10話 本当に、これでいいの?
クロエちゃんと別れて、私は自分の授業に向かう。その時、何度も振り返るクロエちゃんの姿が見えたんだ。
私が失敗したら、退学になっちゃう。不安になるのは、仕方ないよ。それに、きっと心配もしてくれているんだと思う。優しい子だからね。
エルカ先生に着いていく間、つい誰かと話したくなっちゃった。
でも、クロエちゃんはもちろん居ない。スミス君も、ローランド君も。少しでも仲のいい相手は、どこにも居ないんだ。
ソフィさんのお弁当も、ちゃんと味わえなかったし。きっと、悲しそうな顔をさせちゃうよね。
ねえ、ソフィさん。私を、かわいいって言ってほしいな。笑顔で、私の食べている姿を見てほしいな。それは、嘘じゃないんだよね。私を、大事に思ってくれているんだよね。
かわいいって言ってくれるのなら、私はずっと信じるから。だって、初めてかわいいって言ってくれたのは……。
スカートに手を当てて、少しだけ握る。太ももまでつねっちゃって、離した。そうだよ。人前でこんなことをしたら、かわいくない。ちゃんと、最高の私でいないと。
エルカ先生に先導されたまま、私は歩く。そうだ。ここで折れたら、クロエちゃんまで退学になっちゃう。誰でも良いから、利用できる人を探さないと。
そっと、周囲を見回す。いろんな人を、ながめていく。なんとなく、あたりは付けられた。
学園の裏にある、森みたいな場所。少し、暗い影が指す場所。夜の底みたいに、私を飲み込んでいきそうな深さを感じる。そこで、エルカ先生は立ち止まった。
「さて、諸君。今回も、素材を集めてもらおう。アールの木。どこにでも生えている。そのツルを刈り取ることだ。このようにな。20本程度で十分だろう」
身長の三倍くらいありそうな木。そのてっぺんに飛び乗って、ツルを手で切って取る。エルカ先生の取った手順は、私には難しそう。
やっぱり、誰かを使うのが正しいよね。アミカ・ショウタイムの出番かな。
ひとまず、みんなが動き出す前にターゲットに接触しないと。後になったら、間に合わないかもしれないし。
ちょっとオドオドしている様子の、自信のなさそうな男の子。その人に、笑顔のまま近寄っていく。
こういう人は、すぐに誘惑に引っかかってくれるはず。私のかわいさでなら、簡単に魅了できるはずだよ。
「あの、ちょっと良いですか?」
「ど、どうしたの……?」
目をあちこちに揺らしながら、私の言葉に答えている。ふふっ、女の子に慣れていないのが丸わかりだよ。アミカちゃんみたいにかわいい子に話しかけられて、目も合わせられないって感じかな。
よし、この人にツルを集めてもらおう。しっかりとおだてて、木に登ってもらわないとね。
アミカちゃんかわいいテクニックその92! ほんの少しだけ口を開けちゃって色気を出していく!
気づいていないフリをするのが、本物らしさだよ。わざとらしさは、見えないようにね。
実際、唇に目線が来ているからね。私のかわいさに、抗えないみたい。
「あなたなら、きっとうまくツルが集められる。そんな気がするんです。他の人より、ずっと」
「そ、そうかな……?」
頭の後ろに手を置いて、ちょっとニヤついている。よし、順調だね。この調子で、どんどん褒めていくよ。
いい気分で集めてもらって、私にも渡してもらわないとね。そのためには、褒め殺してあげないと。
アミカちゃんは、誰よりもかわいいんだから。この程度のことで、つまづいたりしないんだから。
「はい。だって、落ち着いて課題の内容を聞いていましたよね。クールな人って感じで、素敵です」
「そ、そこまででも……」
「あなたみたいな人なら、あなたと私の分を足したよりも多く集められる。そう思うんです」
「で、できると思う……? その、君は……」
「アミカって言います。あなたなら、できますよ。ね?」
名前も知らないけれど、今このタイミングで聞けば良いんだよ。自分から名乗ることで、自己紹介の流れを作る。これが、アミカちゃんの技。
あんなに褒めておいて、名前も知らない。違和感が出たら負けだからね。細かいことだけれど、大事なんだ。
やっぱり、私のかわいさは最高だよ。ソフィさんもクロエちゃんも、絶対に認めてくれるんだから。
「ぼ、僕はマイケル。そこまで言ってくれるのなら……」
真っ赤になって、モジモジしてる。ほら、計算通り。簡単過ぎて、びっくりしちゃいそうなくらい。
マイケル君っていうんだね。このままでも十分落とせているだろうけど、しっかり押し切っておこう。
ちょっとだけ手を握って、上目づかいで微笑むよ。そして、殺し文句を告げるんだ。
「あなたの素敵な姿、いっぱい見せてください。最高にカッコいい人になれますよ、マイケル君は」
「ま、待ってて……。すぐに、集めてくるから……」
熱っぽい目で私をじっと見つめてから、マイケル君は走り出していく。私は、近くにある切り株に座ったよ。結果を待つためにね。
少し強い風が、頬を叩いた。私を冷やそうとしているみたいに。頬に、手を当てた。少し、冷たかった。
早く、ソフィさんに会いたい。会って、かわいいって言ってもらいたい。穏やかな声で、頭をなでてほしいよ。
そのためにも、こんな課題でつまずいてなんていられない。クロエちゃんを退学させられもしない。
マイケル君がどの程度の実力かは知らないけれど、大丈夫でしょ。私のかわいさでメロメロになって、必死になってくれるはずだし。
私は、のんびりとマイケル君が帰ってくるのを待っていたよ。
しばらくして、ツルを両手に抱えたマイケル君がやってくる。笑顔のまま、私に半分を手渡したんだ。
「こ、これ……。集められたよ……」
「ありがとうございます。やっぱり、素敵な姿を見せてくれましたね。カッコいいですよ」
「へ、へへ……。僕だって、やればできるんだ……」
鼻の下に指をこすらせて、ちょっと胸を張っている。うん、良い感じに進んでくれたね。
この調子で、マイケル君にはまだまだ手伝ってもらおうかな。他の課題でも、うまく活用していきたいところだよ。
「さすがは、マイケル君です。これからも、もっと素敵になっていけるはずですよ」
「そ、そうかな……。アミカちゃんは、どれくらいだと思う……?」
答えていこうとしたら、近づいてくる人の姿を感じる。そちらを見ると、何人かが私達の事をにらんでいた。
どういうことだろう。ひとまず、笑顔を向ける。そうすると、もっと視線が鋭くなった。
近寄ってくる人のひとりは、こちらを指差す。そして、大声で叫んだんだ。
「よくも俺たちのツルを盗んでくれたな、マイケル!」




