〜ファミレス殺人事件〜
あの事件から丁度一週間が経った。
ここ一週間、アイツを見ていて、あれほどの才能にあふれた人物でも、なにもかもが全て瞬時にわかってしまうわけではないということに気がついてきた。たしかに超記憶の能力こそあれどあれを事件解決に使えているのはアイツの頭脳あってこそ。そしてその頭脳は緻密な計算やわずかな時間での可能性の検討などの賜物。つまり全てが才能というわけじゃない。
…だが。俺はコイツが嫌いだ。
「ねぇねぇ、起きてる?起きてるでしょ?眉ピクピクしてるもんね?怒ってるんだよね?」
大した用もないくせに朝5時に人を勝手に起こすな…!!
「ガキは寝てろ。」
「じゃあ隣で〜」
「ふざけんな、くっつくな、こっち来るな鬱陶しい。」
人が嫌がってる事を理解してないのか理解した上でやってるのか…。どちらにしても鬱陶しいことに変わりはないが。
「え〜?やだなぁ〜、僕達の仲でしょ?」
「ただの探偵とその助手だ。それ以上でも以下でもない。それになんで俺が助手ってだけでお前なんかと同居しなきゃいけないんだ」
「名探偵とその助手は同居するものだから!それだけで理由は十分!あぁ〜事件なんかなければいいのに」
「…なくなることを願ってるのか」
「そりゃそうでしょ〜、だってそしたら平和でしょ?」
コイツ…事件の時のウキウキ具合とは別人みたいだな。
「お前のことだから『面白い事件でも起きないかな〜』とでも言うかと…。」
「ん〜それがないわけじゃないけど…。でもただ怠惰に身を任せてる方が楽だから!」
感動を返してくれ。そこは『人が亡くなるのは嫌だから』とか言っておけよ。平和なのはお前の身の周りってことかよ。
「あれ、藍那から電話だ。え?なに?うげぇ…。そういやそうだった…。」
「なんだ、事件か?」
「ある意味そうかもね。今日は地獄のクラウンズ会議〜」
まるで運動会が嫌な小学生だな。コイツ15歳だけど。
「なんだそりゃ」
「あれ、水斗が来てからはまだ無かったか…。僕がこの世で一番苦手なイベントだ。月一でクラウンズ会議ってのを開いて今後の方針とか順位に変わりがないかとか決めるんだ。あの厳格な雰囲気は僕にはとてもじゃないが耐えられない…。」
たしかに厳格という言葉からは程遠い人間だからな。仕方ないだろう。
「お前なら雰囲気とかぶち壊すイメージがあるんだが」
「流石の僕もクラウン様の前では…。」
はぁあぁああ?この?このクソガキが様付けする相手だと??一体どんな奴なんだ…。
「クラウンって誰だ?」
「クラウン様は…。クラウンズを纏めるリーダーみたいなもので、遅刻は許さない私語も許さないとにかく厳格の権化みたいな化物。それでルールを破ると5時間正座&説教…あぁ思い出しただけで背筋が凍る」
思い出すってことは過去にコイツやらかしたな?
そういうお前は怠惰の権化みたいな化物だが…。
コイツにも意外な弱点があるんだな。
「それはまぁ…。おつかれ。説教コースになることを祈ってるよ。ところで時間は平気なのか?」
「あぁっ!いっけない!ありがとう水斗!」
…言わなきゃよかったか。
というか、様付けするぐらいだから相当凄い相手なのだろうと思ったが、アイツが様を付ける理由はただただ怒られたくない一心か。
こんな子供みたいな…というか子供か。推理の時のあの饒舌さのせいで時折アイツが15歳の中坊だということを忘れる時がある。
うぅ、あんな化物のいる会議なんて行きたくない…。けど無断欠席の方が遅刻より私語よりよっぽど厳しい仕置が…。う、考えたくない…。
「遅いですね」
「ひっひぃいぃいすみませ、って…。なんだ、冬馬か。っていうか敬語やめてって言ってるじゃん。」
「しょうがないだろ敬語じゃないと怒られるんだから…。」
高峰冬馬。アイツの部屋に埃があるのをみたことがないぐらいの極度の潔癖症。順位はフィア。探偵同士は特別仲が良い訳ではない…どころか、仲が悪いところもちらほらあるが、僕と冬馬は結構仲が良いから名前で呼び合ってる。
「まあそれもそうか…。」
そんな他愛もない話をしていると、クラウン様が入室した。
「皆、席に着け。遅れはいないか?…よし。では、会議を始める。では、各自近況報告をアインスから。」
うへぇぇ…。いきなり報告ぅ〜…?
「えーっと…僕…私は、先日派遣された助手とは良好な関係が続いており、事件もつつがなく解決できております」
「ほう、あれだけ数多の助手と相容れなかったお前がか…よろしい。では、次…」
「あ〜ようやくおわった!!」
相変わらず騒々しい野郎だ。俺の二度寝を妨げるな。こんな奴無視して三度寝してやろうか
「そういえば、お前はアインスの探偵様なんだから、書類の仕事とかもあるんじゃないのか?」
「あぁ、書類の仕事は全部藍那がやってくれてるよ」
コイツどこまでいってもやっぱガキはガキだな。
夏休みの宿題親にやらせたり答え写すクソガキみたいだ。そう考えると藍那さんも藍那さんだが。
「あ、なんなら水斗がやってくれても…」
「やるわけないだろクソガキ」
そんな下らん会話をしていると電話が鳴った。
「うげ…まさか事件?ねぇ水斗助手でしょ?電話取るのも部下の仕事〜」
「お前今部下っつったか。俺はお前の下に立ったつもりはねぇよ。助手だ。…ったく、しょうがねぇな。…はい、なんでしょう。事件、ですか。どこで?わかりました。…おい、事件だぞ…って、お前なに泣いてんだ!?」
さっきの言葉に泣く要素あったか…?
