何でも欲しがる妹の独白
初作品です!
勢いで書いてしまいましたが、楽しんで貰えると嬉しいです。
宜しくお願いします。
子爵家の長子である姉メアリーの物を何でも欲しがる妹シンシア。ドレスもアクセサリーも友人も何でも欲しがる妹。美しい妹シンシアには両親も味方のため、お姉ちゃんなんだからと許していた。姉のメアリーも可愛い妹には甘かったがついに婚約者であるアンドレ様までも欲しがって来た。しかも、お姉様にはこの方がお似合いよ。と悪い噂が絶えない男爵の跡取りであるクロイツ様を薦めてきた。もう既に手続きなど全て終えどうすることも出来ない状態だったメアリーは泣く泣く男爵の元へと嫁ぐことになった。しかし、実際に会った嫁ぎ先のクロイツ様は文句の付けようがない完璧な人だった。容姿端麗で優しく勤勉で賢く、最近鉱山を見つけこれから軌道にのるという将来の安定性もある。しかも、優秀過ぎて宰相に目を掛けられ宰相補佐になることが内々に決定しており爵位の階級も順次上がっていくのだそうだ。なのに何故悪い噂が絶えないかというと、優秀過ぎるが故の妬みや嫉妬を持った者達が根拠もなく腹いせに流された噂だった。メアリーは心から妹シンシアに感謝し幸せに暮らした。その一方シンシアはというと、姉の元婚約者のアンドレ様は華やかで美しい顔立ちをしており社交界の華と言われるほどの人だったが、実際は女好きで浮気性、浪費家で頭の出来も普通以下という最低のクズ野郎だった。そのことで、シンシアは大変な苦労を負っていた。度々姉のメアリーから幸せな暮らしが綴られた手紙を貰う時、シンシアは怒り狂う
......ということはなかった。
実は、シンシアはお姉様が大好きでお姉様に幸せになって欲しいということを子供の頃から純粋に願っていました。
しかし、姉のメアリーには何故か不幸を引き寄せてしまう体質だったのです。そのため、子供の頃のお姉様は、何もないところで転び怪我をすることは当たり前、食事も故意ではないのに腐ったモノが何故かお姉様の食事に混ざってしまい、体を壊し寝込むことが何度もありました。さらに誘拐未遂や事故に巻き込まれ命拾いしたこともあったの。
成長するにつれ、お姉様の不幸はどんどんと大きくなっていきました。最近ではどう巡り巡ったのかお姉様に死の呪いが付けられたネックレスが贈られていたときは、生きた心地がしませんでした。なんとかそれが欲しいと強請って譲って貰ったときは安堵しました。そのネックレスは呪物好きのとあるマニアに売り払いました。この呪物マニアには何度も高品質な呪物を売り払ったことで私の評価はうなぎ登りのようで裏の世界では身分を隠していたはずがあのご令嬢には手を出すなというお触れが出ているらしい。ですがそんなことはどうでもいいのです。 お姉様の幸せが第一ですから。
どうして、私がお姉様の不幸な体質を知ることが出来たのか、それは誰もが綺麗だと褒め称える瞳のおかげでした。透き通るようなアイスブルーに夜空の星が散りばめられたようにきらきらと輝く瞳に人々は女神だ天使だなどと騒ぐほど。しかし見た目だけでは無かったみたいです。物心つく前から不浄なものや悪意など不なるものが黒い靄となり視ることが出来ました。他の人に聞いても視えないらしく、これは私だけに視えるようでした。
そんな黒い靄が姉のメアリーに吸い寄せられるように集まってくるの。黒い靄がある場所で躓いて転んで怪我をした後は、黒い靄は消滅してしまいました。食事の中に黒い靄がある食材を食べた後、お姉様は体を壊してしまう。だんだんとこれは良くないモノだと分かってきました。どうにかしてお姉様をこの黒い靄から守らなければ、大好きなお姉様が不幸で死んでしまうと子供ながらに思いました。だから私はお姉様の身の回りにある黒い靄を纏ったドレスやアクセサリーを欲しいと強請ったし、食事も黒い靄がある食材があれば、お姉様の方が美味しそうだから換えて欲しいと強請ったりしました。その時は、換えて貰ったのに残すことは申し訳ないと思い完食しましたが少しお腹を下した程度だったので体が丈夫で良かったです。しかも何度も繰り返しているうちに毒の耐性がつき即死する毒を盛られても1時間程眠れば解毒してしまう体になってしまいました。
