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復讐の炎は愛へ ~禁断の薔薇  作者: 朧月 華


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第5話 復讐の幕開け

桜庭玲奈は、父の危篤という知らせを受けて急ぎ病院へと向かった。怜司は、言葉少なに彼女の隣に寄り添い、その深い悲しみを分かち合うかのように、ただ静かに見守っていた。病室に駆けつけた玲奈を待っていたのは、衰弱しきった父の姿だった。


「玲奈…お前には、何年も隠してきたことがある…」父は弱々しく、しかし確かに娘の手を握りしめた。「お前の母親の死についてだ…あれは、事故なんかじゃない…」


父の口から語られたのは、想像を絶する真実だった。玲奈の母は、吉田麻衣の父と鷹司グループ内部の一部関係者が絡む不正取引の証拠を掴んだために、口封じのために事故に見せかけて殺されたのだという。父は長年、密かにその調査を続けており、報復を恐れて今まで娘に真実を告げられずにいたのだった。


「書斎の金庫の中に…全ての証拠が…」父は虚ろな目で宙を見つめた。「お前の母さんの…仇を討ってやってくれ…そして、何よりも自分を守れ…」


その夜、桜庭会長は静かに息を引き取った。玲奈は父の遺体を前に、ただ涙を流した。しかし、その涙は悲しみだけでなく、新たな、そして決定的な決意を固めるためのものだった。母の死の真実、父の無念。そして、五年前に自分を陥れた裏切り者たちへの怒り。全ての感情が、彼女の中で復讐の炎をさらに激しく燃え上がらせた。


葬儀の日、鷹司怜司はずっと玲奈の傍らに寄り添っていた。彼の存在は、玲奈にとって、深い悲しみの中で唯一の支えだった。夜の帳が降りる頃、彼は墓前に一人立つ玲奈を見つけた。月光が、彼女の横顔を淡く照らしていた。


「何か手助けが必要か?」怜司の優しい声が、静寂に包まれた墓地に響く。


玲奈は彼を振り返った。その瞳には、まだ涙の跡が残っていたが、そこに宿る光は、以前よりも一層強く、燃え盛っていた。「なぜ、蓮があなたの子供だと嘘をついたの?」


「君と蓮を守りたかったからだ。」怜司は玲奈の頬に触れ、そっと彼女の涙を拭った。「そして、私が言ったのは全てが嘘ではない。私は確かに君を愛している、玲奈。初めて君を見た時からずっと。あの婚約披露宴の夜、私は本来、君に自分の気持ちを伝えようとしていた。だが、まさか、あんなことが起こるとは思わなかった。」


彼の指先が、玲奈の頬をそっと撫でる。その温かさが、彼女の心をじんわりと溶かしていく。「君が姿を消した後、私は狂ったように君を探した。だが、何も見つけられなかった。この五年間、君を愛し続けない日は一日もなかった。」


玲奈は、彼の真摯な告白に、これまで張り巡らせていた心の壁が、音を立てて崩れ落ちるのを感じた。五年間、独りで戦い続けてきた孤独と、決して癒えることのなかった心の傷。それらが、彼の腕の中で、今、優しく包み込まれていくようだった。


「蓮は…確かに藤原悠斗の子供です。」玲奈は、震える声で告白した。彼の目を真っ直ぐに見つめ、全てを打ち明ける。


「分かっている。」怜司は静かに頷いた。彼の表情には、一点の動揺も見られない。「だが、私は気にしない。私が愛しているのは君だ。そして、君の子供も愛する。蓮は、私の息子として育てる。」


玲奈は彼の胸に飛び込んだ。五年間抱えてきた孤独と強さが、この瞬間に融解していく。彼の腕の中は、何よりも温かく、そして安全な場所だった。しかし、すぐに彼女は顔を上げ、その瞳は再び強い意志を宿した。「あなたの気持ちを受け入れるわ。でも、その前に、私には果たさなければならないことがある――私の母と父の仇討ちを。」