「だって…だって…。水斗がぁ…。この、僕と…。対等で居てくれるって…。」
案外コイツも苦労してきたのかもな。
頭が良すぎるせいで周りからは一目置かれ、まともな友人関係もなかったんだろう。しかもクラウンズの組織は割と上下関係がはっきりとしていて厳しい。コイツもコイツなりに苦労しているのかもな。
「うわぁあぁあん!!水斗〜!!!」
「うわ、抱きつくな、服が汚れる。おい、この間にも事件が…」
こういう鬱陶しいところは本当に嫌いだが…。
可哀想な奴ではある…な。
「あぁ、そっか。事件か。やらなきゃね。この超有能な助手と!」
「さっきはあんなにやる気MAXだったのにどうしたんだよ」
「だって暑いんだもん…。事件場所が家から近いからって夏なのに歩いて…馬鹿みたい」
「だとしたらそれを承諾したお前も馬鹿だ。」
「こんなに暑いと思ってなかった!僕は馬鹿じゃない!はぁ…たしか、事件現場はファミレスだっけ?」
露骨に話変えたな…。
「あぁ、事件現場はファミレス。人が突然倒れて、その連れの男が確認すると死亡していた、とのことだ。」
「被害者の性別は?」
「被害者は女性、一緒に来ていた男性と女性が最も容疑が高い、とのことだ。」
「じゃあ後は現場をみるだけかな…。」
この情報だけで何がわかるって言うんだ…?
「ほら、着いたぞ」
「うっひょ〜!店内涼しい〜!」
ガキが過ぎる。気持ちはわかるが表現の仕方がガキ過ぎる。5、6歳の一番うるさい時期の子供みたいだ
「現場はどっこかな〜?お〜、あそこだ〜!」
もう俺はツッコむ事を諦めた。
「へぇ〜…なるほど、死因は毒か。」
「見ただけでわかるのか?」
「うん。倒れた時に一番最初に地面についたのは腕…喉元を抑えていた…残されたコップ…氷…。いや待て…砂糖…か。」
また独り言をつらつらと…。
「なにかわかったのか?」
「あぁ。犯人はその2人…一緒に来ていた2人だ。」
「やっぱりそこ2人なのか」
「あぁ。これは至って単純。」
「さぁ、推理ショーの時間だっ…♪」
また始まった。
「この場にいるのは、僕と水斗、そして被害者と一緒に来ていた男性と女性。そうだね?
まず、単刀直入に言おう。犯人は君達2人だ。
僕が目をつけたのは彼女の指だ。そう、薬指に指輪がつけられている。そして…男性の君にも、同じ指輪がついている。つまり、そこ2人は夫婦。そしてそこの女性はやけに高いバッグやら靴やらを身に着けている。そしてそこの女性は夫婦の2人より遥かに若い。とすると考えられるのはパパ活のようなものかな?それから愛人へと変化し邪魔だからといって嫁を殺した。」
「しょ、証拠は!?それに、殺害方法はなんなんだ!?」
「この人は大の甘党のようだ。ほら、鞄の中に大量のシュガースティックが入っているだろう。この人は『砂糖取ってきてあげるよ』と言われたが持参していたため断った。そのため砂糖での殺害は失敗。すると犯人はどうしたか。直接だよ。大分強引な手段をとったね。夫婦なら、あ〜んの一つや二つ疑問に思うことはない。男性はデザートを頼んだんだ。ここの店は目の前でブリュレにするサービスを行っている。つまり、火で炙る前に燃やすと有毒になる物質を入れ、それを彼女にあ〜んして、殺したんだ。」
「だ、だから証拠はっ!?」
「証拠なら…君の鞄のシュガースティックの中身の成分を調べれば出てくるさ。なんせ本来は大量の砂糖をコーヒーに入れる予定だったんだからね。余っているだろう。」
「ふざけんなっ!俺はやってねぇ!」
突如男が殴りかかってくる
「水斗」
クッソ…コイツの為なんかじゃねぇからな。この亡くなった人の為にはコイツを警察署にぶち込まなきゃいけないから仕方なく手段が被っただけだ。
幸いなことに相手はただの素人同然。勝ったな。
相手の無駄の多い拳を握り、驚いて隙が生まれた瞬間に蹴りをお見舞いしてやった。
「いやぁ〜お手柄だったねぇ水斗。」
「そういや前回は藍那さんが居たが今回は居ないよな。後処理は誰がやるんだ」
「え?水斗でしょ?名探偵は謎解きしかしないっ!書類仕事なんて助手か秘書の仕事でしょ?」
「お前…。ちったぁ自分でやれ!!」
やっぱり探偵なんて大ッ嫌いだッ!!!!