転生したらハシビロコウだった件[2] 後編
一夜明けて、動物園では開園と同時に各動物達の動画撮影が始まった。
【※一部の会話は動物達の会話としてご覧ください】
「いいね!ケンタ、可愛いねぇ!!」
『キュゥ!』
レッサーパンダのケンタはおやつを両手で貰ったり、可愛く鳴いてゴロゴロしたり立ち上がったり、あざとさを爆裂させていた。
飼育員も嬉しそうに撮影を続ける。
『(フフフ、私のこの計算された可愛さで皆さんを虜にしてみせますよ)』
平日の客足の少ない日ではあるが、飼育員のテンションは最高潮で、少ない客足もレッサーパンダの檻に集まりつつあった。
『(みんな私を見ている!これは彼には酷な勝負でしたかね…フッ)』
そんな様子を猿山の上からボス猿とその仲間達が心配そうに見ていた。
『ケンタの野郎、フルコースでサービスしてやがるな』
『しかしハッチャンもまた何でこんな勝負受けちまったんだ?』
(※ハッチャンには勝負を受けた記憶はありません)
『ボス、ハッチャン大丈夫なのかな?』
『…いや、ハッチャンのことだ。きっと何か考えてるに違いないさ!』
(※ハッチャンは何も考えていません)
一方その頃、ハッチャンの檻では…
『……』
(動物総選挙?ふーん、何かイベントかな?)
※ハッチャンは元人間なので文字が読めます
『……』
(SNSで動画をアップ、そこで投票を行い見事1位になった動物にはスペシャルメニューの食事を与えているところの様子を当園ホームページにて公開します…か)
ハッチャンは凛と立ったまま、檻の外の掲示板を見つめていた。
「さあ、ハッチャン動画を撮るよー!」
飼育員がやって来る。
『……』
ハッチャンは凛と立ったまま、飼育員をじっと見つめる。
「はい、いくよ!ハッチャン!」
『……』
「ほら、ハッチャン!」
『……』
「ハッチャン?一応動画なんだけどな…これ」
『……』
「えーと、私は静止画を撮ってるのかな?」
『……』
動画時間は各動物2分らしい。
が、ハッチャンは2分間凛と立ったまま、ただじっと飼育員を見つめているだけの、動画なのか静止画なのかわからないシュールな仕上がりになったそうな。
「あはは…まあハッチャンらしくていっか(笑)」
その様子を檻の高い所に登ったレッサーパンダのケンタが見ていた。
『(フッ…これは勝ったも同然!今後の客足が楽しみですねぇ)』
撮影終了後、ハッチャンの檻の前に1人の女性が現れた。女性はパシャリと一枚ハッチャンの写真を撮ると、その後は何をするわけでもなくただハッチャンをずっと眺めていた。
『……』
それに気づいたハッチャンも凛と立ったまま、女性をじっと見つめていた。
1時間が過ぎた頃、
「…ハッチャンね?……また来るね」
と言い残し、ハッチャンの前を去る。
『……』
(ハシビロコウの素晴らしさが伝わったのかな?)
