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プロローグ 星を見る者

  プロローグ  星を見る者

――世界の“頂点”にいる人間は、案外つまらない顔で生きている。


千銅 十夜とおや、19歳。

世界的巨大企業「センドウ・グローバル・ホールディングス」の一人息子。

生まれた瞬間から金は唸るほどあり、衣食住は常に最高級。

資産運用で株を動かせば、国家予算が一国分動くレベル。

それでも、彼の家族はどこまでも温かかった。


「十夜、働きすぎは体に悪いよ?」

「いい投資先を見つけた時は、まず私たちと一緒に楽しもう」

「君が笑ってくれるだけで、家族は嬉しいんだよ」


父も、母も、姉も、弟も、十夜のことを“道具”として見たことはなかった。

それは財閥の後継者にしては、あまりにも奇跡的で、幸福なことだった。


十夜もまた、自分の人生に不満はなかった。

贅沢はほどほどに、日々の営みと未来の成長に喜びを感じていた。


そんな彼が唯一、心の奥で求めていたもの――

それは、“この世界を飛び越えるような何か”、だった。


だからこそ、民間宇宙旅行第一号の搭乗者として選ばれたとき、

十夜は笑って言った。


「――たまには、地球の外から“人間”ってやつを見てみたいんだ」


飛び立った宇宙船は、予定通りの軌道に乗った。

地球は美しかった。月は神秘的だった。火星も、計器越しに輝いていた。

宇宙での食事、重力のない遊び、どれもが新鮮で、心を震わせた。


――だが、帰り道にそれは起こった。


加速装置の異常点火。姿勢制御のエラー。通信不通。警報。慌てる乗員。

そして彼の目の前で、機体の一部が火花を散らす。


「……マジかよ、ここで?」


他の乗客は泣き叫び、神に祈り、絶望の声をあげていた。

だが十夜は、違った。


思い出すのは、家族の笑顔。

妹のいたずら。姉の紅茶。父の背中。母の優しい手。


「最後に見たものが……地球と星なら、悪くないな」


そして、ゆっくりと目を閉じた。


――その魂が、異世界に向かって落ちていくとも知らずに。


そして彼の意識は、宇宙の闇へと溶けていった。



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