも考えずに、踊らせようとしただけ。
なら、まずはかわいさを取り戻さないと。課題がどうとかいうより先に、やるべきことがあるんだ。
私は深く、とても深く頭を下げていくよ。
「ごめんなさい。私が、マイケル君に取ってきてと指示したんです。これは、返しますね。マイケル君も」
「それで足りるかよ。俺たちは、時間まで奪われたんだ」
「はい。言い訳をするつもりはありません。どれだけ足りないか、教えて下さい」
「俺はあと5個。お前らは?」
「3個。まあ、間に合うとは思うけど」
「私は4個。別に、返してくれるのなら良いけど……」
ひとまず、本当に最低限のことはできた。でも、まだかわいいとは言えないよ。私のかわいさを示すためにも、信頼を取り戻さなくちゃいけない。
今からが、私の時間。アミカ・ショウタイム。そうしなくちゃ、何も始まらないんだ。
私は、マイケル君に目を合わせていくよ。
「マイケル君。私は、あなたにカッコよくて素敵な人になれるって言いました。それは、どんな人だと思いますか?」
「盗みなんて、しない人……」
目を逸らしながら、そう言われる。やっぱり、悪いことだって思っていたみたい。だからこそ、今からの言葉は響くはずだよ。
そう、私こそが示すんだ。カッコいい人がどんな人か。アミカちゃんのかわいさが、どんなものかを。
「違います。自分の行動に、責任を持てる人。確かな意志を持って、カッコよくなろうとする人です。見ていてください、マイケル君」
私は、目の前にある木に手を添える。そして、足をかけていくよ。
たぶん、今の私はかわいくない顔をしている。でも、それよりも大事なかわいさがあるんだ。
そう。生き方がかわいくなくちゃ、何もついてこない。ソフィさんがかわいいって言ってくれた私は、クロエちゃんが信じてくれた私は、そうだったはずだよ。
木のくぼんでいるところに、足を引っ掛けていく。そこから、次のくぼんだ場所を目指す。足が引っかかって、ちょっと切れちゃったかも。
でも、やるよ。私が失敗したことは、私が取り戻してみせるんだから。
しばらく繰り返して、頂上が見えてきた。木の枝をつかもうとして、握りそこねる。爪が割れたのが、分かった。指が震える。ジクジクする痛みが、襲いかかってきたよ。
でも、まだまだ。私は息を吸って、力を入れる。そして、指先から腕、足の先まで全部を使って、頂上までたどり着いたんだ。
そこから、絡まっているツルを力を込めて引きちぎっていく。取れたツルを、みんなに掲げた。
「取れましたよ、マイケル君! みんな!」
「アミカちゃん……!」
「あいつ、あんなに汚れて……」
そこから降りようとして、足がツルに引っかかったのが分かった。つまずいて、コケていく。なんとか枝をつかもうとしても、届かない。
浮遊感が広がって、ソフィさんの顔が浮かんだ。もう、会えないのかな。かわいいって、言ってもらえないのかな。
マイケル君やみんなが、走ってくるのが見える。でも、みんなまで巻き込まれちゃう。
「逃げてください!」
「絶対に、嫌だ!」
そう言って、マイケル君は走り続ける。ぶつかりそうになった時、私の体を光が包んだ。そして、ふわりと浮かんだような気がしたんだ。
気づいたら、マイケル君に抱えられていたよ。なんとか、お互い無事だったみたい。
「ありがとうございます、マイケル君。おかげで、助かっちゃいました。カッコよかったですよ」
「ううん。僕はまだ、カッコよくなんてなれていない。アミカちゃんに頑張らせるだけだった。見ていて。僕が、やるんだ!」
マイケル君は、木に向かって駆け出す。そして、一気に飛び上がっていったよ。頂上にたどり着いて、ツルを回収する。そしてすぐに、次の木に移っていく。
余裕を持って回収する姿は、とてもカッコよかった。めいっぱい、褒めてあげたいくらいに。
