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復讐の炎は愛へ ~禁断の薔薇  作者: 朧月 華


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第2話 五年後の再会

国際宝飾デザイン展の会場では、マグネシウムの光が絶えず瞬き、世界中の注目が一点に集中していた。その熱狂の中心にいるのは、謎の新鋭デザイナー「Su」。彼女は常識を打ち破る大胆なデザインと、他に類を見ない独特のスタイルでファッション界を瞬く間に席巻し、今やその名は国際的なメゾンにまで轟いていた。しかし、彼女は決して素顔を見せず、常に半顔の仮面を付けて公の場に現れる。その神秘性が、さらなる憶測と熱狂を呼んでいた。


誰も知らない。この「Su」こそ、五年前、婚約披露宴という人生最悪の舞台から、深い傷を抱えて姿を消した桜庭玲奈その人だということを。


あの夜、全てを失い、絶望の淵に突き落とされた玲奈は、ただひたすらに遠くへ逃れた。辿り着いたのは、ヨーロッパの片隅にある小さな宝石細工の工房。そこで、彼女は昼夜を問わず、宝石と向き合う日々を送った。言語の壁、文化の違い、そして何よりも胸に刻まれた裏切りの記憶。それら全てが、彼女を奮い立たせる原動力となった。寝る間も惜しんでデッサンを描き、時には師匠の厳しい叱責にも耐え、指先が血豆だらけになるまで金属を叩き、宝石を研磨した。故郷を離れ、独り異国で、彼女は過去の自分を焼き尽くし、新たな命を燃やす“フレイムローズ”として生まれ変わったのだ。その鋭い感性と、誰にも真似できない緻密な技術、そして何よりも「二度と誰にも屈しない」という鋼のような意志が、今の彼女を築き上げていた。


展示会のVIPルームで、玲奈はついに仮面を外し、精緻でありながらも冷ややかな表情を露わにした。歳月は彼女の美しさを奪うどころか、研ぎ澄まされた刃のような鋭さと、底知れぬ自信を彼女に与えていた。


「ママ!」幼い声が響き、四歳の小さな男の子が彼女の懐に飛び込んできた。愛おしさに満ちたその声は、玲奈の冷徹な表情を一瞬にして融解させる。彼女の目元がほんの少し柔らかくなるが、その瞳の奥には、かつての痛みを隠しきれずに息づいている。


玲奈は息子である桜庭蓮をしっかりと抱き上げた。「蓮、今日はお利口さんだった?絵本、おばさんと読めた?」


「うん、お利口だったよ!ね、ママ、あのキラキラの絵、蓮も描ける?」子供は力強く頷き、目を輝かせた。その大きな瞳は、あの男に酷似しているが、そこには彼女譲りの強い意志と、真っ直ぐな好奇心が宿っていた。


玲奈は心の中でその子の顔に重なる「その男」の面影を感じ、胸の奥でわずかな痛みがこみ上げるのを感じたが、それをすぐに押し込めた。あの夜から五年、私はもう振り返らない。 彼女は蓮を抱きしめながら、自分の心を力強く封じ込める。


「桜庭社長、鷹司グループの方々が、お打ち合わせをご希望されています。」アシスタントがノックして入ってきた。


玲奈の目に鋭い光が宿る。「どちらの方がいらっしゃっているの?」


「藤原悠斗様ご本人と、その…婚約者であられる吉田麻衣様です。」


五年。やはり、二人はまだ一緒にいて、しかも結婚間近だというのか。その事実に、玲奈の心は微動だにしなかった。もはや、彼らに対する感情は、冷たい無関心だけだった。 彼女は冷静に、しかし決して弱さを見せることなく答える。「通してあげて。」


藤原悠斗と吉田麻衣がVIPルームに入ってきた時、玲奈は再び仮面を装着し、蓮を抱き上げていた。仮面の下のその瞳は冷徹で、決して動揺しない。五年前の面影を感じさせる悠斗の姿に、彼女の心は一瞬で過去に引き戻されるが、その感情はすぐに沈み込んでいった。


「Su様、かねてよりお名前は伺っております。」悠斗は手を差し出したが、その視線は仮面の下に覗く玲奈の瞳に吸い寄せられていた――あまりにも似ている。彼がこの五年、罪悪感を抱き続けてきたあの女性に。


玲奈の内心で何かが震え、少しだけ迷いが生まれたが、すぐにそれを抑え込む。もう二度と、私は弱さを見せることはない。 彼女は仮面の下で、静かに微笑んだ。


麻衣はSuの着ているオーダーメイドドレスと宝飾品をじっと見つめ、隠しきれない嫉妬を滲ませた。「Suデザイナーってこんなにお若いんですね。しかも、もうお子さんまでいらっしゃるなんて。」その言葉には、玲奈の成功と、そして子供の存在に対する、明らかな含みがあった。


玲奈は握手に応じず、ただ軽く頷いた。「お座りください。私と提携をご希望だとか?」


「はい。」悠斗はプロとしての態度を保とうと努める。「鷹司グループは、Su様の最新コレクション『フレイムローズ(炎の薔薇)』の独占販売権を希望しております。条件は、Su様のお好きなように。」彼の言葉には、以前の傲慢さは消え、どこか縋るような響きがあった。


玲奈はそっと息子の髪を撫でた。「条件ですか?ええ、良いでしょう。ですが、私は鷹司グループの真の権力者としかお話ししません。」


悠斗の顔色が変わる。「私が今、鷹司グループのCEOを務めておりますが…」


「私が申しておりますのは、鷹司怜司様のことです。」玲奈が紅い唇を静かに開くと、二人は同時に硬直した。


鷹司怜司。藤原悠斗の叔父にして、鷹司グループの真の最高権力者。五年前、家族の危機によってグループを引き継ぎ、その冷徹な手腕で倒産寸前だった会社を立て直した、神秘的で圧倒的な存在感を放つ男。彼の存在は、日本の経済界において伝説的なものだった。


麻衣が思わず口走った。「叔父様が直接、提携の件を扱うなんてことはありません!叔父様は、ビジネスの細かい交渉には一切関わらない方です!」


「なら、異例の事態を起こせば良いでしょう。」玲奈は立ち上がり、会談の終わりを示唆した。「鷹司怜司様が興味を持たれたら、私のアシスタントにご連絡を。こちらは、貴方たちと無駄に時間を費やすつもりはありません。」


去り際、蓮が玲奈の腕の中で、突然振り返り、悠斗に舌を出した。子供の無邪気な、しかし挑発的な仕草に、悠斗は一瞬、我を忘れる――なぜこの子の目元は、あんなにも見覚えがあるのだろう?その小さな顔は、まるで遠い記憶の中の自分自身を映し出しているかのようだった。



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