〜東京都爆発事件・前編〜
あれからさらに一週間程が経ち、不覚にもアイツの助手の仕事に慣れ始めている自分がいた。
時には書類仕事をさせられたり、事件の後処理をさせられたり料理作らされたり、いろいろ不満はあるがその分給料が高く前の生活より快適というのはある。本当に、同居さえなければ完璧なのに…。
そんな愚痴を心の中で零しつつ、部屋の掃除をしていた。
すると、瑠斗のスマホが鳴った。
「クラウン様…?なんで直接…?」
さっきまでうたた寝していた瑠斗が寝ぼけ眼で通話の応答ボタンを押す。
『瑠斗、瑠斗。起きてるか。』
『起きてます…。直接連絡なんて、一体なんの用ですか?』
『今、テレビをつけれるか。今だったらどこのニュース局でも同じことが報道されてるからどこでもいい。』
『ニュース局ぅ…?』
俺はそっとテレビを点けてやった。するとそこに映し出されたのは、巨大な東京のビルが燃えている様子。
『これ…どういうことですか?』
『見ての通り、ビルが爆破された。そして、犯人から声明文が届いたらしい。
"クラウンズの探偵共に知らせがある。東京の至る所にこれと同じ威力の爆弾を仕掛けた。止めてみたけりゃ俺の用意した謎を解いてみろ。第一のヒントはお前らの本拠地だ"
という内容だ。そこでお前に頼みがある。この事件をお前に託す。他の探偵と手を取り合ってもいい、自分らだけで解決しても構わない。東京の警察は皆お前の指揮で動けるようになってる。自由に解決してくれ。ヒントと思われる手紙がうちに届いている、この後すぐ確認しに来てくれ。では。』
「一瞬で目が覚めた…。僕の頭で解けない謎はない。他の奴に頼るなんて愚行だ。行くぞ、水斗。…水斗?どうしたの?」
「え?あ、あぁ。ちょっと考え事をしてた。すまん」
爆発…か。
「これが声明文とそのヒント…か。随分と馬鹿にしてくれるな。」
俺は瑠斗のこんな苛立ちが混ざった声を初めて聞いた。
「ここから…だめだ、これじゃあ…。」
「おい瑠斗。俺はただのかかしじゃねぇぞ」
そう声をかけると、瑠斗は目を瞬かせた。
「あは、水斗らしい励ましだ。」
「んなっ…いいからちゃんと探偵の責務を全うしろ」
「そうだな…。いいか、紙の謎はこうだ。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ ┃
┃ ┃
┃ 太陽でもあり ┃
┃ 砂でもあり ┃
┃ 鳥でもある ┃
┃ 何かわかるか? ┃
┃ ┃
┃ うっかり焼かれ ┃
┃ ちまわないようにな? ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃ a.m ┃
┃ ┃
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「これの答えは時計…。そして東京で表面に時計があるビルは一つだけ…。そして時計…ローマ字表記だと"tokei"。英語にすると"clock"これらの文字数をあわせると10。そして最後にa.mと書かれているから午前10時。そして今は9時55分…。もう何をどう頑張っても間に合いようがない…!
