仰る通りですので
『あんな企業はクソブラック企業です!!』
そう言った人は首を吊るのである。
悪いクソブラック企業に務めたせいで、精神を摩耗してしまい、自決を選ぶのである。
◇ ◇
「舘山ぁ?……誰だ、そいつ?」
このクソ暑い夏のロッカー室は、……ヤバイ。だが、それ以上に会話がヤバイのもある。
「ニュースを見なかったんですか!?舘山さんですよ!!」
「知らない奴が自殺するニュースなんか見ねぇよ」
「2年前、一緒に働いてたじゃないですか!!同じ班で!!矢木さん、思い出して!!」
小湊くんはその人を知ってるだけに、ニュースを見て驚いてあげるのは優しいくらいではあるが。そんな奴は知らんとした口調で着替えながら、矢木は答えてしまう。
だって、現状
「どこで死んだか知らん自殺した奴より、今働いてる俺達の方が大変だよ」
いや、そうだけど。そりゃそうだけど。もうちょっと、言葉を選びましょうよって、……どーやって口にしたらいいか分からん、小湊くん。
「んじゃ、行くわー」
着替えが終わっていつもの職場に向かう、矢木。靴を履き替えてから、それに追従する小湊くん。なんでみんな、舘山さんの事を覚えてないの?ここがブラック企業だって、日々愚痴っていた人なのに。
「「おはよー」」
昔、ここに勤めていた人が自殺をした。
しかし、自分達は
「俺は忙しいんだよ」
その人を気に掛けてやるほど、暇ではないのだ。仕事に集中しては
「「おつかれーーー」」
全力で配達をし終えて、矢木達は定時上がりをするのである。
「ちょっとみなさーーーん!!僕、まだ、配達してるんですけどーー!!このままじゃ、僕、放棄隠匿やっちゃいますよーー!!いいんですかーー!?いいんですか!?この局にメディアが来ますよ!」
しかし、小湊くんはまだ配達が終わっていない。最近のネットニュースの事にも触れながら、先輩達に救援を求めるのであるが。……こーいう態度だから、気に喰わない矢木達。
「そーだな。メディアが来ちまうなー。お前が職場で死ぬからな」
「テメェの水筒を奪って、この灼熱の夏の中に放り込めば、普通に死ぬからな」
「君の放棄隠匿なんて…………ははははは、君が死体遺棄になるの間違いですよ」
矢木達が笑顔で社会的な地位の抹殺を含めた事まで言ってくる。
悪魔だよ。この3人。こいつ等、この暑さの中で、こんなか弱い配達員である僕を助けようという気がないのか!?それより、死ねとか言ってくるの、酷すぎるよ、このブラック企業!!
さっさと配達終わらせて、会社に戻って、冷房で涼んでいるのはズル過ぎる!!
「ここはホントにブラック企業ですぅぅっ!!」
小湊くんも涙ながら訴えるのであるが、……。まぁ、小湊だしー……。という評価の男である。
どーでもいい。というか、こーいう奴に限って
「小湊ー。お前、今朝から舘山?って奴の自殺の話ばっかりしてよー」
「誰だそいつ?俺達、覚えがねぇーぞ」
「人の死に触れるのは構わないのですが、…………そのね」
常日頃からネットニュースなんかの話題を喋りまくって、仕事や配達を疎かにしている君を、こんな暑い日に手伝うわけないでしょうが…………
「うっ…………仰る通りです」
「一番、舘山?って奴の自殺を利用しているぜ。お前が最低だと思うぜ」
「小湊が覚えてるのも、同じ仲間だったからだろ?」
「葬儀に参加するのであれば、お手伝いしましたけど。そうでもないなら、語らないのがせめてもの供養じゃありませんか?」
じゃーーーっ………という形で、矢木、山口、実の3人は定時で帰っていく。小湊くんは45分の残業である。
◇ ◇
『舘山くん。君が自殺して悲しんでいる者達はいたよ』
ここは死者の魂を集める場。天国か地獄か。その分かれ道。
『君の言う通り、あのブラック企業の中でも、その死に悲しむ者がいた。名を読み上げよう、小湊』
『だ、誰だそいつは!!?実さんとかなら、覚えてるんですけど!!』
『えっ……ああっ…………そ、そうなんだ……友達じゃないのね』
友達でもない、名前も良く知らない奴が、君の死に悼んでいたと告げられたけど、ホントに誰だか分からなかった。
そんな舘山の魂は、
『天国に行くといいよ。小湊って奴は、地獄行きだろうから』