怜司は玲奈の決意を宿した瞳をじっと見つめ、その唇の端を微かに吊り上げた。「君が何をしようと、私が力になろう。鷹司グループの全ての力を、君のために使うことを誓う。」


桜庭玲奈は社交界への正式な復帰を決意した。父の死後、悲しみを乗り越え、彼女は「Su」として盛大な発表会を主催し、同時に桜庭宝飾の再オープンを高らかに宣言した。その発表会は、かつての桜庭会長の威厳と、玲奈自身の研ぎ澄まされた美学が融合した、華麗な幕開けとなった。


当日は、日本の名だたる財界人やファッション関係者が会場にひしめき合った。藤原悠斗と吉田麻衣も、玲奈が今や業界の注目の的である以上、出席せざるを得なかった。彼らの顔には、焦りと、そして隠しきれない畏怖の色が浮かんでいた。


「玲奈、少し話せるか?」悠斗は玲奈が一人になった隙を見計らって近づいてきた。その目には、五年前には見られなかった深い後悔の念が宿る。「僕が悪かった。あの頃は愚かだった。吉田麻衣に騙されていたんだ。この五年間、君のことを思わない日は一日もなかった…本当に、申し訳なかった。」彼の言葉は、心からの謝罪のように聞こえた。


玲奈はシャンパンを揺らしながら、悠斗の言葉を聞いた。その笑顔は優雅でありながらも、どこか近づきがたい距離感を保っていた。「藤原様、何を仰っているのでしょう?もう過去のことです。わたくしには、もう関係のない話ですわ。それより、藤原様と吉田様の末永いご多幸をお祈り申し上げます。お二人は、本当にお似合いですものね。」


吉田麻衣もその時、玲奈の元へと近づいてきた。その顔には、無理に作った笑顔が貼り付けられていた。「玲奈、本当に、まさか生きていたなんて。しかも、こんなに…成功しているなんてね。」彼女の口調には、賞賛の中に隠しきれない嫉妬と、そして嘲りが混じっていた。


「あなた方のおかげですわ。」玲奈は微笑んだ。その瞳は、麻衣の偽りの笑顔の奥を見透かすかのように鋭い。「あの素晴らしい裏切りがなければ、私は今頃、夫に仕え子を育てるだけの藤原夫人として、真の自分の価値に気づくこともなかったでしょうから。ある意味、感謝していますわ。」


麻衣の顔色が一瞬にして悪くなる。「あなた、お子さんがいるそうね?父親は…」麻衣は、玲奈と怜司の会話を聞いていたことを確信し、その真実を暴こうと画策する。


「あなた方には関係のないことです。」玲奈は、麻衣の言葉を冷ややかに遮った。そして、麻衣の首元で輝くネックレスに視線を投げた。「あら、そのネックレス。私の五年前のデザイン『初志しょし』ではないかしら?藤原悠斗さん、ずいぶん物持ちが良いのね。五年も経つのに新しいものを買ってあげないなんて?それとも、貴方のコレクションの中に、未だに私のデザインを求めている愚かな者がいるということかしら?」周囲からくすくすと笑い声が漏れ、麻衣は羞恥と憤慨に顔を歪ませた。彼女の頬は真っ赤に染まり、悔しげに唇を噛み締めるしかなかった。


その時、会場の入り口がざわめき、鷹司怜司が堂々とした足取りで現れた。彼はまっすぐ玲奈のもとへ向かうと、ごく自然に彼女の腰を抱き寄せた。その動きは、まるで彼女が彼のものであるかのように、迷いがなかった。「遅れてすまない。道が少し混んでいてね。」


会場はどよめき立つ。鷹司怜司が公の場で、これほど親密に女性と接することはこれまでになかった。玲奈の隣に立つ彼の姿は、圧倒的な存在感を放っていた。


藤原悠斗は、その光景にさらに衝撃を受けていた。「叔父様、あなたと玲奈が…!これは一体、どういうことなんですか?!」


「桜庭さんは今、私のビジネスパートナーであり、最も親しい友人だ。」怜司の口調は一切の異論を許さない、絶対的なものだった。「何か問題でもあるか、悠斗?」彼の冷たい視線が、悠斗を射抜く。


