第二話 リュウコサン
竜骨の提案に一瞬心が揺らぐが、自分がここにいる社長命令を思い出し、頭を振る。
「いえ、ご案内させていただきます。」
(今日は帰ったら、ラーメンと餃子にビールを決めよう。目一杯自分を甘やかそう。)
心労に対する御褒美を心に決め、武は竜骨を先導した。
「…」
竜骨はてくてくと廊下を進み、手近なドアに手を掛けた。
サラッと引き戸が動き、部屋へ入っていく。
「…」
竜骨は首を巡らせ、また廊下に出ると次の部屋へ入っていく。
その後を武は付いていく。
正直、この家は何もないのではないのではないかと武は思っていた。
竜骨と内覧に入った部屋の時のような、嫌な感じがしないのだ。
この家での怪奇現象も聞かない。
竜骨は浴室へ向かった。
「……」
空の洗濯機スペースを眺め、すぐに浴室を覗く。
続いてキッチン、客間の和室。納戸。廊下収納。トイレ。
1階すべての部屋を見終わり、2階へ上がっていく。
「…ここ、亡くなった人間て妻だけ?」
「え?はい。そうです。」
竜骨の突然の質問の意図が読めず、武はいぶかしみながら返事をした。
2階は書斎、子供部屋、主寝室、トイレ、物置だった。
竜骨は別段足を止めず、すべての部屋を見て回り、「もういいや。」と1階に戻って行った。
「あの、どうでした?」
「あー、まぁ…問題ないと思う。」
心ここにあらず、と言った竜骨の返答に武は首をかしげる。
「でも、ペットはやめた方が良いかな。特に猫。」
「?…何でです?」
武が聞くと、竜骨は皮肉げに口の端を吊り上げた。