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復讐の炎は愛へ ~禁断の薔薇  作者: 朧月 華


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第3話 禁断の出会い

桜庭玲奈は、まさか鷹司怜司がこんなにも早く直接訪ねてくるとは思っていなかった。彼女の呼び出しに応じるとは、予想以上の行動力だ。だが、それは同時に、彼がただのビジネスマンではない、危険な存在であることを示唆していた。


その夜、ホテルのスイートルームのドアを開けると、彼はそこに立っていた。壁にもたれた姿は、オーダーメイドのスーツ越しにも鍛え上げられた体躯を際立たせ、尋常ではないほどの圧倒的なオーラを放っていた。深い夜の色を映すような瞳は、鋭く、それでいて底の見えない湖のように静かだ。五年前、遠くからその存在を認識した時の印象とは、まるで別人のようだった。年齢を重ね、さらに磨き抜かれたその風格は、彼が鷹司グループの頂点に立つ者であることを雄弁に物語っていた。玲奈の心臓が、理由もなく早鐘を打ち始める。これは、危険を察知する本能なのか。


「Su様。」彼がゆっくりと体を起こすと、その視線は燃えるような輝きを放った。「私に会いたいとご指名されたそうですね。私を呼び出すほどの要件とは、一体?」


「鷹司様、ようこそお越しくださいました。」玲奈は平静を装い、部屋のドアを大きく開いた。「どうぞ、お入りください。ご期待に沿える話ができるかと存じます。」


怜司はスイートに入ると、リビングで積み木で遊ぶ蓮に目を向けた。子供は彼を見上げ、一点の曇りもない澄んだ瞳で微笑みかけた。全く人見知りすることなく、その小さな手を振る。「おじさん、こんにちは。」


**怜司の冷徹な表情が、微かに、本当に微かに、和らいだように見えた。彼はゆっくりと蓮に近づき、屈んで目線を合わせる。その動きは、どこか不器用でありながらも、確かな優しさを滲ませていた。** 「こんにちは。」怜司の声もまた、わずかにトーンが落ち、優しさを帯びる。その目は蓮の顔をじっと見つめている。**「君の名前は?随分と愛らしいお子さんだ。」**


「桜庭蓮。」子供ははっきりと答えた。「思いを馳せる『蓮』です。」


怜司は微かに目を見張った。そして、蓮の顔から、一瞬、玲奈の顔へと視線を移した。**彼の瞳の奥に、何か探るような、あるいは懐かしむような、複雑な光が揺らめいたのを玲奈は見逃さなかった。** 「良い名前だ。」


玲奈はすぐさまベビーシッターに蓮を寝室へ連れて行くよう促した。そして、改めてこの危険な男に向き直る。怜司の視線が蓮に向けられた時、玲奈の胸に走った一抹の不安を、彼女は懸命に心の奥底に押し込めた。「鷹司様は、私の子供にご興味がおありで?」


「ただ、」怜司の視線が玲奈を捉えた。その視線は、まるで仮面の下にある彼女の素顔を見透かすかのようだった。「どこか、不思議なほど見覚えがある気がしてね。」


玲奈の心の中で警鐘が鳴り響いたが、表面上は動揺を見せず、あくまでビジネスライクな口調で応じた。「小さなお子さんは皆、純粋で愛らしいものです。そう感じるのも無理はありません。本題に入りましょう、鷹司様。」


交渉中、玲奈は鷹司怜司がやはり噂に違わぬ人物だと認めざるを得なかった。彼のビジネスに対する洞察力は鋭く、聡明で、そして常に要点を突いてくる。五年前の未熟な自分ならば、あっという間に彼のペースに飲まれていただろう。しかし、今の玲奈は違った。ヨーロッパでの五年間の研鑽と、自らの手で築き上げたビジネスの経験が、彼女を成長させていた。彼女は彼の言葉の裏を読み、先を予測し、彼の猛攻をかわしていく。


「Su様の交渉スタイルは、」怜司が突然言った。その声には、微かな称賛と、そしてある種の確信が混じっていた。「実に鮮やかだ。だが、それ以上に、私にはある人物を思い出させる。」


玲奈はティーカップを手に取る手が微動だにしない。その瞳は、彼の言葉の真意を探るようにじっと彼を見つめる。「あら?どなたのことでしょう?まさか、私に双子の姉妹でもいると?」


「いや。」怜司はゆっくりと首を振った。彼の視線は、仮面の下の玲奈の瞳の奥を覗き込むかのようだった。「かつて私の甥の妻になるはずだった女性だ。五年前、私の甥の婚約披露宴から忽然と姿を消した、桜庭玲奈という女性を。」


玲奈は小さく笑った。「まさか、鷹司様は私がその女性だとでも?随分と突拍子もない話ですね。」


「いや。」怜司は、その冷たい目で玲奈を見つめながら、一層ゆっくりと、しかし確信に満ちた声で続けた。「彼女は君ほど…鋭くはなかった。当時の桜庭玲奈は、まるで温室育ちの繊細な薔薇のようだった。だが、君は違う。君は、どんな逆境にも負けず、自らの手で道を切り拓いてきた、荒野に咲くフレイムローズだ。その強さこそ、君の最大の魅力だろう。」


彼の言葉は、玲奈の心の奥底に封じ込めていた過去の傷を、まるでそっと撫でるようだった。一瞬、動揺が走るが、彼女はすぐにそれを理性でねじ伏せた。警戒心が、これまで以上に強く沸き上がる。