吉田麻衣は、もはや冷静さを保てなかった。「叔父様はご存知ないかもしれませんが、玲奈にはお子さんがいます!その子、実は…!」彼女は、玲奈と怜司の関係に楔を打ち込もうと、蓮の真実を暴露しようとした。


「吉田さん。」怜司は、麻衣の言葉を冷ややかに遮った。その声には、底知れぬ怒りが込められていた。「公共の場だ。言動には慎重を期すように。君がここで口にして良いことと悪いことの区別もつかないのか?」彼の警告は明白で、麻衣は怜司の凍てつくような眼差しに怯え、それ以上何も言えなくなった。全身が震え、彼女は悔しさに唇を噛み締めるしかなかった。


発表会後、桜庭玲奈の復讐は正式に始まった。彼女は父から託された証拠を元に、鷹司怜司と手を組み、吉田グループへの包囲網を徐々に狭めていった。ビジネスの場では容赦ない攻勢を仕掛け、主要顧客を次々と奪い取り、高値で吉田グループの株を買い占め、破産寸前まで追い詰めていく。玲奈は、かつて自分が味わった絶望を、今度は彼らに味わわせようとしていた。


同時に、玲奈と怜司の協力関係はますます緊密になり、二人の間にはビジネスを超えた、深い信頼と感情が育まれていった。彼は常に玲奈を支え、彼女の計画を完璧にサポートした。玲奈もまた、彼の優しさと強さに、少しずつ心を開いていく。しかし、過去の傷が深く、彼女はまだ、完全に彼の愛情を受け入れることを躊躇していた。


ある日の夜、怜司はオフィスを出ようとする玲奈を、ドアの前で押し留めた。彼はドア枠に両腕をかけ、彼女を腕の中に閉じ込める。その瞳には、深い情熱の炎が燃え盛っていた。


「君は、いつまで私から逃げるつもりだ?」彼の声は、熱く、そして切実に玲奈の心を揺さぶった。


玲奈の心臓が早まる。「逃げてなどいません。ただ、私たちは仕事に集中すべきだと…今は、復讐を果たす時ですから。」


「五年だ、桜庭玲奈。」彼の息が彼女の頬を掠める。その熱い吐息が、玲奈の肌を焦がすようだった。「あの夜、君の婚約披露宴で言いそびれた言葉を、今こそ言わせてくれ。愛している、玲奈。初めて君を見た時からずっと、この感情を心の中に閉じ込めてきた。だが、もうこれ以上、抑えきることはできない。」


彼の指が、玲奈の頬をそっと包み込む。「今は君も自由だ、私も自由だ。これ以上、私たちをすれ違わせないでくれ。」


彼の唇が玲奈の唇に触れた。そのキスは、優しく、しかし拒絶を許さない、深く情熱的なものだった。玲奈は、本能的に彼を突き放すべきだと分かっていながら、既にこの禁断のキスに溺れていた。五年間、心を固く閉ざしていた彼女の感情が、彼の熱いキスによって、今、まさに解き放たれようとしていた。


**まさにその時、彼女の携帯電話が鳴った。画面に表示された見慣れない番号に、玲奈の胸に不吉な予感が走る。しかし、彼女は怜司の腕の中から体を離すことなく、その電話に出た。「はい、桜庭ですが…」数分後、電話を終えた玲奈の顔色は、瞬く間に真っ青になっていた。彼女の唇から、か細い声が漏れる。「ごめんなさい、怜司さん…私、行かなくちゃ…蓮が…!」**


**怜司は彼女の異変に即座に気づき、その顔から笑顔が消えた。「どうした、何があった?」彼の声には、深い緊張と、彼女への懸念がにじみ出ていた。**



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