ある日、お姉様に仲の良いお友達が出来たようでお姉様から何度も良いお友達が出来たのと嬉しそうに報告してくれました。そのご令嬢を我が家に招いてお茶会を開くと言うことだったので、事前にお姉様にお茶会の最中にご挨拶をさせて欲しいとお伺いを立てました。それにお姉様は快く快諾して頂きました。本当にただの挨拶を行いすぐにお暇しようと思っていました。お茶会当日、挨拶に出向いた先になんと辛うじて顔が見えるぐらいの黒い靄で真っ黒な人がお姉様の隣で楽しそうにお茶を飲んでいたのです。
今までお姉様に近づく真っ黒な人間は過去一度ありました。お姉様が誘拐されそうになった時でした。その時人間の姿は視えず大きな黒い靄がお姉様に覆い被さろうとしているのに気が付き、私は無我夢中で「お姉様が危ない」と叫んでいました。その声を聞きつけた護衛がお姉様を助けたときに黒い靄が晴れ人間の姿を確認できたのです。それ以外では程度の差はあれど体の一部分に黒い靄を纏っている程度だったので、お姉様がその人物に近づくより先に私が近づきさりげなく黒い靄を雲散していました。私も成長しある程度の黒い靄は埃を払うような仕草で消え去ってしまうので、最近のお姉様には不幸が訪れることは少なくなってきました。
そんな中、お姉様はデビュタントを迎えられました。今年成人(13歳)になる貴族令息令嬢が集まるパーティーに参加することになりました。私はまだ成人を迎えていないので同行は出来ず、家で留守番をしなくてはならなかったのです。私はお姉様が心配でパーティーに付いて行きたくてお父様にお願いしましたが、さすがに承諾は得られませんでした。
そこで、私は幸福を呼び込むと言われているチャームを作ることにしました。この国で幸運の花と言われるグリュークと言われる白く4枚の花びらを付けたかわいらしい花をモチーフにした飾りボタンを作り、こっそりとパーティーに着ていくドレスに縫い付けました。効果があるか分かりませんが、お姉様の幸運を祈りながら作ったので気休めでも効果があればといいなと願いました。
パーティーが終わった日の夜にお姉様の様子を確認しました。怪我もなくご無事のようだし、パーティーは楽しかったようでお花が咲き誇るようにニコニコとしていました。お姉様に不幸が訪れていなかったことにどれほど安堵したか。そしてこっそり私の作ったチャームを確認して効果があったの一目見て分かりました。4枚の白い花びらだったはずが黒く変色し、そのうち3枚はドロドロに溶け出していたのです。人知れず不幸がお姉様に降りかかっていたのか容易に想像できました。しかし、このチャームはお姉様の不幸を代わりに吸い取ってくれるということが知れたのでこれ以降私は大量のチャームをお姉様の為につくり、こっそりとお姉様の身のまわりに忍ばせるようになりました。作る端から黒くなってしまうので、何個も何個も作っていく内により効果が高まっていきました。そのうち私は聖女と言われるほどの癒し手の使いとなりました。そんなことよりお姉様の幸せの方が大事だったので、誰に云うでもなく私が聖女並みの癒し手になったことは誰も知りません。
パーティーで仲良くなったというご令嬢が同じ子爵家のマリアンヌご令嬢でした。私は真っ黒なマリアンヌ様を警戒しました。黒い靄を纏った人間は、お姉様に悪意を持っているのか、偶発的は不幸を発露させるものなのか判断出来ないからです。だから挨拶をしてすぐに引っ込む予定からマリアンヌ様のことを根掘り葉掘り聞くことに予定変更をしました。もちろん、表向きはお姉様と仲良くなったマリアンヌ様と私も仲良くなりたいということを前面にだして、その裏ではマリアンヌ様がお姉様を裏切る人物なのかどうかを見極めるためでした。