アミカちゃんのかわいさにも、少しは通じるかもね。そんな風に思いながら、私はマイケル君を見ていたんだ。
「あいつ、できるんじゃないか……」
「盗むまでもなかったみたいだな。最初から、気づいていれば……」
「ま、良いんじゃないかしら。私たちの分も、しっかり集めてくれそうだし」
そうして、すぐにマイケル君は戻ってきたよ。ちょっとだけ、泥にまみれながら。でも、それこそが勲章だって思えたんだ。
私は、弾けるような笑顔を見せていくよ。
「ありがとうございます、マイケル君。最高にカッコよくて、素敵でしたよ」
「ううん。僕の責任を、取っただけだから。みんなも、ごめんなさい。これ……」
「ありがたく、いただいておくぜ」
「次からは、するんじゃないぞ」
「結果的には、ラッキーだったかもね」
そう言って、みんなは去っていく。私は、みんなに頭を下げて、それからマイケル君にも頭を下げたんだ。
「ごめんなさい、マイケル君。私が変なことを言わなければ、何もしなくて済んだんですよね」
「ううん。僕が決めたことだから。それに、きっと僕は変われた。アミカちゃんのおかげだよ」
マイケル君は、満面の笑顔で輝いていたよ。私も、笑顔で返したんだ。
「そういえば、落ちた時に魔法で助けてもらいましたね。それも、ありがとうございます」
「いや、僕じゃないよ。間に合わないかと思ったくらいだから。たぶん、みんなでもないと思う」
「だったら、誰が……? お礼を言いたいですね」
「分からない。だから、ちょっと探してみるよ。僕も、お礼を言いたいからね」
そう言って、マイケル君は手を振って去っていったよ。
エルカ先生には、ツルを提出する。厳しい目で、私を見ていたかな。
「自分のしたことの結果を、受け止められたかね?」
そう言われはしたけれど、合格は認められた。課題は、無事に乗り越えられたんだ。
教室に戻って、クロエちゃんに会う。そうしたら、目を真ん丸にした後、泣き出しそうに顔を歪めていたよ。
そういえば、私は傷だらけだった。思い出したら、痛くなってきちゃったかも。というか、顔が引きつりそうなくらいだよ。絶対に、顔には出さないけどね。
「アミカちゃん! すぐに、治してあげるからね」
そう言うよりも早く、光が私を包み込む。一瞬で、痛みも傷も綺麗サッパリ消えちゃったんだ。
クロエちゃんがSランクである証を、軽く示されちゃったかも。本当に、凄い人なんだ。私のパートナーは、最高の魔法使いなんだよね。
だからこそ、クロエちゃんを退学になんてさせられない。これからも、周りに手伝ってもらわなくちゃダメだとは思うけれど。
だけど、私は自分でも動くんだ。きっと、それが私のかわいさを輝かせてくれるよね。
まずは、目の前のクロエちゃんにお礼を言わなくちゃね。最高の笑顔で、ね。
「ありがとうございます、クロエちゃん。おかげで、へっちゃらです」
「私が、手伝えないばっかりに……」
クロエちゃんは、スカートをぎゅっと握りしめていたよ。相当、悔しいんだと思う。でも、私は首を振ったんだ。
「いいえ。今回は、私のせいですから。それに、クロエちゃんは何も悪くありません。ずっと、私を助けてくれています。今だって、ね?」
ウインクをしたら、クロエちゃんは口を軽く開いていたよ。しばらくボーっとしてから、私の手を握ってくれたんだ。
「アミカちゃん。本当に苦しいことがあったら、私に言って。絶対に、助けてみせるから」
「クロエちゃんこそ、ですよ。私にできることなら、全力でやりますから」
私たちは、お互いに頷きあったよ。ふたりで卒業できるように、これからも頑張っちゃうんだから。
次の課題も、絶対に乗り越えてみせる。そんな決意を固めたんだ。
エルカ先生から発表された次の課題は、また難しそうだったよ。
「今回は、裏の森に魔物を放った。倒したものから、合格とする。頑張りたまえよ、諸君」




