〜東京都爆発事件・中編〜
「へぇ〜ここが用意してくれた家か〜入ろ入ろ〜」
相変わらずいちいち動きがやかましいな。
「うげ…香水?なにこの匂い〜…。」
この匂いは嗅いだことがあった。爆薬の匂いだ。
俺が警察だった時最後の事件で嗅いだ匂い。
入った瞬間だったので咄嗟に瑠斗を外に突き飛ばした。瑠斗が入ってこないように扉に鍵をかけた。
「えっ…?水、斗…?水斗っ!?」
扉の外から瑠斗の叫び声が聞こえる。
「瑠斗っ!!!この家からできるだけ離れろ‼」
扉ごしでどこまで声が聞こえるのかわからなかったが口が先に動いていた。
はっ…。俺はなんで嫌いな相手を助けたんだろうか。自分でも良くわからなかった。
その直後、ものすごい爆風が吹き荒れた。
クソ…絶対死んでやらねぇからな。コイツの為に死ぬなんて御免だ…。
水斗が爆発に巻き込まれた。僕を助ける為に。
なんで、なんで…。僕の為に。僕は水斗に嫌われてると思ってたのに。どうして…。
「馬鹿っ…水斗のばかああぁあぁあ!!!!」
どうして、どうしてこの家に爆弾が仕掛けられていたんだ。そして匂いがしたってことはあれは爆薬?多分扉を開けると発動する仕組みになっていたに違いない。でも昨日ビルに仕掛けられていたのは時限爆弾。同一犯じゃないってことか?爆発だから繋がっているように見せかけて違う…?いやまて。まずそもそもなんで犯人はこの家の存在を知っていたんだ。クラウン様はあり得ない。やるメリットがない。ただ…。昨日のクラウン様が偽物だったとしたら?例えば、変装した誰か、とか。だとしたらここに導くのは簡単だ。いや違う…。思考がまとまらない。こんな時に水斗がいてくれたら…。
「水斗を助けなきゃっ!!」
なんで僕は呑気に思考していたんだ。まず優先すべきは水斗の命なのにっ…!でも爆発で騒ぎが大きくなったからかサイレンの音が聞こえる。扉のほとんどはガラス製…。水斗が離れろって言ったのはそういうことか…。中に入れる。
玄関に所々から血が出ている水斗が倒れてた。
「水斗、水斗っ…!しっかりして…!」
意識は戻らない…か。
「死ぬなんて許さないから…!!」
その後数分で救急車が到着し、病院に搬送された。僕はずっと水斗の隣で咽び泣いていた。
ただひたすらに泣いてた。時間も周りもなにもかも忘れて。すると、僕の頭に人の手が置かれた。
「ったく、お前の泣き癖はどうにかなんねぇもんかな…。」
「水斗っ!水斗ぉっ!!僕、僕…水斗が死んじゃったらどうしようって…。」
「お前の為に死ぬなんて御免だ。もしそうなったら化けて出てやるとこだったぞ。」
人に対してこんな感情を抱いたのは2度目だ。
『死なないで』、と。
「あの…な。」
水斗が決心したような顔で僕に話しかけてきた。
「俺がここに来る前…。まだ警察だった時。最後に担当した事件だった。その事件で俺は尊敬する先輩を亡くした。あれは雪の降る冬の事だった。」
いつも先輩の足引っ張ってばっかだからな…。
今回こそは先輩の足を引っ張らないようにしねぇと…。
「先輩!次の事件現場はどこですか?」
「そうだな、次は…。爆破予告が来ている場所だ。」
先輩はたばこを咥えながら答えた
「わかりました!」
そこには探偵が居た。予告を見抜いたっていう探偵さんだ。
「ほら、警察だったら俺の指示通り動けノロマ共」
そこに居たのは超野蛮な探偵。
警察の間でもすごく嫌われてる探偵だ。先輩はソイツにこき使われていた。先輩は僕に外に居るように指示した。
事件はその時起こった。探偵が解いたと思われていた謎が解ききれておらず、爆発を阻止できなかった。その中にいた系100名にものぼる警官達が死亡。無事だったのは外に居るよう言われた俺とその探偵だけだった。見つかった死体はどれも顔が判別できないほどぐちゃぐちゃになった死体だけだった。
「この事件を期に俺はここに派遣されてきた。あの事件以来探偵は嫌いだ。謎を解くだけ解いて他の犠牲になんか目もくれずのうのうと生きてる探偵が。そして…。このライターはあの先輩がくれたものなんだ。先輩はたばこをよく吸ってたよ。あの日も…。」
水斗は明かしてくれた。過去を。
僕にもいつか打ち明けなきゃいけない時がくるのだろう。その時までは…。何も聞かないでいてくれる水斗に甘えていたい。子供らしく。そのまま何も聞かないでいてくれたらいいのに…。
「そっか…そんなことが…。あの、さ。なんで僕を助けたの?」
そんなに探偵嫌いの水斗が僕を助ける理由がわからなかった。
「さあな。俺でもわかんねぇよ。ただ一つ言えんのは、俺が誰かを助けることであの時の罪を精算できると思ったんだ。ただそれだけ。それにお前を助けることは結果的にいろんな人を助けることに繋がる。だって、お前がこの謎を解いてくれるんだろ?」
「罪…か。その時の水斗になんら非はなかったと思うけどね…。まあいい、この謎は僕が解く。他の誰にも解かせはしない。」
水斗の怪我は全治一週間。水斗が復活するまで待つ時間はない。そしてさっきクラウン様から第二のヒントが届いたとの連絡があった。絶対に犯人を捕まえてやる。
僕はそんな強い意志の元、クラウン様の元へ向かった。
「これが…。本当にヒントの紙ですか?」
そのヒントの紙には…。なにも書かれていなかった。
「あぁ。本当にヒントの紙だ。自分でも半信半疑だが。」
一つめのヒントが燃やすことだったのをふまえると今回にも同じトリックが使われる可能性は低い。
白紙…なぜ白紙なんだ…。白色になにかが…?