結局、怪しくはありましたがお茶会中に見極めることが出来ませんでしたので、裏の世界でも情報通の呪物マニアに最近お姉様が買ったイヤリングを駄々を捏ねて強請った物。実際は、着けると耳が聞こえなくなるイヤリングを呪物マニアに報酬として調査依頼をしました。その結果、マリアンヌ様は真っ黒だったのです。
マリアンヌ様の子爵家領地ランツィは肥沃な土地で農業がさかんな場所ですが今年は不作で税収減のため今年は赤字の見込みだそう。しかし、マリアンヌ様のご両親、コストナー子爵夫婦は浪費家で大のギャンブル好き。領地のお金に手を出しており家計は火の車らしい。このことが国にバレれば領地没収の上、爵位剥奪になるだろうと。それを恐れたコストナー子爵は自分の子供達に命じた。他の貴族の令息・令嬢と仲良くなり同情を買い支援金を貰えるよう媚びへつらうこと、屋敷に招かれた際は、金目の物をこっそり持ち出すこともするように厳命していたのでした。
そういえば、マリアンヌ様は今年は不作で~民が~などなど涙ながらに話していました。優しいお姉様は目を真っ赤にしながら頷きお父様に相談してみます。と聖母のような微笑みをしていました。それを聞いたマリアンヌ様はぱぁっと笑顔になりありがとうと言いつつ、さっきの涙はどこに行った?と聞きたくなるほど目の前のお菓子をボリボリと口に詰め込んでいました。もちろん残ったお菓子は全て持って帰えられました。その日の夜メイド達があれが無いこれが無いと騒いでいたことに合点がいきました。しかしその内の一つは、前日お姉様が拾ったという石でした。土で汚れていたため拭いてみるとサファイヤ色の綺麗な石になったそうです。その石を光の下でみると妹の目にそっくりだから飾るのと嬉しそうに報告してきました。私には黒い石にしか見えなかったので、こっそり捨てようと思っていた石も無くなったらしいのです。その後たまたま呪物マニアからその石の正体を聞かされました。曰く、その石を持っていると食欲が抑えきれなくなる呪いがついていたらしい。ふーん
マリアンヌ様の事情を知り、お姉様に近づけさせてはいけないと覚悟を決めました。私は様々な伝手(主に呪物マニア)を使い、コストナー子爵の領地改革を裏から手引きすることにしました。それと同時にお姉様とマリアンヌ様を二人きりにさせずマリアンヌ様の標的を私に替えるように差し向けました。これは簡単でした。お姉様より妹の私の方がお父様達の関心度が高く何でもお願いを聞いてくれる事をアピールすればどちらを優先するべきかマリアンヌ様は気づいたらしい。会えばシンシア、シンシアと猫なで声で喋りかけてくるようになりました。それにしても、マリアンヌ様少し太った?
難しかったのは領地改革でした。コストナー子爵夫妻は心の改心など期待できないので、代わりの者を縁者で探しましたがどれもこれも性格難な者達ばかりでした。ようやっと見つけた遠縁の青年は農民出の穏やかな性格で、領地ランツィの現状に嘆いているようでした。少し領主としては物足りませんが、この青年に頑張って貰うことに決めました。あれやこれやと領地革命に手を出してから半年後。遠縁の青年ミケーレという人物が国に文句のつけようがない裏がとれた完璧な資料を手に領地ランツィの現状とコストナー子爵の汚職などなどを告発しました。国はこれを受けコストナー子爵を捕縛、一部この汚職に手を貸していた親戚一同も捕縛されました。告発した青年ミケーレを次代の領主と認められましたが、一部王家へ領地を返納し爵位は降爵による男爵となりました。そして、ある嘆願により異例だが改心したマリアンヌ令嬢は監視の目はあるもののミケーレの妻となることが許されることとなりました。貴族学校を卒業後に婚姻することが決定されたのです。