仮に間に合ったとしても辿り着いて終わりだ」
悔しくて思わず拳を握りしめた。なにかないのか。なにか…。このままなにもできないなんて…。
「そんな…お前でもどうしようもないのか…?」
「…!そう、だ…。時は止められない。だとすると…。水斗、ライター持ってるよな、貸して」
コイツなんで俺がライター持ってるの知ってるんだ。コイツの前で出したことないと思うんだが。
「ん?あ、あぁ。別に良いが。」
すると、ヒントの紙をライターで炙り出した
「お、おい、何して…」
「ビンゴ!この右下の文字は…。午後だ!だからまだ10時間は猶予がある!行くぞ!」
「お、おい、ついていけてないんだが!?」
「後で説明するから!今は時間が惜しい!」
そういって手を引かれるがままに走った。
その後瑠斗の言うとおりそのビルで爆弾が2個発見された。一つは不発の午前10時、本来ならとっくに爆発している筈の爆弾と、午後10時に爆発する本当の爆弾の二つ。警察の爆発物処理班は午後10時の方も回収し、もう爆発しないことが確認された。
「結局どういうことだったんだ?」
「あぁ…。あれは君のおかげだよ。君が『どうにもならない』という言葉を口にしてくれたから。時はどうにもならない、と気付くことができた。あの『うっかり焼かれちまわないようにな』は、紙を焼くっていうヒントだった。ただ、これだけでは終わらないだろうな。恐らく、僕が相手のトリックに気が付けずに爆発を許してしまうその時まで続く。」
「お前が爆発を許した時は俺は助手なんかやめてやる。」
「んなぁっ!?」
「俺がお前の助手を辞めるより、犯人を捕まえる方が先だ。」
「水斗ぉ…!僕としたことが…。」
この泣き癖はどうにかならないもんか。
「ひっつくな鬱陶しい。」
この泣いてる所だけを切り取るとちゃんと子供なんだな…とも感じる。そのせいで段々俺の語気が弱くなってきているような気がしなくもないが気にしない。
気にしたら負けな気がする。
「じゃあ次の爆破場所はわかるのか?」
我ながら尤もらしい会話の変え方だ。
「次?次はねぇ…。まだわかんないなー…。相手のヒントがなきゃ解けないってのが相手の手のひらで躍らされてるような気がして癪だけど…。
でも、なぁ〜んか嫌な予感がするんだよね、こう…。爆発とかの目立つ事件の裏でなにかがありそうで」
「そのなにかの目星は?」
「…全くないわけじゃない。最初…クラウン様から電話がかかってきて、その時になんか引っかかったんだ。あ、そう。普段僕に命令したりするあの人がお願いって言ったんだ。まるで僕を表の事件に出させたくないみたいな…。けど幹部達の話し合いでそういう結果になったんじゃないかな。それをクラウン様は渋々受け入れた…だとすると幹部が怪しい気がする…。この程度の謎解きならあえてアインスの僕を使う必要もない。なら幹部にはなにか気付いてほしくないことがあるのかもしれない…。幹部全体なのか誰か一人なのかはわからないけど…。」
「お見事です。気付いてしまわれましたか」
突如、後ろから声がした振り返ると…。俺をコイツの助手にするようにと言った向こうのお偉いさんだった。俺が助手になったのも最初からなにか仕組まれていたのか…?
「お前は…。なるほど。お前ならやりかねないな。」
普段、謎を解く時は君とか丁寧な言葉を使うあの瑠斗がお前呼びをする相手…か。
「第二幹部…上原大地。別名追跡の鬼 順位ツェーン…。コイツと戦うのは危険だ…。逃げよう。いいか」
順位10の奴が幹部なのにコイツはなんで幹部じゃねぇんだアインスだろ。大方、面倒くさいからで断ったんだろうが。
「どこまで走ればいいんだ!」
「アイツの追跡を振り切れるまで。…といってもアイツはその名の通りクラウンズきっての尾行好き、得意だ。そう簡単に振り切れるとは思えないけど…。」
尾行好きってなんだよ…!!
「お二人とも!乗ってください!」
そこにいたのは車に乗った藍那さんだった。
「ありがとう藍那!助かるよ。」
どうやら一難去ったらしい。
「どうやって藍那さんに連絡を?」
「あぁ、前に言ったかどうか忘れたけど…って、僕は忘れられないんだったね。あ、その前に盗聴器を壊しておこうか。ごめんね?敵に情報を渡す気はないから。こっちも。こっちも。これで全部かな。
よし、話をしよう。僕は全部で3つのピアスをしている。
全部機能付きだ。まずは前に言った超小型カメラがついたピアス。その次にボイスレコーダーがついているピアス。
これを使う機会はまずないと思うがまあ要はカメラが壊れた時の代用だ。最後にこの耳たぶの方。これはまあ通信機みたいなものかな?藍那の耳に同じピアスをついてるだろ。これで音声を送り合うことができる。今はオフにしてるから鳴んないけどね。あと通信機ってのと同時にGPSの役割も担っているからこうして助けに来てくれたってわけ。アイツに気づいた時点で電源を入れ、『いいな』の一言で迎えに来るよう伝えた、というわけだ。そうだ、今度博士に同じものをまた作ってもらおう。助手なんだから君にも必要だろ?」
頭の回転が速いからなのかなんなのか知らないがいちいち文が長い…!