白色の建物…?いや…。
「そう…か。もう爆発は起こらない。つまり…。
計画が白紙になった、ということだろう。
まあ、その計画が爆発のことであるという前提の元ではあるが。だが…。なぜいきなり…?」
訳が分からない。爆発が起こらないのかどうかも。
白紙…。真っ白になってるのは僕の頭の方だっ…。
考えろ、考えろ…!!
あ…。もしかしたら…?だが、動機が考えられない…。動機を考えるためにはまず証拠を…。いやでも…。なにがなんだかわからない。
なんのための僕の頭脳なんだっ…。この頭脳を人の為に、世の為に使えなければ僕に生きてる価値はない。約束したじゃないか…!
僕はここ最近いつも水斗のちょっとした一言に救われる。今までは独りで戦ってきた。アインスという立場、それを憎く思う奴ら、利用しようとする奴ら。でも今は独りじゃない。水斗がいる。僕の孤独を癒やしてくれる水斗が。僕を子供でいさせてくれる水斗が。水斗には『お前の泣き癖はどうにかならないもんか』と言われたけど…。実は泣けるようになったのはここ最近の話。世界一の名探偵が聞いて呆れる。
そして僕は気が付くと水斗の病室に来ていた。
「…瑠斗か。どうした。行き詰まったか?」
「うん。最近の僕は水斗に頼りっきりだ。」
「はっ、相変わらずガキだな。まあ、今の俺にできんのはお前の推理を聞いてやることぐらいだが。」
「それだけで僕がどれだけ助けられてるかっ…!」
すると、水斗は少し驚いた表情をした。
「…なんだ、思春期か。」
なかなか尖った言い方だけど、僕には本心が伝わる。その言葉の奥に隠れた水斗の優しさが僕の心を温めていく。
「実は。第二のヒントの紙には…何も書いてなかったんだ。文字通り白紙。だから、計画が白紙になったって事かとも思ったんだけど…。それだったらそもそもヒントの紙は送ってこない筈。すると白に意味があるのかと思った。前に僕らを追いかけてきたのは上原大地だったけど…。もし犯人がクラウンズの中にいるとしたら…。白で思いつくのは…考えたくないけど、高峰冬馬しか考えられない…。でもそうすると今度は動機がない…。それに、冬馬は僕の唯一と言っても良い程数少ない友達の一人だから…一応容疑者のうちには入れておくけど考えたくない…。どうすればいいんだ…。でも昨日の上原大地の言動を考えると上原大地がシンプルで一番濃い線だと思う…。でもそうするとあの家が爆発された件の説明がつかない。ピンポイントであの家を爆発させる為にはあの家に僕らが行くのを知っていなきゃいけない…。待てよ。僕達が行くってのを知らなかったとしたら?ただ、クラウン様を狙うつもりで…。いや、だとしても幹部ですら知らない私的な家なのになんで知ってるんだって話になる。もうなにがなんだか…!!」
「ん〜…。ピンポイントなぁ…。あぁ、でも多分犯人は違うんじゃないか?」
「え…どういうこと?」
「だって最初の事件とかは火事に発展してたが今回は爆発こそしたが炎はあがらなかった。多分あの…さっき言った事件の時の爆薬と同じだ。匂いが同じだったしあの時も炎はあがらなかった。もし同一犯だったら何か燃やしたくないものでもあったんじゃないか?」
「ありがとう…!その情報だけで十分視野が広がった!」
これで多分解決に導ける。首洗って待っとけ…!