ある嘆願は名前は伏せていますが私が提案しました。お姉様の初めてのお友達だったし、黒い靄もなくなったマリアンヌ様をお姉様のお友達としてまた仲良くなっても大丈夫だと思ったからです。マリアンヌ様が貴族の地位を残して置きたかったのです。しかし、当のマリアンヌ様はいつしか私を崇拝し熱狂者となってしまいました。もうお姉様のお友達に戻ることは叶わなくなってしまったのです。お姉様は私にべったりなマリアンヌ様を見て悲しげな表情を浮かべられました。私はそんなお姉様のお顔を見たくなくてマリアンヌ様を出禁にしました。その代わりに、黒い靄の無いご令嬢を何人か見繕いお姉様のお友達にとさりげなく捧げていき、次第にお姉様の笑顔が増えていったので私は満足しました。このお姉様のお友達騒動で私は領地経営を学び、裏で手駒を動かす貴族のやり方を学び、私は成人前に高位貴族と肩を並べることが出来るほどの手腕を身につけましたが、お姉様の初めてのお友達を奪ってしまったことに私は至らなさに悔し涙を流しました。
そんなこんなで、お姉様は王都の貴族学校に通うことになりました。貴族学校の在籍は5年間。王都は遠いのでお姉様は長期休暇以外は、寮で暮らすことになります。私は2年遅れで入学することになりますが、私はすごくすご-く心配になりました。お父様にお姉様と一緒に飛び級で入学できないかお願いしましたが承諾されませんでした。なので私は限界突破した神器にも勝るとも劣らないネックレス型のチャームを今から王都へと向かうお姉様に肌身離さず持っていて欲しいと涙ながらに訴え渡しました。お姉様は目に涙を溜めてありがとうのお礼と共に女神のような微笑みを向けて下さいました。はぁ尊い。
それからの日々は、お姉様が長期休暇で帰って来る日を今か今かと待ち続けましたの。帰って来たときは、体に傷は無いか精神的に病んでいないかを確認しましたわ。端からみると姉にべったりな妹の図になっていたでしょうね。そして肌身離さず身につけていただろう私の送ったネックレスは黒く変色してしまっていましたの。お姉様は毎日磨いているのだけど、どうしても汚れが落ちなくて。と申し訳なさそうな顔をしていますが、これは私の力の至らなさだと逆に申し訳無くなってしまいましたわ。お姉様には、磨くのにコツがいるのですわ。と言って預かって新しい物に交換してお姉様にお返ししました。汚染されたチャームは呪物マニアへと高額で売りつけましたわ。鑑定した結果、悪魔召喚の媒体に可能となる呪物となっているようですの。お姉様との合作だと思えばなんだかこの呪物も愛着が持てる気がして慈愛の籠もった目で見つめてしまいますわ。呪物マニアは残念な目を向けて来ましたが何かございまして。
ようやく私も貴族学校へと入学することができる年になりましたわ。この2年の間に私はお茶会などを駆使して同級生の令息令嬢と交流を持つことに心血を注ぎましたの。全てはお姉様の学校生活の情報を得る為ですわ。私のように家族や親戚に貴族学校に通っている人はたくさんいらっしゃるのですから。そこで、陰から聞くお姉様の様子と同級生から聞くお姉様の生活の様子を訊き私をとても満ち足りた気持ちにさせて貰いましたの。その一方で、私の同級生の中にシンシア教という宗教が広がり始めたらしいのだけれど、メアリー教に名前を変えるように言うべきかしら。
それから私の学校生活が始まりましたわ。貴族学校というのは貴族の縮図を体現していると言っても良いのかも知れない。貴族の妬み恨み嫉妬など負の感情が多いこと、黒い靄があちこちに漂っているわ。その中で私は見てしまいました。この世に降臨する女神様を。ああなんて神々しいのでしょう。やはり私のお姉様は天から舞い降りし女神様だったのですね。
そうお姉様の周りは真っ黒の靄で覆われているのにお姉様の所だけぽっかりと黒い靄は無くなりきらきらと輝いている。胸元に光る私が贈ったネックレスが黒い靄を吸い取っているように視えるがそんなことはどうだっていい。お姉様は女神様なのですわ!
お姉様が卒業するまでの時間、私は奔走しましたわ。お姉様が心安らげるように心穏やかに過ごせるようにするために私は悪意を持つ人間、元から屑な人間をお姉様の近くに近寄らせないためにお話し合いをさせて頂きましたわ。稀に行方不明になる在学生もいらっしゃるようですが、女神様の慈悲による人生の再教育が人知れず行われているらしいですわ。メアリー神万歳!
