〜探偵〜
10年程前、世界は探偵の公的機関、「クラウンズ」を作った。そのクラウンズでは、計10人の探偵がおり、その中で最も優れる者は「アインス」2番手が「ツヴァイ」…。と呼ばれる。そうしてクラウンズの探偵達は世間での地位を獲得していった。その中に、日本に千年に一人の逸材と呼ばれる男が居た。
名は…春日瑠斗
その齢は僅か15歳。15歳にして超人的な脳を持ち、なんと、一度見聞きした事を忘れぬ、超記憶の持ち主ということだった。まさしく天才、才能だけで探偵という職に就いた人生の成功者。この世で一番嫌いな人種だ。
そして俺は…。今日から、そんな天才の助手になれと命じられ、ここ、クラウンズの本拠地へと足を運んだのだった…。
「おっさん誰」
「おわっ!?」
コイツが春日瑠斗…。聞いていた通り、前髪は鼻の付け根ぐらいまで長く、ジト目で、15歳らしい幼さがある。
「俺はおっさんじゃない!こう見えてもまだ25歳だ!」
「僕からすれば20も30もおっさんだよ。僕は15歳だからね。んで?君が僕の助手?」
「あ、あぁ。そうだ。不本意だが。」
「不本意ぃ?この僕の助手だっていうのに?」
「俺は探偵は嫌いだ。事件の謎を解くばかりで、誰かを守ることができない探偵なんざ…。」
「そっか。じゃあ僕の事も嫌いだね。僕はめんどくさがり屋だから。別にやめたきゃ辞めればいいよ。前の奴らみたいに。そもそも僕に助手を持ちたいなんて願望はないしむしろ邪魔だからね。」
「あぁそうかよ。」
なんて野郎だ。どうせ生まれた時から天才で人生イージーモードで生きてきたんだろ。そんな奴にはなにもわかりっこないさ。
「まあまあ、そう険悪なムードにならないで。」
「貴方は…。」
たしか秘書の…。
「私は瑠斗様の秘書をやっている藍那と申します。瑠斗様は気難しいお方ですが…。仲良くしてください」
「はぁ、なんで僕に助手なんて…。まあ自由にしたらいいけど。あっ、そっか!じゃあ今日の事件代わりに解決してきてよ」
名案を思いついたとでも言うような口ぶりで俺に命令するな。
「ふざけるな。俺は助手だろ。お前が探偵だ」
「そっか、僕より頭悪い奴に僕の代わりは務まらないか。ごめんごめん」
こんのクソガキ…。
「そういえば名前聞いてなかった。名前は?」
「…空。空水斗。」
「へぇ…。ん〜助手って認められるような何かが欲しいなぁ〜そうだな、何かオヤジギャグでもやってもらおうかな。」
「やらねぇ。」
「じゃないと認めないよ?」
「結構だ」
そんな下らない会話をしていると、突如電話が鳴った。するとノールックで藍那さんが受話器を取った。
「え?あ、はい…わ、わかりました。…瑠斗様、出番です」
「えぇ〜…何?事件?」
「殺人事件が横浜で起きたようです。現場が不自然との事で…。」
「へぇ〜…殺人事件、ね。依頼してきたのは誰?」
「そんなことどうでもいいだろっ!」
頭より口が先に動いた。人が死んだという報告をされたのにも関わらず動くのを渋るコイツを見て、苛立ちが勝った。
「うるさい、黙れ。お前は僕のやり方を知らないだけだ。んで?依頼してきたのは誰?」
「えーっと、地元の警官だそうで、随分とまあ慌てた様子で電話をかけてきました。」
「興味が湧いた。…?来ないのか?助手なんだろ?」
この男、事件を解決するか否かを興味の有無で判断している。これが本当に世間から敬われる探偵なのだろうか?
「とりあえず見ないことには始まらないな。しょうがない。ついていこう」
それから俺達は最速距離で横浜へと向かった。
「ここが事件現場か…。ふぅん…。随分と面白い現場だ。コイツの職業を教えろ。ほら、助手なんだろ。」
「近辺の工場で勤務し、ここ最近はここらへんでなにやら危ない仕事にも手をつけていたとのことだ。」
「なるほど、死因は?」
「死因は未だ詳しいことはわかっていないそうだ。ただ、目立った外傷がないことから溺死ではないかと言われている。司法解剖すればもっと詳しいことがわかるだろう。」
「へぇ…溺死、ね。面白いなぁ、この事件。」
「わかったのか?」
「ん〜、なんとなくはね」
化物のような頭の回転速度だ。本当にこれだけの情報でわかるもんなのか?