彼は立ち上がり、会談を終えた。「提携条件は概ね同意だ。詳細は私の弁護士が君のチームに連絡するだろう。だがSu様、私には個人的なお願いがある。」


「お聞かせください。」玲奈は彼の次の言葉を待った。


「明日のチャリティパーティーで、私のエスコート役を務めていただけないだろうか?」怜司の口調は穏やかでありながらも、一切の拒絶を許さない、絶対的なものだった。「提携する以上、私たち鷹司グループとSu様が友好的な関係にあることを世間に示すのも悪くない。君にとっても、桜庭宝飾の再スタートには良い機会だろう。」


玲奈はこれが単なるビジネス上の誘いではないと瞬時に理解した。しかし、同時にこれは、鷹司家の核心に、そして復讐の対象である悠斗と麻衣に、より深く切り込むための絶好の機会でもあった。彼の思惑は読めないが、利用できるものは利用する。それが今の彼女の流儀だった。


「光栄ですわ。喜んでお引き受けいたします。」玲奈は仮面の下で、不敵な笑みを浮かべた。


チャリティパーティー当日、桜庭玲奈は、目を奪われるような深紅のドレスを纏い、やはり半顔の仮面を付けて鷹司怜司の腕を取り、会場に足を踏み入れた。その瞬間、会場のざわめきが大きくなり、二人はたちまち全来賓の注目の的となった。まるで絵画から抜け出たかのような二人の姿は、どこか神秘的で、近寄りがたいオーラを放っていた。


少し離れた場所にいた藤原悠斗と吉田麻衣の顔色は、見るからに悪かった。


「叔父様、いつSuと知り合ったんだ?」悠斗は隣の同伴者に小声で尋ねたが、誰も満足な答えを返せない。彼の視線は、玲奈のしなやかな背中を射抜くように見つめていた。その中に、かつての玲奈の面影を探すような戸惑いが混じっている。


麻衣は玲奈の身に着けた、煌めくダイヤモンドのネックレスとイヤリングを見つめ、隠しきれない嫉妬を滲ませた。「あのジュエリーは、『フレイムローズ』の非売品じゃなかったの?どうして彼女が身に着けているのよ?まさか、鷹司様が贈ったとでもいうの…?」その声には、自分は悠斗から粗悪なレプリカしか与えられていないことへの、深い憤りと劣等感が滲んでいた。


ダンスが始まると、怜司は自然に玲奈をダンスフロアへと誘った。彼のリードは完璧で、玲奈の体は彼の動きに合わせて滑らかに舞う。


「Su様はなぜ常に仮面を?」彼が玲奈をリードして回転しながら、低い声で尋ねた。その声は、玲奈の耳元で囁くようだった。


「神秘性を保つのは、マーケティングの一種です。貴方様ほどの人物が、そのようなことに興味をお持ちとは、意外ですね。」玲奈は淀みなく答えた。


「それとも、」彼の腕が玲奈の腰に回り、その手が布越しに温もりを伝えてきた。玲奈の心臓が、微かに、しかし確かに脈打つ。「君は何かを隠しているのか?例えば…君の本当の素顔を、だとか。」


玲奈は彼をまっすぐ見上げた。仮面の下で、彼女の瞳は鋭く光る。「鷹司様もまた、なぜ私にそれほどご興味を?まさか、私の仮面の下に、特別な何かを期待していると?」二人の視線が空中で交錯し、火花を散らす。そこに流れるのは、ビジネスを超えた、抗いがたい、ある種の危険な引力だった。怜司の手のひらの温もりが玲奈の腰にじんわりと広がり、玲奈はなぜか心が乱された。これは、彼が持つ圧倒的な男性的な魅力のせいか、それとも、この男の底知れない深さのせいか。


就在这时,蓮のベビーシッターが慌ただしく近づいてきて、玲奈に小声で言った。「桜庭様、大変申し訳ございません!蓮様が急に熱を出し始めまして、しきりにママを呼んでいます…!」


玲奈の顔色が一瞬にして真っ青になった。ビジネスのこと、復讐のこと、そしてこの男の危険な魅力。それら全てが、息子の体調不良という現実に、一瞬で吹き飛んだ。「なんですって?私、誰も迎えに行かせるとは一度も許可していません!」


怜司は即座に冷静になった。「落ち着いて。誰だか分かる。私の義姉だ。悠斗の母親だ。」彼の声には、僅かながらも苛立ちが混じっている。


玲奈は急いで彼の腕を振りほどいたが、あまりにも焦っていたため、ハイヒールがよろめき、バランスを崩した。次の瞬間、顔に固定されていた仮面が、するりと外れて宙を舞う――


時間が止まったかのような感覚。


怜司は目の前に現れた、既視感のある、しかし以前よりも遥かに美しく、そして強い意志を宿した顔を見つめた。彼の瞳に、深い驚愕と、そして五年間探し求め続けた対象を見つけた喜びと、罪悪感が複雑に交錯する。「桜庭…玲奈…なのか?」その声は、震えるようだった。


玲奈はもはや隠し通せないと悟った。しかし、今は息子のことだけが頭にあった。彼女は仮面を拾い上げ、混乱と焦燥の中で、その場を離れようとする。「はい。そうですが、今は…!子供が病気で。失礼します!」


怜司は去っていく彼女の背中を見つめ、その瞳には複雑な光が宿っていた。五年。あの夜、失意の底で姿を消したはずの女性が、これほどまでに強く、そして美しくなって、彼の目の前に現れた。そして、彼女の隣には、自分に酷似した面影を持つ幼い息子がいる。彼の中で、点と点が、今、急速に繋がり始めていた。



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