むしろ悪意の無い不幸がお姉様に訪れることの方が神経を尖らせられましたわ。私はお姉様に新たにブレスレット型のチャームを贈ることにしましたの。これは不幸を強制的に幸運にする効果がありますの。ただし効果は一度だけ。なので命に関わる不幸だけを肩代わりするようにしましたの。それ以外は私が受け止めますわ。軽傷・重傷になるような不幸は私に転換するようにしましたの。私なら即死以外なら完治できる聖女の力が作用することが分かりましたの。どんと来いですわ。それでも、即死級の不幸が年に一度あるようでブレスレットは禍々しい色に変わりましたわ。その都度、新しいブレスレットに替えさせて頂きましたわ。禍々しいブレスレットはいつもの呪物マニアに買い取らせましたが、この金額の桁が予想を越えていましたわ。小国が一つ買える程の桁数でしたの。この大金を一括で支払える財力を持つ呪物マニアに私は正体に行き着きましたが、女神様の前では呪物マニアも私もただの人に過ぎないのだからたいした問題ではありませんわ。呪物マニアが云うにはこのブレスレットには不死の呪いが掛けられていると、これ以上は持ってきて欲しくないと言われましたが、無理ですわ。毎年即死級の不幸がお姉様に降りかかり生還しているのですもの。お姉様は不死を越えた超越者なのですわ。メアリー神を崇めなさい!
そして、お姉様と私の貴族学校卒業の日になりました。ええ、お姉様がいない学校生活なんてありえませんわ。幸いにして私は飛び級が出来ましたの。最後の1年間はお姉様と同級生となって過ごしましたの。幸せな日々でしたわ。そういえば今年の卒業式は壮大な卒業式になるらしいですわ。なんでも在校生の3分の1が卒業することになったようで、過去一番の卒業生の数らしいですの。私のように飛び級した方も多くいらっしゃるようですわ。優秀な方がたくさんいらっしゃるようでこの国は安定ですわね。何故かしら呪物マニアの嬉しい悲鳴が聞こえてくるようですわ。これもメアリー神の思し召しなのですわ。
そうそう在学中に学生界隈で新興宗教が設立し、校内に教会が出来ましたの。私も一枚噛ませて頂きましたわ。国を動かせるほどの大金を得ましたので、白金貨で殴らせて頂きますわ。教会の設計から内装に至るまで私の指導の下、建設しましたわ。そして重要なメアリー神像は私の手で創らせて頂きましたわ。私を筆頭とした熱心な信仰者のおかげであんなに黒い靄が漂っていた校舎は綺麗さっぱり無くなってしまいましたわ。清浄な空気に満ち溢れていますわ。もちろん女神様本人が降臨しているのだから当たり前ですわね。さあ皆様、メアリー神に五体投地ですわ!
お姉様と二人で我が家に戻って来て幾日か経った後、お父様からお姉様の婚約者が決まったと嬉しそうに報告してきましたの。お姉様は我が子爵家の後継者なので、婿殿を迎えることになりますわ。もちろんお姉様を幸せにしてくれる方なら大歓迎ですわ。全力でサポートさせて頂きますわ!
お相手は社交界の華と謳われるアズナヴール侯爵家次男でアンドレ様なんですって。そのお名前を聞いてお姉様のお顔に朱が差しました。明日、挨拶にお見えになるそうです。アンドレ様はお姉様より3つ年上で私は面識がありませんのでどんな御方なのか分かりません。でもお噂はかねがね耳に届いているので噂通りならば、明日一目で分かりますね。
次の日、私達は家族総出でアンドレ様を出迎えるために玄関で待っていました。来てます来てます。我が屋敷に向かって来る黒い塊が。ややあってお父様が“おお、お見えになった”と言った時、我が屋敷は黒い靄に覆われてしまいました。私の視界はゼロです。お姉様が居る方を見る。そこには私の道しるべとなる光がぼんやりと浮かび上がっており、お姉様のご尊顔が現れたのです。神は私をお捨てにならなかったわ!