数日後の夜、今日は動物総選挙の投票最終日で、閉園と同時に投票が締め切られた。
飼育員や動物園スタッフ達で取り急ぎ集計をし、明日には結果発表、土日の集客に繋げようということである。
深夜、ハッチャンの小屋にて…
『……』
(さて、今日は久しぶりに誰も来ないし、ゆっくり寝よう)
『ちょっとお邪魔しますよぉ!』
『よう!ハッチャン!』
『……』
(うそーん…)
やって来たのはレッサーパンダのケンタとボス猿だった。
『さて、約束通り明日からが勝負ですよ!』
『……』
(誰だ?こいつ…)
『人間達が話してるの聞いたんだけどよ、今日がそのSNSだかの締切らしくてな、明日結果発表みてーなんだよ』
『……』
(あぁ、総選挙のことか)
『明日明後日は土曜日と日曜日、お客様が多くいらっしゃる日です。そこで明日からの2日間で勝負です!』
『……』
(何言ってんだ?こいつ…)
『俺がしっかり見てるからな!ちゃんと公平にするぜ!』
『……』
(何か盛り上がってるよ…こいつら…)
『まあ、やるまでもなく勝負は見えてますけどね!あと2日間、せいぜい最後のリーダーとしての日々を楽しんでください(笑)』
『……』
(だから誰だよ?お前…)
ボス猿はハッチャンに近寄り、小声で話す。
『ま、ハッチャンの事だから何か秘策があんだろ?楽しみにしてるからな!』
『……』
(※ハッチャンは眠くなってきました)
『それでは、我々はこの辺で!当日になって逃げ出さないでくださいよ?あ、檻の中だから無理か!動物園ジョークわかりますか?アーッハハハ!!』
『……』
(※ハッチャンはすでに意識がありません)
『じゃあな、ハッチャン!』
『…(スヤァ)』
翌日、総選挙の効果があったのか、多くの来園者が訪れていた。
その様子を眺める猿達。
『すげぇ人だな…しかしまぁこれは…』
『ほんとに勝負にならなそうだな…』
『ハッチャン…』
レッサーパンダの檻にて…
「こちら総選挙2位のレッサーパンダのケンタくんでーす!」
檻の前には総選挙の2位の掲示がされていた。
「可愛いー!」
「癒されるー」
レッサーパンダのケンタの檻の前はたくさんの人で賑わっていた。
『(何で!?こんな事ありえない!!)』
しかし、レッサーパンダのケンタは明らかに不満そうであった。
一方でハッチャンの檻は…
「こちらハシビロコウのハッチャンの列の最後尾です!檻の前までは約60分です!!」
何と、ハッチャンの檻にはとてつもない人が集まっており、客は皆ハッチャンに会うために行列を作っていた。
『……』
「あ、こっち見てるのかな?目が合ったかも!?」
「何かずっと見てられるな!」
(みんなハシビロコウの魅力に気づいてくれたんだな…)
ちなみにハッチャンは総選挙ランキング圏外であった。が、ハッチャンの檻の前には〝超人気モデルMAIKA激推し〟の掲示がされていた。
実は先日、ハッチャンをずっと眺めていたのはMAIKAであり、総選挙の投票締切後、彼女は自身のSNSにて、
《超癒されるハシビロコウのハッチャン!総選挙知らなかったぁ(泣)私激推しだから投票したかったなぁ…》
《ハッチャンのグッズ出たら爆買いしちゃうかも♡》
《空き時間あればハッチャンに会いに行っちゃうかも!》
と、ハッチャンの写真付きで発信されると瞬く間に拡散され、ハッチャンのシュールな動画は大バズり。
ハッチャンは一瞬にしてスーパースターになってしまったのだ。
「すごいねぇ、ハッチャン!これからグッズ作って販売したりモグモグタイム増やしたりして、忙しくなるぞぉ!」
『……』
(ちゃんとキックバックよこせよ?)
勝負は“自分の檻の前に多くの客を集めた方の勝ち”であった為、この勝負は2日間とんでもない数の客を集めたハッチャンの圧勝という形で幕を閉じた。
そしてまた深夜、ハッチャンの小屋にて…
『……』
(さて、そろそろ寝る…)
『ハッチャン!』
『……』
(お、おぉう…)
訪ねて来たのはトラであった。
『いや、何かわかんないけどさ、お祝いだ!とかスペシャルメニューだ!とか言って和牛くれたんだよ!』
『……』
(ね、眠い…)
そう、実は見事総選挙1位に輝いたのはトラだったのだ。
飼育員に甘えてる姿が猫みたいで可愛い、イカつい顔なのにギャップ萌え!とかで2位のレッサーパンダのケンタと大差を付けての1位だったそうな。
『ハッチャンの言う通り、感謝の気持ちって大事なんだな!あれから毎日飼育員に感謝の気持ちを伝えてたんだ!』
甘えていたのではなく、トラなりに感謝の意を示していたようだ。
『それでね、今日はそのお礼とハッチャンに和牛のおすそ分け!ちょっと残して隠しておいたんだ!』
トラはハッチャンの前におすそ分けを置くと、
『じゃあね!ハッチャン!!』
と、小屋を去って行った。
『……』
ハッチャンはおすそ分けをヒョイっと口に運んだ。
『……』
(さて、寝るか…)
『…(スヤァ)』
【~完~】




