〜心休まる一時を〜
俺達2人は、2つも同時に事件を解決したとのことで一週間ほどの休みを貰った。さらに俺の退院祝いも兼ねてクラウン様が旅館を手配してくれたとのことだ。
「旅館楽しみだね〜!しかも超豪華だって!やったじゃん!」
いつにも増して瑠斗がうるさい。
つい昨日退院したばっかなんだから少しは休ませてくれ…。まあここの温泉は病み上がりや疲れた身体に効くらしいからな。サウナもあるって話だし、楽しみではある。
「へぇ〜中も綺麗だね〜!浴衣とか着れるのかな?」
事前に聞いていた通り豪華な内装をしている。
「はい、ございますよ。あぁ、貴方がクラウン様の仰っていた探偵様ですか。お部屋は取れておりますので、鍵をお渡しします。」
「ここが部屋か!随分豪華だね!この和風の感じも最高〜!」
まったく、落ち着きがないなコイツは。
本当に、推理の時とは別人のようだ。
「ねぇねぇ、さっそくだけど温泉入ろうよ!」
「そうだな、準備するからちょっと待ってくれ。」
「広〜い!すごい!僕温泉来るの初めて!」
「じゃあいっぱい満喫しろよ。俺はサウナ行ってくるから」
「そっか!じゃあ僕は普通に温泉楽しんどく〜」
…?アイツなら『水斗が行くなら〜』とか言って付いてきそうなのに…。ついてこないのか?
どうしてこうなった。
俺が一通り楽しんで脱衣所に来ると瑠斗がベンチに横たわっていた。
「あぁ…水斗ぉ…出てきたんだね…。ハメ外しすぎちゃったぁ…。」
何やってるんだコイツは。
「そんなことどうでもいいから早く服を着ろ。」
デコピンしてやった
「えぇ〜!?ひどいっ!僕今は病人だよ!?病人に暴力!?水斗いけないんだ〜っ!」
「病人なら病人らしく大人しくしてろ。ほら、水。飲めよ。」
「ありがとう…。」
本当に変な所で子供な奴だ。
「さっきはありがとう!助かったよ!」
「あ〜そうだな。すごく無様で面白かった。」
「ひどい!」
そんな他愛のない会話をしながら歩いていた。
「ねぇねぇ、卓球しようよ!旅館といえば卓球だし、卓球といえば旅館!丁度浴衣も着てるしさ!」
別にそんなことはないと思うが…まあ久しぶりにやりたい気もする。
「俺は強いぞ。」
「この僕が水斗に負けるわけないでしょ?」
「はっ、どうだか。」
絶対負かせて吠え面かかせてやる。
「って、えー!?卓球やるには予約しなきゃいけないの!?じゃあ、明日!明日は?」
「明日は…はい、まだ空いておりますので、平気ですよ」
「じゃあ明日やる!」
クッソ、やる気満々だったのに、予約でいっぱいとは。
「じゃあ部屋に戻るか。」
瑠斗は項垂れながらも頷いた。
「わぁ〜美味しそう!」
流石は豪華な旅館だ。夕飯もとても美味そうな和食だ。予想通りとても美味しく秒で完食した後、眠気が襲ってきた。
「ふわぁ〜…。眠くなってきた…。」
「たしかに眠いな…。もう布団広げて寝るか…。って寝てる…。」
まあ、たくさんはしゃいで疲れたんだろう。しょうがないから、掛け布団ぐらいはかけてやるか。
「おやすみ」
誰かの悶え苦しむような声で夜2時だってのに目が覚めた。目を開けると隣で寝ていたはずの瑠斗が居なかった。
「瑠斗…?」
音のする方へ向かうと、トイレにもたれかかってる瑠斗がいた。
「お、おい。どうしたんだ瑠斗」
「あ、あは…。見られちゃったか…。おえっ…。」
そうしてまた吐き始める
「どうしたんだよ…。」
「僕…さ。週に一回…多い時はもっとだけど…。それぐらいのペースで夢を見るんだ。」
「…夢?」
「あぁ…。過去の夢。脳に焼き付いた…忘れたくても忘れられない、辛い記憶。」
そういって息も絶え絶えで語りだした。
「本当は話したくなかった。けど…こうなるともう誤魔化すこともできないから。…話すよ。僕のこと。僕が探偵になった理由。」
そういえば疑問に思ったことがあったがそういうもんなんだろうと無理やり抑え付けてきた疑問。
…なぜこんな子供が探偵をやっているのか。
「僕は…。昔は正義だとか、探偵だとか…そんなことに興味はなかった。けど…そんな僕を変える出来事が起きた。あれは…僕の12歳の誕生日の事だった。
誕生日だから、その日は家族みんなで旅館に来ていた。…でも、温泉には入れなかった。入る前に…事件が起きたから。火事だ。旅館側の過失で火事になり、たまたま外に涼みに来ていた僕と他数名が生き残った。でも…。僕の親は…。その時に死にかけの母に言われたんだ。
『瑠斗は優しい。人を救う才能がある。だから…その脳を、人の為に、世の為に使うんだよ。ママとの約束…守ってくれるね?』
僕は何度も願った。『死なないで』って。『僕から大切なものを奪わないで』って…。でも僕の小さな叫びは届かなかった。
その後、家族を失って身寄りのない僕をクラウン様がクラウンズに入れてくれた。それからは大体知っての通りだよ。…クラウン様は怖いけど…その分尊敬する人だ。本当は…今回の旅館だって不安だった…。また大切なものを失うんじゃないかって…。この前水斗が爆発に巻き込まれた時だって…また僕のせいで大切な人が死んじゃうんじゃないかって…。だから、思い出さないように必死で…。」
ただ旅館で浮かれているだけだと思っていた。でもそれはただの空元気だった。そう考えれば、来て早々に温泉に入ろうとしたのも納得が行く。
「なんで話したくなかったんだ?」
「えっ?」
「だから、なんで話したくなかったんだ?」
「…怖かったんだ。こんな暗いこと話したら、この関係が変わっちゃうんじゃないかって。」
「はっ、バカ言え。変わんねぇよ。どんな過去があろうが知ったこっちゃない。お前はまだガキなんだからガキはガキらしくしてな。それにまだ卓球もやってねぇしな」
「…水斗ぉ…!」
いつもは泣いてばっかで困るが…。まあ、今ぐらいは泣いたらいいんじゃないか。
「おい、ひっつくな」
「やだ!離さない…!絶対!」
全く…これだから嫌いなんだ。