視界ゼロの世界だったので、アンドレ様への挨拶もそこそこに体調が優れないと言うことで早々に席を外させて貰い。専属侍女に誘導されるがまま自室に戻りベッドに横になる。アンドレ様の顔?分かる筈が無い。どこにいるかも分からない人と挨拶をするのってとても大変なのね。視線が彷徨ってしまって、失礼に当たらなかったかしら。それにしても、この黒い靄邪魔ね。アンドレ様早く帰ってくれないかしら。
ようやく視界が開けたので、私は早速行動しました。お姉様とアンドレ様が結婚なんて許しませんわ。絶対に。
そして運命の日ですわ。私はこの日の為に這いずり回ったのですわ。いえ嘘です。各方面への書面のやり取りとお父様への直談判(駄々捏ね)を行っただけですわ。それ以外は社交パーティーに参加したり、お茶会に出席したりしていましたの。
それとお姉様には申し訳ありませんが、アンドレ様にも色仕掛けをさせて頂きましたわ。お顔が見えないので大変困りましたが、噂は本当でしたのね。女好きのおかげでコロッと騙されましたわ。上級貴族のためこの婚姻事態を無かったことに出来ませんでした。呪物マニアが内々に処理できるし、なんなら私の息子と…とかなんとかおっしゃっていましたが丁重に無視致しましたわ。なので、お姉様の代わりに私が子爵家の後継者となること、アンドレ様の婚約者にとって替わることとなりましたの。それを今からお姉様に告げることとなりますわ。これでお姉様は私の事をお嫌いになるでしょうね。
「メアリー嬢!私は本物の愛を見つけた。それは私の隣にいる世界で一番美しいシンシア嬢だ。君との婚約を辞め、代わりにシンシア嬢と婚約することに決めた!」
とアンドレ様は声を大にしてお姉様に宣言しました。そして、私の腰に腕を回すアンドレ様。あら、鳥肌が立ってしまったわ。
お姉様は驚愕して目を大きく見開いていますわ。いけない目が落ちてしまいそうですわ。目をお閉じになってお姉様。
「お姉様ごめんなさいっ。もう既にお父様にもアズナヴール侯爵様にも合意を頂いていますわ。そして、私は我が子爵家の後継として、お姉様はサンドラス男爵家のクロイツ様へ嫁ぐことが正式に決まりましたわ。お姉様とクロイツ様はとってもお似合いの二人よ。お姉様、幸せになってね。」
そのあと放心状態となったお姉様は、お部屋へと戻りました。私は、その後ろ姿を目に焼き付けましたわ。
隣で愛を囁いている黒い靄はさっさと侯爵家の馬車に乗せて帰って頂きましたわ。
アンドレ様、この私と結婚するのですからお覚悟下さいね。その性根打ちのめして差し上げますわ。私こう見えて、学生の頃に何人もの迷える子羊を正しくメアリー教の(狂)信者として改心させてきた実績がありますの。ふふふ、ご安心下さいね。
それから1週間後バタバタとお姉様はクロイツ様の元へ嫁ぎに行ってしまわれました。私の顔なんて見たくないでしょうから、物陰からお姉様の旅立ちを涙ながらに見送りましたわ。今まで呪物マニアに売ってきた代金は結婚資金にお使い下さいませ。追加で用意した荷馬車を引くお馬様は既に疲れているようですが、まだまだ道のりは長いですわよ。
サンドラス男爵家のクロイツ様は悪い噂が流れていますが、噂とは所詮他人が勝手に口にした言葉が人伝に流れていっている話ですわ。真実なんて一つも含まれていませんわ。実際にクロイツ様は素敵な御方ですわ。努力家で地頭もありますし、きちんと礼節をわきまえている。今は爵位が実力に追いついていないので目立たない御方ですが、王家には目を付けられている程の隠れた逸材ですわ。
そして何より、ここ重要ですわ、黒い靄がクロイツ様から逃げて行くのですわ!!なんという幸運。なんという神の采配なのでしょう。彼が、クロイツ様こそがお姉様を幸せにできる御方なのですわ。
私は子供の頃からお姉様のドレスやアクセサリー、友人そして婚約者も何でも欲しがってきましたが、お姉様が幸せになることを何よりも一番に欲しがりますわ!
最後までお読み頂きありがとうございました。