「なぁ、水斗。」
っ…!?コイツ、今…名前で…。
「ここを見ろ。被害者の指を。ほら、爪が抉れてる。血こそ洗い流されているが…。まるで…剥がされたかのような。」
「そんな…つまり…。」
「そう結末を焦るな。事件はそこにある。そう、今も事件は続いている。この単体の事件を解決したところでなにも終わりはしない。後でまとめて解決してあげよう。」
「どういうことだ?」
「この事件はそんなに単純じゃないって意味だ。君も災難だったね〜、初めての事件がこんなものとは。…因みに聞いておきたいんだけど…。君、水泳とかやってた?」
「ちょっとだけだが…。なんでそんなこと聞くんだ」
「ちょっとね」
本当に何がしたいんだコイツは
「じゃあ次の場所へしゅっぱーつ!」
「お、おい。どこに向かうんだ。」
「次の犯行が起きるだろうと推測される場所。」
っ…!もうそんな目星をっ…!?
「さあ行こうさあやろう!面白い事件なら大歓迎だ!」
あれからどれくらい歩いたと思ってるんだ…。
「あとどれくらいで着くんだ…?」
「もうすぐ、ほら、あそこ。」
っ…!
「人がっ…!」
「ほら、この人も爪が剥がされた跡がある。これが意味することは?」
「な、なんだ…?組織がらみだって事はわかったが。」
「いやぁ〜しっかし君は馬鹿だね。警察内部でも相当邪険に扱われただろう。今までも馬鹿か身体もまともに動かん馬鹿かってとこだったけど君はまだ身体が動く大馬鹿ってとこだ。」
「いきなり侮辱してなんなんだ」
イキリ散らかしやがってクソガキが…。
っていうかコイツに警察から派遣されたってこと話したっけか…?
「そう思わせることが犯人の目的だって言ってるんだ。細かいことはいい、警察に連絡してくれ」
とりあえずは人の為だ。コイツに命令されたからなんかじゃない。仕方なく、だ。
「連絡を入れた。あと十数分でこちらに来るだろう」
そういうと、なにか考えるような素振りをした。
「…間に合わない。次の被害がでる…。すると…。」
顎に手を当て、死体を眺めながら独り言を狂気的なまでに連ね始めた。気味が悪い。
「予想は的中した…犯人より先…いや…。もう…。」
「どういうことだ…?」
振り向くと、俺らの周りに囲むように半グレと思われる連中がいた。
「僕に考えがある。海に飛び込むぞ」
「はぁ!?正気か!?」
「いいから!これでなんとかなる。」
「お前と心中だけは御免だぞ」
急に上着からゴーグルを取り出した。コイツの上着は四次元ポケットかなにかか?
「僕だって御免さ。いいか、3, 2, 1!」
その瞬間、海へ飛び込んだ。コイツ、最初にこの事態を想定して水泳経験があるかどうか聞いて…。
指…?右…右へ泳げってことか…?頷いている…。コイツは普通に目を瞑ってるのに見えてるかのような動きだ。指で上を指した。上がるのか…?
「ぷはぁっ!あ〜しんどかった!上がるよ。」
「全く…お前は最初からこんな事態を想定していたのか?」
「うん。海を見たときからかな。」
じーっと海を見つめている。不気味だ。
「なにしてるんだ?海なんかじーっと見つめて。」
突如、悲鳴が響いた。
「…遅かった。向かうよ」
必死で走った。水のせいで身体が重いから走る速度が普段より遅い気がする。
「おい、まだつかないのか。」
「はぁ、これだからせっかちは…ほら、あそこ。人が倒れてるだろ。そして、悲鳴が聞こえたのに周囲の人影は…。あ〜もう面倒くさいな…。」
「どういうことなんだ?」
「うるさい、黙れ。隠れるぞ。」
口もとをコイツに抑えつけられながら促されるまま物陰に隠れる。すると…。
「おいおい、本当に居ねぇぞ探偵」
「案外推理できてないだけだったり?」
「それはないだろ…。なんてったってあの天才、春日瑠斗だぞ。」
「でもアイツらに処理させたんだからもう海の底にいるはずだよねぇ?」
「あれは…。」
小声ではあるもののこの状況で独り言は良くないのではないか…?