「博士っていうのは誰だ?」
「あ〜博士はね、僕らのピアスを作ってくれたすごい人なんだよ!僕の無茶振りにもちゃんと答えてくれた。」
無茶を言っている自覚はあったんだな。一番たちが悪いやつじゃねぇか。
「なるほど。ありがとうございます藍那さん」
「いえいえ。私は瑠斗様に言われて来たまでですから。感謝は瑠斗様に。」
俺はそのなんでも言う事を聞く献身さに感謝しているんだ。
「ほらほら、感謝して?ほら早く!僕がいなかったら今頃どうなってた??」
「お前が居なかったらそもそもこんな厄介事には巻き込まれてないだろうが!」
「あはは!言えてる!」
そういえば幹部に狙われたわけだが、どこに行くんだろうか。
「なぁ。どこに向かってるんだ?」
「…?クラウンズの本拠地ですが。」
いや一番駄目だろ今このタイミングは!!
「いやいや、俺達クラウンズの幹部に狙われたんだぞ。本拠地は危険じゃないのか?」
「それは大丈夫。やっぱりクラウン様は気付いていたみたいだ。幹部の異変に。もしかしたら…。いや、なんでもない。僕はクラウン様にこの事件を解けと命じられたんだから、それに従うよ。裏の事件の方に首を突っ込まないとも言ってないけど。そう考えるとクラウン様が『自由に』を強調したのにも頷ける。…この事件は長引きそうな予感がする。ただのテロリストでおさめるにしては…。」
まーたコイツの独り言タイムが始まった。
天才は独り言の声が大きいと聞くが本当に大きいとはな。字も汚いんじゃないか?
…何もなくこの事件が閉幕に向かえばいいのだが。
なんで俺が幹部に襲われた件の報告をしなくちゃいけないんだ自分でやれ!俺に仕事押し付けやがって…。この人、どんな人なんだと思っていたがここまでとは思っていなかった。俺ですら182cmだというのに、俺が見上げるぐらい身長が高く、とにかく図体がでかい。威圧感が半端ない。
「なんだと。幹部に襲われた…?それは本当か。」
「はい。証拠映像もあります。狙ってきたのは…えーっと…。上原大地です」
「はぁ…アイツか…。」
やっぱりか、とでも言うような言い草だ。
「それは災難だったな…。他の奴にも気をつけた方がいいだろうな…。お前らは同居してるんだったな。それだったら、この事件の間、安心して過ごせる家を私が用意してやろう。」
「本当ですか。」
「あぁ。幹部達ですら知らない私の私的な家だ。」
本当にすごい人らしいな、この人。
「ありがとうございます。だそうだぞ、瑠斗」
「どこにあるんですか?」
「…それは答えてやれん。誰が聞いているかもわからないからな。じゃあ秘書の方に住所を送ってやるからさっさと行け。」
俺と瑠斗は一礼した後、部屋を出た。
「あぁ〜疲れた…。なんだってあの人に報告なんかしなくちゃいけないんだ。」
「お前はほとんどなにもしてないだろうが。こっちは初対面なんだぞ。」
怒られないなら今すぐにでもコイツの顔面をぶん殴ってやりたい。
「あはは、ごめんって。じゃあ、行こうよ」
「はぁ…これだから探偵は嫌いなんだ…。」