「どうするんだ。」
「いや、もう必要ない。情報は全部揃った。あとはアイツらの身元を洗うだけだ。帰るぞ。」
「連続殺人は?」
「俺らが居なくなったならもうやる理由はない。最初から向こうの狙いは俺だ。」
ますますどういうことかわからないんだが…。これだから天才は嫌いだ。自分にわかるようにしか言わない。
「犯人はアイツら2人だけ!?じゃああの追い詰めてきた奴らはなんだったんだよ。」
「ただの雇われだ。半グレだから大した金も払われてないだろうな。じゃあ、さっき言った人間を明日ここに集めてくれ。あの2人の下調べももう終わっただろう?」
翌日。
「さぁ、推理ショーの時間だっ…♪」
「諸君、集まってくれて感謝しよう。これから僕の推理ショーが始まる。皆、聞き逃さないように。まず…ここにいるのは、僕と、この僕の秘書、藍那と一応助手の水斗…。それからその場にいた警官の一人と、ここら一帯を取り仕切るヤクザの組長、それからその組の最底辺の奴が一人。犯人はこの中にいる。あぁ、もちろん僕、藍那、水斗は除いてね。それに、この部屋の外には数人の警官がいる。犯人は終わった後即刻引き渡す。」
「おい、どういうことだよ」
まず最初に声を荒げたのはヤクザの組長だった。
「君にはこの付近で起きた杜撰な事件ぐらいは把握しておいて欲しいからね。それに…君は知っておいた方が得をする。黙って聞いておいた方がいい。」
諭すような口調で言い聞かせる。15歳とは思えない口ぶりだ。
「では…。推理を始めていこう。まず、前提を確認しておこう。死体の死因は、溺死ではない。司法解剖でわかったらしい。死因は溺死ではなく、臓器を取り除かれたことによる失血死…。ということだ。さらにそれを取ったのはド素人。」
「そうなのか?あの死体は一見すると溺死にしか見えないが…。」
「水斗、お手柄だ。そう、一見すると溺死にしか見えない。なんなら、死体だという前提条件が無ければ死んでいるとすら思われないだろう。さて、ここで一つおかしな点がある。わかる?水斗」
おかしな点…?ここまでの話でおかしなことなんて…。あ…。
「そう…か。最初電話がかかってきた時…」
「そう!その通り!最初に電話を掛けたのは地元の警官。だが彼はすごい慌てていたらしいじゃないか。彼は一目で人が死んでいると見抜いたんだ。倒れている、じゃなくて。でも…。こう考えると自然にならないか?最初から犯人は僕にちょっかいをかけたかった。すると、単純に見えてくる。最初からその警官はその人が死んでいることを知っていてわざとらしい慌てた様子で僕達に電話を掛けた。すると、最初から僕に手をかけるつもりだったんだから用心棒達が雇われていたのにも納得がいく。」
すると、組長が声をあげた。
「用心棒?そんなのが雇われていたのか?」
「あぁ。僕らが2番目の死体現場に着いた時、大量の半グレ連中に囲まれたよ。そして、僕達は海へ飛び込み奴らの攻撃を回避、その後普通に地面へ上がった。その時、海水がずどーんと来る感覚を感じた。そう、塩の濃度が通常より濃かったんだ。なんでだと思う?」
濃かった…?身体が…重い?
「あぁ、誤魔化すのか」
「そう、海の塩の濃度を濃くすることで水を重くしたんだ。そして死体をできるだけ重くすることに成功した。そしてそんな事を全てできるのは…。
そこの2人だけだ」
「おい待て!俺は警官だぞ!」
「そ、そうだ!俺だって組に入ってるんだから勝手な行動はできねぇ!」
容疑者達が声を荒らげる
「本当にそうか?ではよく考えてみることにしよう。まず僕への依頼権を持ってるのは警察だけだ。この時点で一般市民は省ける。そして一番最初に僕に連絡した警察はソイツだ。つまりなにが言いたいかわかるな?そう、最初から死んでいると知っていて連絡した。そして大量の半グレを用意できる人物は…。組長と、そこの組の最底辺の奴の2人になる。だが組長レベルなら自分の組の人間を使えばいい。わざわざ金を出す必要も僕に手をだす必要もない。ならば最底辺の奴はどうか。自分も半グレみたいなものなのだから雇うのも簡単だろう。というわけでそこ2人の共犯、それが事件の真相だ」
「しょ、証拠はあんのかよ!」
そのセリフは犯人しか言わねぇヤツだよ。
「証拠ならあるさ。なんのための僕のピアスだと思ってるんだ。"僕は"、一度見聞きしたものを忘れないが他の奴はそうじゃないし言葉は絶対じゃない。
こんな時の為に僕のピアスは完全防水の超小型カメラになっているんだ。ほら、この映像。君たち2人が死体の前で談笑しているところだ。耳だけ出して撮影していたんだ。」
その映像を見た途端、組長が地に響くような声で言い始めた。
「あぁ…。お前…。もううちの組からでてけ。お前みたいな馬鹿はうちの組に相応しくねぇ。おい、探偵さんよ。とっととこの恥さらしを豚箱にぶち込んでくれや。もう同じ空気も吸っていたくねぇ」
「じゃあこれにて事件は閉幕!後処理はよろしく〜藍那〜」
「はい。お任せを」
すごいなあの人。嫌味一つ言わねぇ
「さ、行くぞ。水斗」
一つ気になっていた疑問をぶつけた
「なぁ。アイツらが臓器を取ったのってなんでなんだ?」
「あぁ、説明し忘れてたよ。恐らく裏の人間に売り捌いて一儲けしたかったんだろ。状態が悪くて高額にならず腹いせで僕に八つ当たりした…それが真相だ。」
「下らんな…。そういえば行くって、どこに」
「はぁ?僕達の家に決まってるだろ?」
達…?
「おい、ちょっと待て。それって…。」
「君の家はさっき売り払っておいたよ。一緒に住もう!あのシャーロック・ホームズとジョン・ワトソンも同居してたんだから!やっぱり名探偵と助手は同居しなきゃ!」
「はぁあぁあぁ〜!?!?」
少し見直したと思っていたのに…。
やっぱり探偵なんて大ッ嫌いだッ!!!!




